Slack(スラック)のスチュワート・バターフィールド最高経営責任者(CEO)。リモートワーク普及を追い風に競合他社が「爆発的」成長を遂げるなか、大きな波に乗れずにいる。
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- Slack(スラック)が第2四半期決算を発表。売上高はアナリスト予想を上回ったものの、成長速度は期待より鈍化し、結果として数時間後に株価が約20%下落した。
- 売上高は前年同期比49%増、パンデミック前と同程度の伸びだった。
- リモートワークの大きな恩恵を受けたZoom(ズーム)が、9月第1週に発表した決算で前年同期比355%増を記録したのに比べると、Slackの数字はもの足りなかった。
- Slackの顧客企業が、有料プランの課金対象になる社員数そのものを減らしたこと、あるいはパンデミックで経営状況が悪化するなかで有料プランの更新を選択しなかったことが、成長鈍化の理由とみられる。
- 一部のアナリストたちは、競合するマイクロソフト「Teams(チームズ)」のプレッシャーが高まり、Slackの成長をより困難にしていると分析する。
Slackが2020年第2四半期(5〜7月)の業績を発表。売上高はアナリスト予想を上回ったものの、成長速度は期待より鈍化し、結果として数時間後に株価が約20%下落した。
売上高は前年同期比49%増の2億1590万ドル(約226億7000万円)で、直前の2四半期と同水準だった。しかし、同じくリモートワークの恩恵を受けたZoomの決算が、売上高で前年同期比355%増を記録したのに比べると、Slackの数字をもの足りないと感じた関係者は少なくない。
フューチュラム・リサーチのアナリスト、ダン・ニューマンはこう話す。
「例年だったら、この数字は十分すばらしい。しかし、ZoomやマイクロソフトのTeams、シスコシステムズのWebexなど、リモートワークの恩恵を受けた競合他社の爆発的な成長と比較してしまうと、Slackは成長を続けることができるのか、市場関係者が疑問に思うのも仕方ない」
もしSlackにZoomと同じくらい成長する力があるなら、
「第1四半期にすでに大きな成長を遂げていたはずで、この第2四半期も勢い止まらず、という結果になっていたのではないか。しかし、そうはならなかった。在宅勤務という追い風を考えると、Slackは第1、第2四半期とも、投資家に対して成長を印象づけることに失敗したと言っていい」(ダン・ニューマン)
D.A.デービッドソンのリシ・ジャルリアは、ニューマンの見方に比べると楽観的で、「長期的には追い風が吹いているが、向かい風が一時的に上回った、それだけのことにすぎない」とみる。
Slackのスチュワート・バターフィールド最高経営責任者(CEO)はアナリスト向けのカンファレンスコールで、同社の顧客企業の多くがパンデミックの影響で厳しい経営状況にさらされていることを、成長がなかなか加速しない理由の1つにあげた。
米証券取引委員会に提出された書類によると、Slackは第2四半期、有料プランの解約数が増え、年初から増加が続いていた既存の顧客企業内の課金ユーザーが減少している。
つまり、有料プランを契約している企業の(従量課金対象になる)従業員数が減っているか、あるいはサブスクリプションの契約更新を選択しない企業が増えているということだ。
また、一部のアナリストたちは、マイクロソフトTeamsとの競合がSlackの急成長の妨げになっていると分析している。
顧客企業の従業員削減、コスト抑制の影響大
2020年2〜3月には有料契約を新たに7000社獲得と、波に乗った時期もあったが……。
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Slackの新規顧客は増えていないわけでない。第2四半期も8000社がSlackを導入している。しかし、成長速度としては市場の期待に応えられていない。
Slackの成長は第1四半期も迫力に欠けた。第2四半期も同様だったので、2四半期連続してパンデミック以前の水準で推移していることになる。一方、競合他社はSlackとは比較にならないほどの成長をみせている。
バターフィールドCEOは前述のカンファレンスコールで、第2四半期は「多くの企業が予算をより細かく精査し、目の前にある問題を解決するためにすぐ実行できる対策を求めた」時期であり、そうした企業の動きはSlackにとってプラスに働かなかったと結論した。
アレン・シム最高財務責任者(CFO)も、現在の状況のせいで、契約に至るまでのセールスサイクルが長期化していると指摘している。
2020年上半期、Slackはパンデミックの影響を受けた顧客企業の経済的負担を軽減するために1100万ドル(約11億5500万円)の料金割引を行っている(第1四半期に700万ドル)。
ビジネスに不調を来したSlackの顧客企業が、サブスクリプションへの支出を抑えた結果、年間10万〜15万ドルの契約をしていた50社からの支払いは年間5万〜10万ドルに落ち込んだ。2019年上半期にそうした大規模な支払い金額の減少が発生したのは、わずかに10社だった。
「顧客企業の事業規模縮小、採用活動の中止や延期によって、ネットダラーリテンション(=1年前に獲得した顧客に関する、獲得時点と1年後の現在の売り上げの比率)が悪化し、その影響をもろに受けた。
独自のフェアビリングポリシー(=契約ユーザー数ではなく、アクティブユーザーにのみ課金)に加え、すぐに解約できる月払いプランを利用する中小企業の割合が多いため、競合他社に先駆けて影響が表面化した」(バターフィールドCEO)
マイクロソフトとの競合は深刻?
マイクロソフトの生産性向上アプリ「Office 365」とバンドル提供されている「Teams」。
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一部のアナリストは、Slackが爆発的成長に至らず、着実な伸びにとどまっているのは、同じビジネスチャットアプリのTeamsとの競合が理由だと指摘する。
マイクロソフトは生産性向上アプリ「Office 365」の一部として提供され、すでに多くの企業が利用している。マイクロソフト製品を利用していて、リモートワークに迅速に移行しなくてはならない企業にとっては、きわめて便利なオプションといえる。
ウェドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、ダン・アイブスは「TeamsはSlackにとって、間違いなく高い競争力をもつ脅威となっている」と強調する。
アナリストたちは今回の決算発表以前から、SlackがTeamsから強いプレッシャーを受けていることを指摘してきた。実際、Slackはこの7月、TeamsをOffice365にバンドルするのは反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)違反だとして、欧州委員会にマイクロソフトを提訴している。
ただし、バターフィールドCEOは、マイクロソフトとの競合がSlackの成長に大きな影響をおよぼすとの見方を完全否定。マイクロソフトとのシェア争いにおける「勝率は五分五分」だとアナリスト向けカンファレンスコールで語っている。
「Teamsとの競合が起きているのは間違いない。そこで勝つか負けるかはまた別の話だ。競合があるイコール成長に限界がある、ということにはならない」
(翻訳・編集:川村力)