結局、自民党に「子育てしやすい国」はつくれるか——石破氏・菅氏・岸田氏の政策を比較【総裁選】

自民党総裁選に立候補した岸田氏、菅氏、石破氏(2020年9月8日)

自民党総裁選に立候補した岸田氏、菅氏、石破氏(2020年9月8日)。

REUTERS

自民党総裁選(9月14日投開票)で女性活躍・子育て政策に注目が集まっている。

8日に開かれた所見表明演説会で、菅義偉官房長官が「不妊治療への保険適用の実現」を明言。これが呼び水となったのか、9日の党内討論会で石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長も子育て支援策を提案した。

子供のいない夫婦の半数以上が「不妊を心配」

子どもの有無・妻の年齢別にみた、不妊についての心配と治療経験(出生動向基本調査、2015年)

子どもの有無・妻の年齢別にみた、不妊についての心配と治療経験(出生動向基本調査、2015年)。

出典:国立社会保障・人口問題研究所

総裁選の告示日となった8日に開かれた所見表明では、菅氏が不妊治療への保険適用の実現を目指すと述べたことが注目された。

不妊治療をめぐっては、現状では各種検査や排卵誘発剤など保険適用は一部にとどまっている。体外受精など「特定不妊治療」は適用外で、自費診療で数百万もの費用がかかり、それでも子どもを授かれないことがある。

国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査(2015年)」によると、不妊を心配したことのある夫婦は3組に1組を超え、子どものいない夫婦では55.2%にのぼる。

実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は全体で18.2%、子どものいない夫婦では28.2%だった。

晩婚化が進み、高齢出産も増える中、不妊治療への関心や不安は高まっている。国が不妊治療に経済的支援を打ち出すことで、菅氏は出生率の低下に歯止めをかけたい考えだ。

菅氏の「不妊治療への保険適用」表明から一夜明けた9日、党青年局と女性局が主催した討論会では、石破氏と岸田氏も出産・子育て支援について言及した。

石破氏「フランスなどの成功に学べ」

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撮影:吉川慧

石破氏は「日本はシングルマザーの所得額、男性の家事分担率が先進国で最低だ。男女間の賃金格差は先進国最大だ」と指摘。男性の家事分担率の向上などを目指す考えを示した。

また、父親の育児参加を促す制度や医療保険の充実で出生率を好転させたフランスなどの例を紹介しつつ、「この国(の人口比)は男性が49%、女性51%だ。女性が住みやすい社会にしないとこの国は維持できない」と述べ、他国の成功例の導入や、女性に最大限の知恵を借りたいと語った。

岸田氏「出産費用、実質ゼロへ」

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撮影:吉川慧

岸田氏は「日本は、女性向けの政策予算がOECD調査でみても世界平均の半分以下だ」と説明。

具体的な予算の拡充案として「乳がん検査、子宮がん検査の費用、あるいは出産費用も思い切って支援することで実質ゼロにするとか、さまざまな予算的な後押しも必要」と語った。

菅氏「女性活躍推進法を制定した」

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撮影:吉川慧

前日の所見表明で「不妊治療の保険適用」を掲げた菅氏は、「各企業に採用・登用の数値目標を作らせる必要がある。そういう中で女性活躍推進法を制定させていただいた」と安倍政権の実績をあらためて強調した。

ジェンダーギャップ指数121位…党員「政治が足を引っ張っている」

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撮影:吉川慧

3候補とも出生率の低下を喫緊の課題と捉えており、出産や乳幼児期の支援制度については積極的に発言。政策議論の中で、不妊治療の保険適用が言及されるなど、出産のハードルを下げるための具体的な政策論が語られたことは歓迎したい。

しかし、今後の出生率に歯止めを掛けるためには「産むまで」以上に「産んだあと」の公助も、より求められることだろう。子が自立できるまで、子育て世帯を支援する枠組みの拡充も期待される。

ただ、女性活躍について9日の討論会では論じられこそしたが、女性の総裁選立候補者はゼロ。党員からの質問では「日本のジェンダーギャップ指数は121位。先進国ではダントツの最下位。政治分野が足を引っ張っている」という指摘もあった。

「夫婦別姓」など、結婚後も女性が働きやすい環境を整えるための議論も期待したい。

どこまで「声」に耳を傾けられるか

討論会場となった自民党本部8階ホールには歴代総裁の肖像画が飾られている。次に描かれるのは誰だろうか。

討論会場となった自民党本部8階ホールには歴代総裁の肖像画が飾られている。次に描かれるのは誰だろうか。

撮影:吉川慧

今回の自民党総裁選では、党執行部は「党員投票を実施すると2カ月かかる」として、国会議員と都道府県連の代表のみの投票で新総裁を選ぶことにした。

国会議員票の比重が増すことは、より多くの派閥の支持を取り付けた候補が勝つことを意味する。裏を返せば、一般の党員の声は反映されにくい状況だ。

9日の討論会では地方の党組織と討論会場となった党本部をリモートで結んだ。小林史明衆院議員(党青年局長)と三原じゅん子参院議員(党女性局長)によると、青年局と女性局の提案によって所見発表を短縮し、質疑応答も増やすことができた。

党員の声を総裁選の場で「見える化」することで、「地方の声」も取り入れるという体裁は整った。だが党員投票がなければ、一般党員の声、地方の声はやはり届きにくい。

9日の討論会では地方の党組織と討論会場となった党本部をリモートで結んだ。

9日の討論会では、地方の党組織と、討論会場となった党本部をリモートで結んだ。

撮影:吉川慧

石破氏は「47都道府県のほとんどで予備選挙ができて、なぜ全体の選挙ができないのか全く分からない。党員の権利が妨げられていることについて党はどう考えるのか」と、党執行部に疑問を呈している。

党員投票を求める署名を党執行部に提出した小林氏は、9日の討論会終了後に「総裁選が終わった後、党員投票がなぜ2カ月かかるのか詳細を詰めていきたい。どうすれば改善できるのか。オンラインで党員投票ができる環境もつくっていきたい」と報道陣に述べた。

自民党総裁選は「自由民主党」という一政党のトップを選ぶものだが、事実上「次の首相」を決めることになる。

安倍首相の任期を引き継ぐため、新総裁の任期は2021年9月末まで。その直後には衆院の任期満了(2020年10月)も控えている。

新たな総裁が選出され、国会での首班指名がされた後、10月中に総選挙があるのでは……という観測も流れる。

いずれにしろ、総裁選で提案された政策が実現できるのか、政策に抜けや不備がないか。政権与党がどんな政治を目指すのか。有権者は絶えず観察を続けていくべきだろう。

(文・吉川慧

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