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鹿島アントラーズとアソビシステムが考える「ファンビジネス2.0」……試合もライブもなしでも飽きられない仕組みとは

アソビシステム社長の中川悠介さん(左)と鹿島アントラーズ代表の小泉文明さん(右)

note主催の「note CREATOR FESTIVAL」で開催された、アソビシステム社長の中川悠介さん(左)と鹿島アントラーズ代表の小泉文明さん(右)のトークセッションで、お二人はこれからのファンとの向き合い方について語り合った。

写真提供:note

コロナ禍でオフラインの交流が制限されたことにより、エンタテイメイント界やスポーツ界は大きな打撃を受けました。今、新しいファンとの向き合い方の模索が始まっています。

note主催の「note CREATOR FESTIVAL」では、鹿島アントラーズ社長の小泉文明さんとアソビシステム社長の中川悠介さんのトークセッションを実施。試合やライブが制限された中での取り組み、これからのファンとの向き合い方について語り合いました。

「ドラマのリメイク」手法が新たな収益源に

アントラーズ鹿ライブ

ファンと現役選手、OBが一緒にアーカイブ映像を観戦するオンラインライブイベント「鹿ライブ」では、ゴールが入った瞬間に多くの人が投げ銭してくれ、かなりの金額が集まったと小泉さんは言う。昔のコンテンツでも、投げ銭やOB選手などを活用して今っぽくリメイクすると、新たな収益をもたらすコンテンツに生まれ変わる。

アントラーズ公式サイトより

—— コロナ禍で、エンタメビジネスは大きな危機に晒されました。鹿島アントラーズとアソビシステムはどのような取り組みで危機を乗り越えようとしてきたのでしょうか。

小泉:手応えを感じたのは、ファンと現役選手、OBが一緒に過去のアーカイブ映像を観戦するオンラインライブイベント「鹿ライブ」ですね。 過去に3連覇した試合を配信したところ、ゴールが入った瞬間に多くの人がギフティング(投げ銭)してくれて、かなりの金額が集まったんです。

昔のコンテンツでも、ギフティングやOB選手などを活用して今っぽくリメイクすると、新たな収益をもたらすコンテンツに生まれ変わった。テレビドラマでも、新しい作品より昔の人気ドラマの方が視聴率が高かったりしますよね。

中川:僕らも一緒です。きゃりーぱみゅぱみゅが過去のライブで披露した100曲を1曲ずつYouTubeで配信したら、新しいファンが食いついてコメントをくれました。「ファンは過去のものは知っている」と思い込んでいましたが、必ずしもそうではなかったんです。

小泉:サッカーもそうで、新しいファンの中には、過去の試合はあまり見たことないという方がいるんですよね。

中川:今までは、毎日が前に進んでいく中で「新しいことをやらなきゃ」とこだわりすぎていました。コロナ禍をきっかけに、コンテンツは「新しい・古い」ではなく、「良い・悪い」で考える時代に変わっていくのではと思います。

“裏側も見せる”ブランド戦略

きゃりーぱみゅぱみゅの香水

アソビシステムはnote上に自社メディアを開設し、所属タレントの取り組みを集約して発信している。これまでは、見せない方がよいとされてきたタレントの「裏側」をあえて発信したほうがファンに熱量が伝わって、購買にもつながっていると中川さんは感じる。

きゃりーぱみゅぱみゅさんのnoteより

—— コロナ禍の影響はどの程度だったのでしょうか?

小泉:試合というコアなコンテンツが一時的にすっぽりなくなってしまったために、数十億円レベルの損失が発生しました。ファンと接点を持たなければ、忘れられてしまうんじゃないかという怖さは、今も感じています。

中川:僕らもコロナ禍は大打撃で、中止になったイベントは約300本。小泉さんの言う通り、このままではファンに忘れられてしまうのではないかという恐怖心は非常に強くありました。

小泉:そんな中で、我々も試行錯誤してきました。仕掛けてきたことは大きく分けて3つあります。1つ目は、ふるさと納税の仕組みを活用したクラウドファンディング。2つ目は、アパレルブランドの立ち上げです。「鹿島アントラーズブランド」を多面的に展開し、ライフスタイルを提供していきたい。3つ目は、地元企業のDXを推進するコンサルティング事業の展開です。鹿島アントラーズがこの1年、自社で進めてきたデジタル化のノウハウを還元しています。

2、3点目はサッカーと全く関係のないように見えますが、サッカーだけでは、届けるメッセージやファン層が固定化してしまうんです。より愛されるチームになるために、今までのサッカーチームの枠組みを超えた取り組みを始めています。

中川:僕らはこの4月、アソビシステムとしてnote上に自社メディアを開設し、弊社所属タレントの取り組みを集約して発信しています。例えばきゃりーぱみゅぱみゅは、香水の開発プロジェクトに対するこだわりや思いを綴って発信しています。

かつて、タレントの「裏側」は見せないほうがいいと言われていましたが、(今は)あえて発信したほうがファンに熱量が伝わって、購買にもつながっている実感があります。

6月には、BASEさんの協力のもと、オンラインストア「ASOBIDEPAAART」(アソビデパート)をオープンしました。タレントがデザインしたTシャツとトートバックを受注販売する取り組みです。

そして今準備しているのが、アソビシステムとしてのオンラインサロンの開設です。新しいビジネスを一緒に育てていく人を募り、ファンクラブとはまた違ったコミュニティを形成したいと思っています。

TikTok、stand.fm……ファンに忘れられない仕組み

POC02817

今は新規ファン獲得よりも、既存ファンを繋ぎ止めることが重要だと感た小泉さんは、新たにTik Tokやstand.fmにチャンネルを開設し、コアなファンに向けた情報発信を厚くしている。

写真提供:note

—— ファンとのコミュニケーションの取り方に関して、コロナ禍の前後で変化はありましたか?

小泉:新しいファンの獲得よりも、既存のファンを繋ぎ止めるのが大切なタイミングだと思ったので、コアなファンに向けた情報発信を厚くしました。

今までやっていたTwitterとInstagramだけでなく、Tik Tokやstand.fmにもチャンネルを作り、メディアごとに情報の出し方を変えて、ファンに忘れられないような発信を設計しています。

YouTubeでのライブ配信やギフティングも始めました。こうした新しい取り組みを通じて、コアなファンに新しい鹿島アントラーズを楽しんでもらうことを大事にしています。

クラブの経営状況を理解した上で、発信に協力してくれる選手も多く、助かっていますね。

中川:弊社所属のタレントも、率先して新しいアクションを起こしてくれています。例えばきゃりーぱみゅぱみゅは、ファンクラブのメンバーと毎年行なっていたフルーツ狩りが今年は中止になってしまったので、オンラインでのファンミーティングを実施しました。

コロナ禍がなければやることはなかった企画なので、ファンとの関係性を育む良い機会になったと思います。

個の時代における「ファンクラブ2.0」

中川さん

個の時代において、芸能の事務所の存在意義は、会社としてタレントのファンをどう増やせるかにある、と中川さんは語った。

写真提供:note

小泉:アソビシステムさんが事務所のオンラインサロンを作る取り組みって、まさに「ファンクラブ2.0」だと思うのですが、鹿島アントラーズも新しいファンクラブの形を考えないといけないと思っています。

今までのファンとのコミュニケーションはサッカーを通じた一面的なものでしたが、もっと多面的な設計ができるんじゃないかと。例えば、従来サッカーチームとして個人を表現できるものは、グッズぐらいしかありませんでした。

しかし、グッズ以外の形での、選手個人としての情報発信をクラブとしてどうサポートし、強いエンゲージメントを獲得するのかをファンと一緒に考えていきたいですし、そうした新しい試みをやってみたい選手がいれば、試してみたいアイデアはすでにいくつかあります。

中川:僕らはもともとタレント個人のファンクラブをやっていたところから、事務所のオンラインサロンを始めようとしています。その一方で、小泉さんはチームのファンクラブを運営していたところから、個人の情報発信を考え始めている。

一見やり方は正反対のように見えますが、どちらもファンとの新しいコミュニケーションのやり方を探っている点で、「ファンクラブ2.0」なんだと思います。

小泉さんの仰る通り、今は個の時代です。「芸能事務所っていらないんじゃないの」という声も聞こえる中、僕らの存在意義は、会社としてタレントのファンをどう増やせるかにある。

そのために僕らが大事にしているのは、アソビシステムという1つのカルチャーをつくることです。儲かるからやるのではなはなく、自分たちがいいと思うことをする。その積み重ねでカルチャーが作られていくのだと思います。

「中田ヤスタカのDJライブにも行くし、きゃりーぱみゅぱみゅのイベントにも行く」といった、アソビシステム自体を積極的に応援してくれるファンの存在は嬉しいですし、これからも増やしていきたいですね。

オンラインを駆使しファンビジネスの常識を破る

アソビシステム社長の中川悠介さん(左)と鹿島アントラーズ代表の小泉文明さん(右)

新しいプラットフォームを利用したり、オンライン・オフライン関係なく活動していくなど、今後は従来とは違った形でファンとの関係を構築していくことになる、という点でお二人の意見は一致していた。

写真提供:note

小泉:コロナ禍はPL(損益計算書)的にはお腹が痛いですが、事業が新しい方向に進んだという意味では、ポジティブに捉えています。

今はファンとの関係性を築くツールが多様化しています。BASEやストアーズでEコマースは始めやすいですし、D2Cで誰でもアパレルを作れる時代です。

こうした新しいテクノロジーやプラットフォームを駆使して、これまでの常識を破りながらファンとの関係を作っていくことが、新しいファンとの向き合い方になると思います。

中川:小泉さんの言う通りで、コロナ禍によって、今まで手を伸ばしにくかったことにもチャレンジできました。僕らができることは増えましたし、毎年のルーティンワークを変えるきっかけにもなりましたね。

そしてアフターコロナでは、ファンとの向き合い方においても、オンラインとオフラインが共存する時代が来ると思います。今までは、ライブ配信に強いタレントはその中だけで活動するなど、オンラインとオフラインは別の世界でしたが、これからは両方で活躍するのが当たり前になるでしょう。

タレントにとっては見てもらえる機会も、ファンを獲得するチャンスも2倍になります。

小泉:アソビシステムさんの話を聞いて参考になりました。僕らは他業界のイノベーションの起こし方を勉強した上で、自分たちをもっと変えていかないといけないですね。

( 聞き手・構成、 一本麻衣


一本麻衣 :フリーライター。一橋大学社会学部卒業。三井住友銀行、総合PR会社ベクトルなどを経て、インタビューライター。仕事旅行社『編集職人』モデレーター。人々が抱える「生きづらさ」に関心がある。趣味はバドミントン観戦と哲学対話。1987年生まれ。twitter:@Ichimai8

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