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Airbnbブライアン・チェスキーCEOは、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃、なんとか会社を存続させるべく「10年分の決断を10週間で下した」ような気がする、と言う。
- Airbnbのブライアン・チェスキーCEOは、コロナ禍の影響により業績が8週間で80%も下落するという経験をした。
- Airbnbや同社のホストの行く末に影響するような「10年分の決断を10週間で下さなくてはならなかった」とチェスキーは振り返る。
- 民泊市場の回復を受け、Airbnbは長年の検討課題だった上場に踏み切ることを決めた。Business Insiderはそのチェスキーに独占インタビューを行った。
2020年春先の状況に比べれば、上場企業の経営は朝飯前とは言わないまでもはるかに簡単だろう、とAirbnb(エアビーアンドビー)CEOのブライアン・チェスキーは考えている。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まると、Airbnbの業績はすぐさま急落した。世界の国々が国民の移動を制限し始めたからだ。
ものの数週間で、チェスキーはAirbnbの将来や、同社のサービスで生活の糧を稼いでいる何十万ものホスト(物件オーナー)の未来に深刻な影響を及ぼすような意思決定を次々に下さなくてはならなかった。
チェスキーがこのとき直面していた課題はかつてない深刻なものだった。Airbnbの経営が悪化する速度を考えればなおさらだ。チェスキーは他の経営者に助言を求めたが、こう返されたという。
「8週間で収益の80%を失い、コロナ危機をZoomで乗り越えなくちゃならなかった旅行会社の舵取りに比べたら、そこらへんの上場企業のCEOの経験なんて大したことない、と言われました。
こんな状況は前例がありません。だからAirbnbは強くなれた。今後どんな課題やチャンスが訪れても、立ち向かえるでしょう」
チェスキーらが2008年に創業したAirbnbは、新規株式公開(IPO)に必要な書類を非公開で提出したと8月に発表しており、今後数カ月で上場する可能性がある。
上場計画の詳細についてはIPO前の「沈黙期間」があるためコメントしないとしたものの、同社のホームシェアリング事業の状況について、コロナ禍が今も続くなか答えてくれた。
これまでチェスキーは、コロナ禍でAirbnbの収益がどの程度落ち込んだかを明らかにしてこなかったものの、5月時点では同社の2020年の収益は前年比50%減になると見込んでいた。ブルームバーグが2020年8月に出したレポートによると、同社の第2四半期の収益は67%下落している。
チェスキーが下した「10年分の決断」
2020年春、世界の国々が経済封鎖を敷き、新型コロナの感染拡大を阻止しようとするなか、Airbnbの収益は急落した。新規予約件数が激減しただけでなく、コロナが理由ならホストのポリシーには反するがゲスト(利用者)は予約をキャンセルしてもよい、としたのだ。
チェスキーはこの他にも、何百人もの契約社員や正社員の25%を解雇し、マーケティング予算を凍結し、高金利で20億ドルを調達するなど、コロナ禍で矢継ぎ早に重大な意思決定を下していった。
「10年分の決断を10週間で下した気分」とチェスキーは表現する。「この10週間とか12週間で下した意思決定ほど深刻なものは、これまでの人生でも経験がないでしょうね」
チェスキーが下した意思決定の中でも特に重要なのは、一般消費者向けの短期宿泊という主力事業に改めて集中していく、というものだ。
コロナ前のAirbnbは、利用者が同社のサービスを通じて航空券を検索・予約できる機能の開発を行っていた。ホテル予約にも手を出していたし、プレミアムな宿を求める旅行者向けの特別サービスも開発済みだった。
「基本に立ち返るべきだと言ったんです」とチェスキーは言う。「何に注力すべきかを明確にしたからこそ、われわれは復活できたんだと思います」
この夏休みシーズンは、これまでAirbnbが経験したどんな年とも違った、とチェスキーは言う。従来人気のあった海外旅行や大都市は避けられる傾向だったのに対し、自宅に近い田舎のコミュニティには人気が集まった。
こうした動きは秋になっても続いている。多くの利用者が求めているのは、短い期間でも家と同じように過ごせる宿、つまりキッチン付きで、ペットが同伴できて、プールがあるような宿だ。
他にも新しいトレンドが生まれ始めている。親戚の近くで暮らすためAirbnbの宿を利用する人もいる。学生の中には「ポッド」と呼ばれる小規模グループを作る目的で賃貸物件を契約し、共同生活を送りながら一緒に勉学に励む動きもあるという。
「ロードスクーリング」と呼ばれる遠隔学習を子どもにさせる家庭も見られるようになった。多くの学区で遠隔授業が行われているので、旅行先からオンラインの学びの場に参加させるのだ、とチェスキーは教えてくれた。
「コロナ禍で働き方も、旅行の仕方も、生活様式も変わってきています」とチェスキーは言う。
Airbnbの回復は地域ごとにまちまち
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Airbnbの事業や短期賃貸市場は、5月初旬から回復基調にある。民泊の予約件数(市場の重要指標)は、4月に底を打ってから5月末までに127%上昇した。一方Airbnbでは、3月上旬以降初めて、100万泊相当の予約が7月8日に入ったと発表した。
チェスキーによれば、どこでも同じように回復しているわけではない。出張の件数はいまだ戻っていないが、娯楽としての旅行は急増している。海外旅行は引き続き低調だ。中南米やアジアの各地域の事業も依然として弱含みのままだが、ブラジル事業は回復しつつあるし、アメリカ、イギリス、フランスのような国々の国内旅行は「非常に堅調」だと言う。
「これらの国々では出入国者数は少ないですが、内需が強いので、事業全体としては活況と言えます」とチェスキーは言い、「アメリカの好調さは驚くほどです」と続けた。
Airbnbは需要の変化にうまく乗っている。旅行者数は全体的に減っているが、1週間から2カ月といった、より長期の予約をする人が増えているという。
コロナ禍で娯楽や外食の選択肢が狭まり、都市生活も存分に楽しめないなか、都市に住む人々は離れた場所へ一時的に引っ越している。
だが、そのような目的地で常にホテルの予約がとれるわけではない。仮にとれたとしても、そういう場所へ行く人はキッチンなどの設備の付いた、自宅気分で過ごせる宿に滞在したいと考えているのだ、とチェスキーは言う。
「予想外のことではありますが、こうした新しい事例のおかげで業績は回復しています」
2020年の年明け時点では、Airbnbは年内にも上場する計画だった。パンデミックが発生しこの計画は一時凍結となったが、業績が回復したので上場に向けた準備を再開した、とチェスキーは言う。同社が満を持してS1と呼ばれる上場申請書類を提出したのは先月(2020年8月)のことだ。チェスキーは言う。
「市場の回復力にいい意味で驚かされました。だから寝かせておいたS1を提出したんです。株式市場の準備さえ整えば、Airbnbも準備はできています。株式市場にAirbnbを迎える準備がどれくらいできているかは、これから存分に知ることになるでしょうね」
(翻訳・カイザー真紀子、編集・常盤亜由子)