プログラミングスクールの人気が高まっている。
撮影:今村拓馬
コロナで改めて、プログラミングスクールが人気を集めている。
新型コロナウイルスの影響で「手に職をつけたい」というニーズの高まりから、プログラミングスクールの中には、問い合わせが前年比1.5倍に増えたスクールもある。
一方でコロナショックによる雇用環境の悪化から、スクールの受講生からは「就きたい職を見つけるのは難しい」という声も聞かれる。
プログラミングスクールを取り巻く現状を探った。
「将来の不安」からの受講増える
プログラミング学習者104名に行ったアンケートでは、コロナ後に「スキルを身につけたい」とプログラミング学習を始めた人が増えている。
出典:侍エンジニア塾アンケート
マンツーマンのオンラインプログラミングスクール「侍エンジニア塾」は、コロナ禍で受講生を増やしている。
2020年4月の無料体験レッスンの受講者数は、前年4月と比べ149%、2020年5月も前年比145%だった。
プログラミングスクールの運営会社「侍」の木内翔大社長は、「コロナ前後で受講を検討する理由も変化した」と話す。
「コロナ前までは、受講の理由として『転職・独立したい』が最も多かったのですが、4月以降の受講生では『スキルを身につけたい』が最多になりました。
『今の仕事に将来の不安がある』という理由も増えており、今すぐには転職できなくても、将来に備えてスキルを身に付けておきたいという方が多いです」(木内氏)
「転職コース」が人気
テックキャンプを運営するdivの新保麻粋氏。
撮影:横山耕太郎
2014年の開校からの累計受講者が2万人を超える大手プログラミングスクール「テックキャンプ(旧TECH::CAMP、TECH::EXPERT)」も、オンライン講義への切り替えを進め、受講者を伸ばしている。
「2015年に転職先をあっせんするコースを設けてからは、転職コースの受講生は、年々倍増しています。エンジニア就職をしたい人に加え、2019年頃から副業のためプログラミングスキルの習得を考えている人も多くなってきました」
大手プログラミングスクールを運営するdiv取締役・新保麻粋(しんぼ・まいき)氏はそう話す。
新型コロナの影響で、4月には申し込み数が落ち込んだが、オンライン受講への切り替えも進み、7月にはコロナ禍前の水準に持ち直したという。
エンジニア、売り手市場が続く
職業別の求人倍率。「技術職(IT・通信)」の求人倍率は他の業種よりも高いが、コロナショックの影響を受けている。
出典:doda
ただしスクールを取り巻く事業環境は一変している。
プログラミングスクールでスキルを身に着け、転職に生かそうとする人は増えているものの、コロナショックにより転職市場は厳しさを増しているからだ。
パーソルキャリアの転職サービス「doda」調べでは、2020年7月の転職希望者1人あたりの求人数を示す転職求人倍率は、前年同期比マイナス0.87ポイントの1.61倍。求人数は前年同月比68.7%と3割超も落ち込んでいる。
前出のテックキャンプによると、新型コロナの影響で求人が減少したことを受け、7月からは40代以上の転職コースへの受け入れは中止しているという。
dodaによる職種別の有効求人倍率でみると、技術職(IT・通信)は6.60倍。平均を上回っているものの、2020年4月の10.71倍に比べると、大きく減少している。
「スクール出ただけでは希望の職につけず」
プログラミングスクールの受講生の中には「スクールを出たとしても希望通りの転職ができるとは限らない」と話す人もいる(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
とりわけ、未経験エンジニアの転職が難しくなっている。
大学卒業後に営業職をしていた20代後半の女性Aさんは、「自分なりの武器を身につけたい」と会社を辞め、2020年春から約60万円払いプログラミングスクールに通い始めた。
「未経験の受講者が多かったのですが、授業について行くのが大変で、同期の受講生から遅れてしまいました。ただ受講生の中には、テストの時に過去の答えをコピーして提出している人もいて『卒業することが目的になっているのでは』と思うこともありました」
Aさんが通っていたスクールでは、就職先を紹介してくれることになっていたが、紹介される会社や職種は、Aさんが望むものではなかったという。
「自社でアプリ開発などをしている企業に行きたかったのですが、SES(ITエンジニアの技術者派遣)が多かったです。自社開発に挑戦したかったので、条件に合う企業を見つけるのは難しいと思いました。スクールを出ただけではスキルが足りず、やりたい職につけるわけではないと思い知りました」
いきなり大手事業会社は「1割程度」
侍エンジニア塾を運営する「侍」の木内翔大社長。
撮影:横山耕太郎
プログラミングスクールの受講生の希望と、転職先のミスマッチについて、スクール側はどう考えているのか?
前出の侍エンジニア塾の木内氏は、「いきなり大手事業会社にエンジニアとして入るのは難しい」と説明する。
「スクールを卒業してすぐに、企画や制作できるような事業会社に転職できるのは、1割程度だと感じています。ただ、最初は下請けの企業であっても、そこからフリーランスや副業につながる可能性も大きい。
転職してはじめは年収300万円程度が普通ですが、1年で年収500~600万円を目指せるのがエンジニアの世界。下積みが短くても稼げる・キャリアアップができる職は、珍しいと思います」(木内氏)
エンジニア「甘い世界ではない」
「TechTrain(テックトレイン)」を運営する小澤政生氏。「高いスキルを持つエンジニアは不足している」と話す。
撮影:横山耕太郎
「『自由に、楽して稼ぎたい』とプログラミングを始める人が、ここ数年増えてきましたが、そんなに甘い世界ではありません。企業が本当に欲しがっている高いスキルのエンジニアは、まだまだ少ない。
エンジニアとして求められる、開発力や自ら学ぶ力を身に着ける必要があります」
有名企業のエンジニアから実務が学べるオンラインコミュニティ「TechTrain(テックトレイン)」を運営する小澤政生氏(TechBowl社長)はそう話す。
テックトレインは2019年5月にサービス開始。企業が開発課題をコミュニティに公開し、プロのエンジニアを目指す学習者が、課題に沿って調べながら自ら開発を進める。企業で活躍するエンジニアから無料でフィードバックを受けられ、エンジニアを採用したい企業側との接点にもなっている。
小澤氏は、エンジニアとして自らスキルを磨く力が大切だと話す。
「新型コロナの影響もあり、駆け出しエンジニアの求人はかなり減っていると感じています。企業が求めているレベルを知り、実践を積みながら世の中で通用するスキルを身に着けることが大事です」
(文・横山耕太郎)