日本企業が「ジョブ型」雇用に飛びつくべきではない、これだけの理由

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アフターコロナで在宅勤務が増える中、ジョブ型雇用が注目されている。しかしそこには、見逃されている点が。飛びつくのは早いかもしれない。

撮影:今村拓馬

新型コロナウイルスの流行以降、ジョブ型雇用への注目が高まっている。

もともと日本企業は、経営のグローバル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)により、年功序列、終身雇用といった伝統的な雇用のあり方に限界を感じていた。それに加え、テレワークの浸透にともない、従業員の姿が見えない中で成果をあげる人材マネジメントが必要になってきたことがある。

テレワークの問題は中小企業も直面しているため、いまやジョブ型雇用への関心は企業規模によらず拡がっているが、3つの重要な観点が放置されている。

1. ジョブ型雇用には2つのタイプがある


ジョブ型雇用への転換企業としてしばしば名前があがる日立製作所は、実は2011年に人事制度の大改革に乗り出している。つまり、コロナ禍にともなう施策ではなく、企業経営を支える人材戦略として、長い時間をかけて雇用システムを進化させているのだ

ここに注目すべき点がいくつか潜んでいる。

まず、日本企業はこれまで、アルバイトなどのいわゆる非正規雇用でジョブ型雇用を行ってきたが、これは業務の効率化や人件費の削減といった「守り」のジョブ型であり、新たな競争優位を生み出すための「攻め」のジョブ型ではなかったということだ。しかし、グローバル化やDXで求められているのは、攻めのジョブ型雇用である。

同じジョブ型雇用でも、目指すゴールが異なれば、人材マネジメントの要は異なる。ジョブ型雇用の導入検討においては、なぜ雇用制度を変える必要があるのか、企業内で認識をそろえることがまずもって必要である。

2. 成果主義や解雇はジョブ型雇用ではない

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撮影:今村拓馬

コロナ禍により関心が急速に広がったために、「ジョブ型雇用にすれば解雇しやすくなる」「成果主義のジョブ型雇用」といった解雇のしやすさや成果主義を、ジョブ型雇用と混同した言説が散見されるようになっている

しかし、ジョブ型雇用だからといって解雇しやすいわけでも、メンバーシップ型雇用だから成果主義を導入できないわけでもない

職務の内容を明確にし、職務ごとに給与が決まるジョブ型雇用は、アメリカやヨーロッパで広く普及している。

たしかに、アメリカは“Employment at will”により従業員の解雇が容易だが、欧州には解雇規制の厳しい国もあり、フランスやドイツの平均勤続年数は日本とそう変わらない(労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2019」)。

ジョブ型雇用だから解雇しやすいのではなく、アメリカという職務起点で解雇可能な人事制度が普及している国があるにすぎない。

ジョブ型雇用の導入議論を突きつめると、「そのジョブがなくなったときに従業員の雇用をどうするのか」という点が出てくる(リクルートワークス研究所「正規・非正規二元論を越えて 〜雇用問題の残された課題〜」など)。

なので、ジョブ型雇用といっても、実は雇用保障のあり方については手をつけず、各人に任せる職務の内容を明確にしたジョブ型「人材マネジメント」をイメージしている企業は少なくない。

加えて、成果主義にいたっては、ジョブ型雇用か否かに関わらず、すでにかなりの企業が導入済みである。大企業の導入率は5割を超えている(厚生労働省「平成29年就労条件総合調査」)。

組織の成果や業績を高めたり、柔軟な人材活用を目指したりするだけであれば、必ずしもジョブ型雇用に変える必要はない。なぜなら次のポイントで述べるように、真正のジョブ型雇用を導入し、運用するのは、大変だからだ。

3. 職務記述書を整備し、人材を評価するのは大変

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ジョブ型雇用は、人材マネジメントの作業量の増加につながる。

撮影:今村拓馬

欧米企業の人事経験者に話を聞くと、こんな声が上がる。

ジョブ型雇用って大変ですよ。膨大な仕事を分解して、それぞれの職務記述書をつくって、さらに毎年更新していかなければなりません。そのうえで、従業員を適切に評価し、本人にフィードバックし、納得させなければならない。人材マネジメントにパワーと時間が非常にかかります」

日本的雇用のメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の最も本質的な違いは、下図のように、人材がいることを前提に仕事をふりわけるのか、職務内容(ジョブ)を先に決めてその職務を遂行できる人材に任せるのかという、人材と仕事内容のマッチングの仕方にある。

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出典:中村天江『採用のストラテジー』(2020年、慶應義塾大学出版会)

メンバーシップ型雇用では担当する職務の境界があいまいなので、能力と意欲があれば、仕事を広げていくことができる。一方、ジョブ型雇用では職務の範囲が厳密なので、たとえば課長の職務であれば、部長のスキルや経験があったとしても、課長の仕事しかできない。

ジョブ型雇用では職務が高度であれば給与も連動して高くなるが、メンバーシップ型雇用では高度な仕事をしていても給与が安かったり、逆に給与は高いのに大した仕事をしていなかったりということが起こる。

日本企業が目指すべきジョブ型雇用のカタチとは?

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GettyImages/ Alexander Spatari

このように、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用には、人材と仕事のマッチングに関する根本的な違いがある。

「テレワークでも従業員が自律して働き、組織の成果をあげられるようにしたい」という理由だけで、すべての職務を言語化しなければならないジョブ型雇用を目指すのは、やりすぎではないだろうか

日立製作所がジョブ型雇用に舵を切ったのは、世界中の組織を横断して、優秀な人材を獲得し活用したいとの考えがあったからだ。

では、日本企業が目指すべき雇用のカタチはどんなものなのだろうか。

筆者はそれは「ロール型雇用(役割型雇用)」だと考えている。ロール型雇用とは、従業員一人ひとりが担う役割を明確にし、期待役割と役割成果に応じて給与を支払う雇用制度だ。

ロール型雇用と、ジョブ型雇用やメンバーシップ型雇用との違いは下記である。

  • 職務を起点とするジョブ型雇用では、職務記述書の整備が前提になるが、ロール型雇用はあくまで組織の構成員それぞれの役割を明確にする雇用制度なので、職務記述書をメンテナンスする必要はない
  • 人材を起点とした雇用制度という点で、ロール型雇用とメンバーシップ型雇用は同じだが、メンバーシップ型雇用と違い、従業員同士の仕事の境界がはっきりしている

つまり、雇用継続を前提としつつ、従業員一人ひとりが担う役割をはっきりさせ、日々のマネジメントや仕事内容と評価・処遇と連動を強化するというのが、ロール型雇用の狙いである。

これは伝統的な日本的雇用をベースに、ジョブ型雇用の利点を取り入れた、「日本的ジョブ型雇用」ともいえるだろう。

日本総研の山田久氏は、雇用のあり方として、若い時は職能ベースで人材を育成し、経験を積んだ年代は職務ベースに移行する、職能×職務の「ハイブリッド型雇用」を提唱している(山田久『失業なき労働移動』)。

一方、「ロール型雇用」は、年代によらず人材に任せる役割を明確にし、役割給の比重を高めるものである。両者は、日本企業がジョブ型雇用の利点を取り入れるといった点は共通するが、仕組みが異なるものである。

グローバル化やDX、テレワークは今後も広がっていく。

だからといって、日々の働き方の基盤であり、経営活動の源泉である雇用制度を変えるのは容易ではない。ジョブ型雇用というマジックワードに安易に飛びつくのではなく、経営の目指す方向や人材戦略に応じて、雇用制度を検討していくべきだろう。

(文・中村天江


中村天江:リクルートワークス主任研究員。博士(商学)、専門は人的資源管理論。「労働市場の高度化」をテーマに調査・研究・提言を行う。「2025年予測」「Work Model 2030」「マルチリレーション社会」等、未来の働き方を提案するプロジェクトの責任者や、政府の委員を歴任。著書に『採用のストラテジー』(単著)、『30代の働く地図』(共著)などがある。

※編集部より:キャプションの一部を修正しました。2020.09.14 12:15

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