フィスカー(Fisker)の電動SUV「オーシャン(Ocean)EV」。時価総額で世界最大の自動車メーカーへと飛躍したテスラとはまた別の思想、ビジネスモデルのもとで開発されている。
提供:Fisker Inc.
- テスラは従来型の新規株式公開(IPO)で上場し、10年かけてプロダクトの販売にこぎ着けた。
- ニコラ(Nikola)とフィスカー(Fisker)はそれより速く、ブランクチェック会社を利用したIPOでより大きな資金を調達し、しかもプロダクトの生産を急ぐため既存の自動車メーカーと手を組んだ。
- ニコラは最近、米ゼネラル・モーターズ(GM)との戦略提携を発表。フィスカーもカナダのマグナ(Magna)との協業を計画している。
テスラはこの10年間で自動車市場に参入したメーカーで最初の成功例だ。しかし、新興のライバル企業と経営手法と比べてみると、イーロン・マスクのやり方はいまや時代遅れと感じられる。
電気自動車(EV)ビジネスへの進出がとんでもなくリスキーな挑戦と考えられていた17年前、テスラは産声をあげた。勢いそのままに、2010年にはIPOを果たして2億6000万ドルを調達した。それでも、最近のEVスタートアップが数億ドル、数十億ドルの資金調達に成功していることを考えると、控えめな金額にみえる。
テスラは当時、自動車を生産し、販売し、売り上げ(ときに利益も)をつくる必要があった。ここに至るまでの足取りは重く、数々の危機にも直面した。しかしついに2020年、株式市場で目覚ましい躍進を遂げ、テスラは時価総額で世界最大の自動車メーカーにのし上がった。
「特定買収目的会社」を利用した迅速な資金調達
フィスカー(Fisker)が発表した電動SUV「オーシャン(Ocean)EV」。
出典:Fisker Inc. YouTube Official Channel
新興自動車メーカーはテスラのサクセスストーリーに学びつつ、少しでも予測可能な道を歩もうとしてきた。
ヘンリク・フィスカーは2010年代にテスラの競合となるフィスカー・オートモーティブを設立。2013年に破産の憂き目にあうも、新たなビジネスモデルを引っさげて舞い戻った。新ブランドは「フィスカー」とした。
フィスカーは2020年前半に、プライベートエクイティ会社アポロ・グローバル・マネジメントが設立した特別買収目的会社(SPAC)を通じてIPOを果たした。
実質的な合併に等しいこのスキームを使って、フィスカーはニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場。評価額は30億ドル(約3150億円)となり、2022年に生産開始を計画している「オーシャン(Ocean)EV」開発のための資金10億ドルも得た。
(ひと言で言えば、SPACは未上場の企業を買収するために設立されるファンドに相当する。IPOするのはSPACだが、その役割は投資資金の調達のみで、最終的には買収された企業が社名変更して上場することになる。この形なら、監事を務める投資銀行が投資家向けに行ってきた上場説明会を省くことができる)
フィスカーはその後、世界最大級の自動車部品メーカーであるカナダのマグナ・インターナショナル(Magna International)と、設計・生産に関する基本合意(MOU)を締結している。マグナは独BMWやジャガー・ランドローバーの受託生産も行っている。
EVトラックスタートアップのニコラも同様の手法で株式を公開したが、こちらは多少ひねりを効かせている。
今年6月にSPACを介して上場を果たし、あっという間に130億ドル(約1兆3650億円)を調達。ピックアップトラックからセミトレーラーまでさまざまな車種を発表しているものの、生産開始間近といえる車種はひとつもない。
ニコラ創業者のトレバー・ミルトンがEVピックアップトラック「バジャー」について解説する。
出典:Nikola Motor Company YouTube Official Channel
そんなニコラが9月8日、GMとの戦略提携を突如発表した。アメリカ最大の販売額を誇るGMは、ニコラのEVピックアップトラック「バジャー」の設計・製造を引き受ける上に、ニコラの燃料電池(FC)セミトレーラー向けにパワートレイン(動力装置)技術を提供するという。
また、GMは自動運転スタートアップのクルーズ(Cruise)や配車サービスのリフト(Lyft)に出資したときと同じように、ニコラの株式20億ドル(約2100億円)相当を取得する。
GMは、独自開発の「アルティウム」バッテリーを搭載する次世代EVプラットフォームを使って、ニコラのバジャーを設計する模様だ。なお、GMは設計・製造の詳細を明らかにしていないが、生産開始は2022年を予定している。
ニコラの創業者トレバー・ミルトンはメディア向けのカンファレンスコールでこう語った。
「(バジャーのための)工場を建設しなくて済むのは、当社にとって数十億ドルの節約になる。強く懸念されていたこの問題が解消され、生産段階に移行できる」
ただし、セミトレーラーの生産については、ニコラが自社工場の建設計画を進めている。
「自社生産しない」という選択肢もある
米ゼネラル・モーターズのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)。
REUTERS/Rebecca Cook
GMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は「自動車業界は変化のさなかにいる」とした上で、新型「アルティウム」バッテリー搭載のプラットフォームを(EVに限らず)すべての車種に活用していく考えを示している。
このプラットフォーム共有の文脈では言えば、GMは9月3日、ホンダと北米エリアでの協業を拡大する覚書を締結したことを明らかにしている。
自動車メーカーは従来、パワートレインに関する技術を可能な限り自社で占有しようとしてきたが、ニコラとフィスカーは(少なくとも一部の車種については)垂直統合を考えていない。
例えば、テスラはパナソニックとリチウムイオン電池の供給契約を結んでいるが、バッテリーおよびパワートレインの設計はあくまで自社で行っている。
ピックアップトラックのバジャーについて言えば、ニコラは積極的に垂直統合を放棄しているように感じられる。フィスカーも、上場後にBusiness Insiderの取材に応じ、「自社製造にこだわりを持っていない」ことを強調している。
ちなみ、こうしたやり方はアップルのiPhoneとよく似ていると言えるだろう。
GMの場合、新型のアルティウムバッテリー(とそれを搭載したプラットフォーム)はEVのオペレーティングシステム(OS)にあたり、さまざまな会社のハードウェアやアプリケーションを接続することができる。ニコラとホンダがその最たる例だ。
フィスカーはさらに一歩進んで、生産プロセスをまるごと外部に預け、ユーザーエクスペリエンス(顧客体験)にフォーカスしている。
(翻訳・編集:川村力)