ミライノツクリテたちに聞く28歳の時の自分に今言いたいこととは。BASEの創業者でありCEOの鶴岡裕太(30)さんのメッセージとは。
28歳の自分へ。
といっても、僕は今まだ30歳で、2年前の自分に助言できることと言えば、「コロナという有事にしっかり備えろよ」というくらいです。
代わりに、20代最後の年に上場した後に同世代に会って感じたことを話したいと思います。
僕は22歳でBASEというサービスを世に出してから、実はずっと地元の友達に会ってきませんでした。
特に避けていたわけではないのですが、忙しくもあり、「会っても何話せばいいんだっけ」と思ってしまって、一度も友達と会いませんでした。
BASEの上場が承認された後、仲の良かったグループの1人が「おめでとう」と連絡をくれて、10年ぶりくらいに7〜8人の友達と会えることになりました。
一緒にご飯を食べながら近況を聞くと、みんなそれぞれに違う道を歩んでいました。会社員、カメラマン、料理人……、そして僕は上場したばかりの経営者。話を聞きながらじんわりと感じたのは、「みんな一人ひとりが、幸せそうだな」ということ。
それぞれの場所で、それぞれにがんばっていて、それぞれに幸せを感じられている。それが、すごくうれしかったんです。
幸せの大きさや悩みの深さはみんな同じ
鶴岡の考えるBASEの世界観は、社内のカルチャーにも通じるところがある。
提供:BASE
普段から事業をつくる中で大事にしてきたのも、「幸せの大きさや、悩みの深さはみんな同じ」というものの見方でした。
誰かの幸せが、他の誰かよりも大きいとか、誰かの悩みがクラスで一番深いといった相対比較はあり得ない。
僕の母親が大分で小さな店をやりながら「売り上げが足りない」と頭を抱えている悩みの深さと、(ソフトバンクグループ会長の)孫正義さんが巨額の赤字を抱えて背負う悩みの深さは、どっちも同じ。もちろん問題のレベル感は違いますが、当事者にとってのつらさは同じで、人の数だけ悩みも幸せの尺度がある。
BASEでお店を出している方々の中にも、月1000万円売り上げても満足できない方もいれば、10万円ですごく喜んでいる方もいるのを見ながら、感じてきたことでした。
喜びも悲しみも、人の感じ方の目盛りは絶対値しかなくて、順位付けできるものじゃない。
その感覚を持ち続けることが、これからの時代にはすごく大事になると思います。
僕がこの物差しを持てた理由は、多様な価値観を持つ大人たちと出会えたから。
だから、今20代の人たちに、僕からおすすめできることがあるとすれば、「いろんな人と出会うこと」。
そして、もし起業を考えているのなら、できるだけ早く行動したほうがいい。
なぜなら、起業をするという選択はたくさんの人たちを巻き込むことであり、起業後にはひたすら恩返しを続けていかないといけないからです。恩返しにかけられる時間は、あればあるほどいいと思います。
繰り返しになりますが、僕たちは「個人が幸せになれる未来」に“張っている”会社です。
誰もがいつでもチャレンジできて、自然体で夢を実現できる世の中の到来を信じ、運命を委ねていきます。
10年後、僕たちは、「インターネットと個人とスモールチームの可能性を一番信じた会社だった」と言われたい。
どんな未来を信じるか。いろんな人に聞いてみたいですね。
(敬称略、完)
(文・宮本恵理子、写真・伊藤圭)
宮本恵理子:1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社し、「日経WOMAN」などを担当。2009年末にフリーランスに。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。