LINEはビジネスカンファレンス「LINE DAY 2020」をオンラインで開催した。
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LINEが9月10日に開催したビジネスカンファレンスの冒頭で、LINE社長の出澤剛氏は現在の世界的な危機を「戦後最大の社会の変化点になる」と断言した。
LINE誕生から約9年。国内の月間アクティブユーザー数は8400万人に達し、コロナ禍では厚生労働省と協力し、3月から累計5回にわたる全国調査を実施するなど、“社会インフラ”としての活動も意識されるようになってきた。
今後1年間のLINEはどのような企業、サービスになっていくのか。カンファレンスで語られた6つのポイントを見てみよう。
1. LINE Payは「“本人確認”の基盤」を目指す
LINE Payは単なる“決済”を超えた存在を目指す。
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最も印象的な発表を行っていたのは、モバイル決済サービス「LINE Pay」のセッション。とくにタイムリーと感じたのが「LINE ID Passport」構想の発表だ。
現在、LINE PayやLINEの金融系サービスではeKYC(インターネットを通じた本人確認)を行った上でサービスを提供している。LINE ID Passportとは、この本人確認情報をほかのLINEサービス、将来的には社外のサービスに拡大していくものだ。
LINE ID PassportはLINEサービス以外の企業・サービスへの提供を検討している。
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詳細な仕様などは不明だが、既にeKYC済みのLINE IDさえあれば、ユーザーはLINE ID Passportを導入しているサービスを使い始める際、“本人確認済み”の状態で利用開始できるはずだ。
ユーザーにとっては利用開始時の手間が減る。企業やサービスにとっては、新規ユーザー獲得率の向上およびeKYC実装のコスト削減が期待できる。
奇しくも、カンファレンス当日はNTTドコモのキャッシュレスサービス「ドコモ口座」の不正利用問題に関する緊急会見があった。同問題の一因にドコモ側の本人確認の不備があっただけに、LINE ID Passportへの期待感は高まったとも言える。
奇しくもLINE DAY 2020と同日に開催された「ドコモ口座」の会見。
撮影:小林優多郎
LINE Pay CEOの長福久弘氏はカンファレンスで、これまでのキャッシュレス戦争を「生活者にとってキャッシュレス化する意義は“おトク”で“便利”の以上でも以下でもなかった」と振り返った。
登録ユーザー数などでは「PayPay」の背中を追う形になっているLINE Pay。
多くのユーザーを既に持っているID基盤とLINE PayのeKYCのノウハウという他社にはない強みを組み合わせて、で存在感を強めていく方針だ。
2. LINE Payがついに「Apple Pay」対応
ついに、LINE Pay残高をApple Payでも利用できるようになる。
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とはいえ、LINE Payの利便性という意味では1つ大きな発表があった。それがApple Payへの対応だ。
既にLINE Payでは、JCBプリペイドカードとして使える「LINE Payカード」、QUICPay+として使える「Google Pay」を提供しており、LINE Pay残高をコード決済以外の加盟店でも利用できるようにしていた。
しかし、Google PayはおもにAndroidスマホ向けの機能であるため、Apple Payが利用できるiPhoneやApple Watchは非対応で、ネットなどでは対応を望む声が長年上がっていた。
LINE Payは他社と比べてもさまざまな支払い方法を実装している。
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LINEはApple Pay対応を「2020年内提供予定」とアナウンスしている。なお、後払い方式である「Visa LINE Payカード」を所有している場合は、既にApple Pay(実店舗でのiD決済)を利用できる。
3. 手数料0円のLINE版“オンライン診療”「LINEドクター」提供開始
ついに始まるオンライン診察「LINEドクター」。
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LINE上でクリニックの検索・予約、診察、決済まで完結する診療サービス「LINEドクター」を11月から提供を開始する。
LINEは既に「LINEヘルスケア」を開始しているが、これはあくまでオンラインで“健康相談”ができるサービスで、LINEドクターが提供するような“医師の診察”は受けられない。
またLINEドクターは、サービスを利用するユーザーや登録する医療従事者からは一部決済手数料を除いてプラットフォーム手数料などは0円となる方針を明らかにした。
ただし、医療従事者が“0円”となる条件はLINEドクターの「Basic Plan契約時」と記載されている。そのため、今後より機能の充実したプランなどが出てくれば、それは有料となり、同社の収益になると予想される。
4. 収益化などクリエイター向けビジネスを強化
LINEタイムラインで、別名義のアカウントを持つことが可能になる。
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LINEアプリにはホームやトークなど5つのタブが存在するが、その中の1つでSNS的な使い方ができるのが「LINEタイムライン」だ。
従来、タイムラインはLINEの友だち同士、もうしくはフォローした公式アカウントとしか基本的に交流できず(4月開始の「ディスカバー」を除く)、ほかのSNSなどのように「LINE内で“バズる”」ことはほとんどなかった。
そこで同社が近日提供予定としているのがLINEタイムライン上での「マルチアカウント」機能だ。ユーザーは個人のアカウントとは別名義のアカウントを複数持つことができ、用途に応じて名義を使い分けられる。
一定の条件さえクリアーできれば、投稿する動画を収益化することも可能に。
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合わせて「収益化」「分析」「セルフプロモート(広告)」機能もリリース。収益化機能によって支払われる報酬の原資は、投稿された動画に表示される各種広告によるものだ。
また、収益化には“アカウントのフォロワー数が500人以上”かつ“直近1カ月の動画再生時間50時間以上”という条件をクリアーする必要がある。
これはいわゆるユーザー作成型(CGM)の一種だが、LINEは同じくCGMの「NAVERまとめ」を9月末に終了する。LINEタイムラインがアップデートにより、LINEの新たなビジネスの柱になるのか注目が集まる。
5. これからのLINEは“ビデオ通話”が主軸に?
テキストではなくビデオチャットの機能強化を検討中。
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コミュニケーションアプリとしての機能にも、今後アップデートが入る。
機能名や時期などは明かされなかったが、主軸を従来の“テキストチャット”から“ビデオ通話”に移した機能になる。
具体的には、ビデオ通話にテキストやスタンプを表示する、アバターでビデオ通話に参加できる、ビデオ通話中にBGMを再生できる、といった機能が挙げられた。
“LINEの生みの親”の1人である上級執行役員の稲垣あゆみ氏は、カンファレンスでコミュニケーション機能の目的を「リアルタイムにゆるくつながりながら、心地よいコミュニケーションを進化させていく」とし、ニューノーマル時代に必要な機能として紹介した。
6. ヤフー統合について触れたのは「ニュース」のみ
LINE、ヤフーの役員が同じイベントに登壇することは珍しい。
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さまざまな新しい施策が発表されたカンファレンスだったが、忘れられない要素としては、2021年3月頃に完了予定のZホールディングス(ヤフー)との経営統合がある。
どの新施策でも「2021年3月以降」の展望は語られなかったが、唯一ニュース事業「LINE NEWS」のセッションでは、統合に関する話題に触れた。
同セッションには、「LINE NEWS」担当の上級執行役員・島村武志氏と「Yahoo!ニュース」担当のZホールディングス常務執行役員の宮澤弦氏が対談。終盤で島村氏は「私としては(LINE NEWSとYahoo!ニュースの)統合はない、と話している」と述べ、宮澤氏も「ユーザーが一致していない」とし「今までどおりやっているといい」と応じた。
ニュース担当者は「(ニュース)サービスを統合しないだろう」と語るが……。
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ニュース事業や決済事業に限らず、LINEとヤフーはさまざまな事業が競合している。
宮澤氏が話すように、確かに現在のユーザー属性は両プラットフォームで異なる。だが、サービスとしての“看板”や“体験”は最初のうちは変わらずとも、グループ内のでの効率化、シナジーの実現は当然進められていくはずだ。
今回発表されたサービスを含め、日本最大のコミュニケーションアプリがどのような進路を辿っていくか、今後も目が離せない。
(文・小林優多郎)