コンピュータ・シミュレーションにより作成したダークマターの分布図。右上はダークマターハロー。左下の図で点のように見えるのは、地球サイズのダークマターハロー
J. Wang, S. Bose/CfA
- ダークマターは、宇宙にある物質の85%を占めると考えられている。しかし、光と相互作用を起こさないため、これまで観測されたことはなく、研究は困難だ。
- ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究者などからなるチームは、シミュレーション・モデルを作成し、ダークマターハローは大きさにかかわらず、その構造には一貫性があることを明らかにした。
- 小規模なダークマターハローは発見しにくいが、ガンマ線望遠鏡を使えば発見できる可能性があると考えられている。
ダークマター(暗黒物質)は、骨格のように宇宙を形作っている。
捉えることが困難なこの物質は、宇宙にあるすべての物質の85%を占めると考えられている。ダークマターの重力が惑星、恒星、銀河といった目に見える物体に与える影響については観測することができる。だが、ダークと言われるのには理由があり、光と相互作用を起こさないため、現代の観測技術では見ることができないのだ。
もしダークマターを見ることができれば、どのように見えるのか。ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究者などからなるチームは、ダークマターを含む宇宙の物質の構成を模倣した複雑なシミュレーション・モデルを作成した。これは、ビッグバンから現在に至るまでの宇宙をダークマターでモデル化したシミュレーションだと研究者たちは述べている。
このシミュレーションでダークマターが宇宙でどのように分布しているのかが視覚的に表現された。「宇宙のクモの巣(cosmic web)」として知られる構造だ。下図には、ダークマターがハローと呼ばれる塊を形成し、それらが長いフィラメント(糸状のもの)でつながっている様子が示されている。このフィラメントに沿って、ガスがハローの中心に流れ込み、集まったガスによって星や銀河が形成されると考えられている。自動車が高速道路を通って都市に集まっていくようなことだ。
「宇宙のクモの巣」と呼ばれるダークマターの分布のコンピューター・シミュレーション。画像全体に散らばる黒い点は、ダークマターハローを表している。
J. Wang; S. Bose/CfA
ダークマターが何でできているのか、確実なことは誰にもわからない。当然、そのことはシミュレーション・モデルの作成に当たって障害になる。そこで研究チームは、ダークマターに関する最も一般的な理論に基づいてモデルを作成した。それは、陽子の100倍の質量を持ち、相互作用が弱い粒子(WIMPs:weakly interacting massive particles)で構成されているというものだ。
シミュレーションにより、「宇宙のクモの巣」をよりよく視覚化できたことに加え、ダークマターの普遍的な特性と考えられる現象の発見にもつながった。つまり、ダークマターが一貫して同じようなハローを形成しているということだ。すべてのハローはサイズにかかわらず、中心部の密度が最も高く、端にいくほど密度が低くなるという構造を持っている。
「これらのハローは、それぞれ異なる時代、異なるプロセスを経て形成されたが、いずれも予測可能で普遍的な振る舞いを示している」
Business Insiderにそう語ったのは、ネイチャーに掲載された論文の共著者であるソーナック・ボーズ(Sownak Bose)だ。
研究チームがシミュレーションしたハローには、地球と同じくらいの質量から太陽の1000兆倍の質量のものまである。またすべての銀河はハローに取り囲まれていて、銀河の目に見える物質の10倍から100倍の質量を持つという。
ボーズによると、それぞれのハローの質量には大きな幅があるにもかかわらず、驚くような一貫性があるという。「太陽の何億倍もの質量を持つ銀河団と、地球と同じ質量で太陽の100万分の1のサイズのハローの画像を比べたとしても、見分けることはできないだろう」とボーズはプレスリリースで述べている。
検出可能なガンマ線がハローから放出される可能性
この新しいシミュレーションは、検出可能な物質を取り囲んでいない小さなダークマターハローに光を当てた。大規模なハローは取り囲む銀河を観測することで、間接的に研究ができるが、小さなハローを探すには、WIMPが衝突する際の「ダークマター対消滅」によって放出されるエネルギーを検出する必要がある。
WIMPがハローの中心部近くでぶつかり合うと、ガンマ線バーストが発生する。研究者たちは、ガンマ線望遠鏡がこれを検出できるはずだと考えているが、まだ誰もダークマターの対消滅によるガンマ線バーストを検出したことはない。
「ダークマターの対消滅を観測することが、小規模なダークマターハローを見つける唯一の方法だ」とボーズ氏は述べた。
フェルミガンマ線宇宙望遠鏡での観測に基づき作成されたガンマ線スカイマップ。
NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration
小規模なハローは、ビッグバンからまもない、宇宙の密度がより高かった頃に形成されたため、大規模なハローよりも、密度が少なくとも2、3倍大きい。つまり、小規模なハローの中心部では、より多くのWIMPの衝突が起きており、ガンマ線望遠鏡を用いてダークマターを発見するチャンスがあると考えられる。
今回のシミュレーションによる発見で、そもそもダークマターがなぜハローを形成したのか、そしてどのように相互作用しているのかといった疑問が沸き上がってくるだろう、とボーズは述べている。
「これまで不可能だった、ダークマターの性質についての根本的で深遠な問いを投げかけることができるようになる」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)