テレビの生放送のような熱気が漂うスタジオ。
撮影:横山耕太郎
在宅勤務により、社内のコミュニケーションが希薄になったと感じている人は多い。
人材サービス大手アデコが7月に実施したアンケート(600人が回答)では、「リモートワークの課題」について選択してもらうと、「チーム間でのコミュニケーション不足」が最多。管理職で33%、一般職で43%が、コミュニケーション不足に課題を感じているということが分かった。
リモート環境でのコミュニケーション方法が模索される中、社員約1000人が参加する大規模なオンライン飲み会が開催された。
1000人もの社員が、オンライン上で参加する飲み会は成立するのか?現場を取材した。
まるでテレビの生放送
若手社員らがオンライン飲み会の司会を務めた。
撮影:横山耕太郎
「こちら等々力スタジオからお送りしています。在宅勤務が続いていますが、『楽しむことを忘れない』という気持ちで、今年はオンラインで開催します」
グリーンバックのスタジオには、撮影用のカメラが3台、大型モニターのほか、参加者を把握するためのノートパソコン約10台が用意された。
テレビ番組の生放送さながらの設備だが、中継しているのは、あくまで「社員向け」のオンライン飲み会だ。
恒例のバーベキューが中止に…
オンライン飲み会に合わせて社員に支給されたお酒とおつまみ。ノンアルコール版も用意。
撮影:横山耕太郎
巨大オンライン飲み会を行ったのは、総合映像プロダクションの東北新社(社員数は連結で約1600人)。
毎年8月、都内のホテルで社員600人程度を集めたバーベキュー大会を開催していたが、今年は新型コロナウイルスのため中止。そこで、初めてのオンライン開催を決めた。
東北新社は、衛星放送のトーク番組制作なども手掛けており、世田谷区等々力に撮影用のスタジオをもっている。
今回のオンライン飲み会では、このスタジオを使用。撮影や配信は外部企業に委託し、初の巨大オンライン飲み会に挑戦した。
一斉に「カンパイ!」音声乱れる
乾杯に合わせてビールを掲げる社員ら。
撮影:横山耕太郎
9月11日午後5時30分、Zoom上で生放送が始まった。司会役の社員が、オンライン飲み会の流れを説明している中、次第に社員がZoomに集まってきた。
数百人が同時に参加するため、社員側のマイクはオフ。しかし、「一体感を高めるため」(同社担当者)に、「乾杯」の際にはマイクを一斉にオンにしてもらい、声を合わせる演出も。
社員約500人が「カンパーイ!」と声を合わせたが、ハウリングなど雑音も発生。音声は乱れたものの、パソコン画面上にはビールを掲げる社員の姿が並んだ。
YouTube中継も併用
社員の交流を図るためさまざまなフリートーク部屋が用意された。
撮影:横山耕太郎
オンライン飲み会の責任者を務めた同社の松岡芳弘・プロモーションプロデュース事業部長は、「在宅勤務の社員も多く、オンライン会議でしか顔を見なくなってしまいました。これまでのように無駄話をして、一体感を感じてもらえるイベントにしたがった」と話す。
乾杯や社長あいさつの後は、社員がトークルームに移動してフリートーク。
部署ごとのトークルームや、「アニメ好きの部屋」「お子さんOK!の部屋」など、テーマごとの部屋も用意。全部で66の部屋を行き来することで、交流を生む仕組みを考えた。
またYouTubeも併用。新入社員や役員によるトーク番組など、スタジオ中継をYouTubeで同時に流すことで、スタジオ中継を見ながらZoomで会話できるようにした。
ビンゴには約800人参加
ビンゴ大会では、スタジオから生中継で「番号」が発表された。
撮影:横山耕太郎
イベント序盤に集まった社員は約500人だったが、掃除機ロボットなどの景品があたるビンゴ大会には、約800人の社員が集まった。
Zoom上で行われたビンゴでは、当選した人がカメラに向かって手を振って当選をアピールしていた。
「例年バーベキューの参加者は600人でしたが、オンライン飲み会のアクセス数を見ると、今回の参加者は1000人以上となりました。オンライン開催によって参加者の幅が広がりました」(松岡さん)
反省点もある。トークルームを60以上も作ったことで、「多すぎてどこに入ればいいのか分からない」という声が多く、誰もいないトークルームが続出した。
「オンライン上で自由に交流してもらうには、もっと工夫が必要でした」(松岡さん)
パッケージ販売につなげる狙いも
イベントの責任者を務めた松岡芳弘さん(左)は「反省点もあるが、予定通り進行できた」と話した。
撮影:横山耕太郎
今回のオンライン飲み会の狙いは、社内コミュニケーション活性化だけではない。
イベントのプロデュースも行っている東北新社では、今回のような大規模な社内オンラインイベントについても、パッケージ販売を強化したいとしている。
つまり、初の巨大オンライン飲み会は、大がかりな「実験」の意味合いもあった。
「今後、大規模な社内オンラインイベント需要が増えると見込んでいます。コロナ禍でどのようにレクリエーションを行っていくか、考えている企業も少なくない。イベント開催に関わる企業として、エンターテイメント性の高いイベントを提案していきたい」(同社の担当者)
今回取材したのは、運営側の社員が集まったスタジオ。おそらく過去にほぼ例のない大規模なオンライン飲み会を切り盛りする現場は、文字どおり熱気に包まれていた。
ただ、飲み会の主役は、画面の向こう側の社員だ。
自宅から参加した社員も、リアルの場での飲み会と同じような満足感を感じられたかどうか。巨大オンライン飲み会が普及するかどうかのポイントになりそうだ。
(文・横山耕太郎)