かさむ公立中の部活費用、ユニフォームなど6万円請求も。捻出にダブルワークするシングルマザーも

授業を受ける子ども

誰もが参加できたはずの部活動だが、家計に余裕がなければ参加できない現実がある(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

教育無償化の範囲が幼児保育や私立高校へと広がり、2020年春から大学生らへの給付型奨学金も拡充されるなど、保護者の教育費負担を軽減する施策が少しずつ進み始めた。

しかし、実際には授業料以外にも、教材や修学旅行費、体操着などなど、親はさまざまな費用を負担している。誰もが参加できたはずの部活動すら、一部の学校では家計に余裕のある子どもだけに許された「有料オプション」と化しているようだ。

ある公立中学校の部活動では、保護者が部費やユニフォーム代など約6万円もの費用を請求されたケースも。保護者の1人は「コロナで経済的な打撃を受けている家庭も多いだろうこの時期に、これほど高額な集金があると、子どもに部活を諦めてもらうことにすらなりかねないのでは」と疑問を投げかける。

ひとり親や貧困家庭の子、部活諦める恐れも

「中学の部活ってこんなにお金がかかるんですか? おかしくないですか?」

千葉県内に住む白田有香里さん(49)は8月中旬、Facebookにこんな投稿をした。

白田さんの次男(13)はこの4月に地元公立中に進学し、サッカー部に入部した。部費のほかユニフォームやそろいのジャージ、ソックスなど、計約6万円の費用がかかったという。

白田さんは児童相談所に勤務し、虐待などを受けた子どもたちのケアに携わっている。日々接する子どもたちの中には、生活保護や就学援助を受けている家庭に育ち、「制服すら、新調できずにリサイクル品を購入する子もいる」という。こうした家庭が、部活のために高額な費用を捻出できるとは考えづらい。

「生活保護費でジャージを買ってほしい、と親に言うことに後ろめたさを感じ、最初から部活に入るのを諦める子もいるのでは。

公立である以上、生徒の生活レベルはまちまちです。『自分のうちは出せるからいい』ではなく、出せない家庭もあることを考えるべきではないでしょうか」(白田さん)

この中学を所管する教育委員会によると「部活動は任意加入で、強制ではない」として、保護者が購入する物品などについては各学校の裁量に任されている。特に費用の上限を設けたり、費用を抑えるよう指導したりはしていないという。

白田さんの投稿に対して、Facebook上ではさまざまな反応があった。

「長男も中学校サッカー部でしたが、ユニフォームは貸し出しでした。部活は、誰でも入れるはずなのに…」

「練習は体操着、(試合などでの)移動は制服か学校指定のジャージで十分」

など、各家庭が新品を買いそろえることへの疑問の声が多かった。

児童養護施設に入所する子どもたちの場合、部活で必要な費用は原則として支給される。ただ施設勤務の経験が豊富な関係者から「施設でもどこまで部活の費用を出すか議論があった」との指摘もあった。

「部活に入れず放課後の時間を持て余して、子どもたちが街をさまようようになれば、不良グループなどに取り込まれるリスクも高まります。それを彼らの『自己責任』で片づけるのは、あまりに酷です」

と、白田さんは訴える。

水着に1万5000円、費用払えず「退部」

部活

撮影:今村拓馬

都内の会社員、杉本愛さん(23)も、白田さんのFacebookにコメントした1人だ。

「母も新学期前は、学校の支払いのために深夜のお仕事を掛け持ちしていました」

杉本さんは5歳から母子家庭で育ち、母親は杉本さんと弟を育てるため、身を粉にして働いた。しかし、彼ら母子家庭の親子に「手を差し伸べてくれる人は、本当に少なかった」と、杉本さんは振り返る。

「母親は学歴も資格もなく、正社員に就くことはできませんでした。パート勤務で週6~7日働いていましたが、それでも生活費は足りませんでした」

特に新年度の制服や体操着などの支払いがかさむ時期は、パートが終わった後、午後7時ごろから深夜までコンビニのアルバイトを入れたり、帰宅して2、3時間仮眠を取った後、深夜から朝まで夜勤で働いたりして、必要な費用を稼いだという。

杉本さんは中学に入ると、水泳部に入部した。

学校のプールで泳ぐだけなので、さほど費用は掛からないだろうと考えたが、入部してみると1万5000円の水着に加え、揃いのジャージなども買うように言われた。「お金を払えない」と言えず、母親に無断でつい「買います」と返事してしまい、きつく叱られたという。母親は費用をかなり長い間滞納するはめになった。

「ましてや6万円なんて、うちだったらとてもとても無理です」

さらに夏以外は、校外の温水プールに練習に通うため、交通費や利用料などで結局、月に1万円ほどかかった。杉本さんが出費を気にして部活を休むと、「なぜ休むの」「さぼっている」などと他の部員からいじめられるようになり、結局中2で退部したという。

高校入試の内申書には部活の記入欄があり、受賞歴や主将を務めた経験などが記載されることも多い。杉本さんは、こう話す。

「中学は部活に入る生徒がほとんどだったので、『帰宅部』や途中退部の生徒は『学校活動への意欲が低い』と評価されてしまうこともあるのではないか。

教育無償化といっても、授業料以外はすべて追加の『有料オプション』だと、結局いろんなことを諦めざるを得ない子が生まれてしまう。すべての子どもが、やりたいことに挑戦できるよう、間口の広い社会であってほしい」

「親なら当然」コミット求める父兄

部活、道具イメージ

Getty Images/Yoshiyoshi Hirokawa

白田さんは経済的な負担に加え、「親が子どものために動くのは当たり前」とばかりに保護者が協力を求められることも、困難を抱える家庭の子どもを部活から遠ざける要因ではないか、と考える。

次男のサッカー部には父母会があり、父母会主導で自主練の機会を設けたり、試合の時に差し入れをしたりするという。入部とともに全部員の保護者が加入し、抽選で役員を決める。

「児童養護施設の子どもはもちろん、土日も働くひとり親なども、父母会活動に参加するのは難しいでしょう」

だが、白田さんが同じサッカー部の保護者に、子どもの部活動にお金や時間を十分割けない親もいるのだと訴えても、「お仕事柄、そうお考えになるんですね」と感心されただけだったという。

白田さんのFacebookに投稿したある母親(49)も、長男が所属していた少年野球チームでは、母親たちが監督やコーチが昼食に食べるおにぎりまで用意していたと振り返る。

「疑問を感じる保護者がいても、同調圧力が強すぎて意見を言えず、思考停止してしまっていた」

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、17歳以下の子どもの貧困率は2018年、13.5%で、7人に1人が「当たり前」の社会生活を営むのが難しい状態に陥っている。

国立社会保障・人口問題研究所の2017年の調査では、子どもがいる世帯の16.9%が過去1年間に、経済的な理由で必要な食料や服を買えなかった経験があると回答し、ひとり親ではこの割合が34.9%にまで跳ね上がった。

一方、ベネッセ教育総合研究所の調査によると、経済的に豊かな家庭ほど、教育格差を「やむを得ない」と考える傾向が強まっている。家計に「ゆとりがある」と回答した家庭で、教育格差を許容する保護者の割合は、2004年の54.7%から、2018年には72.8%にまで増加した。

公立の学校なら、困窮家庭の子どもを一定数受け入れている可能性が高い。にもかかわらず自分の目に見えないからと知らぬ顔をして、負担を求める保護者や学校側のありように、白田さんは疑問を感じている。

部活動は学習指導要領で「学校教育の一環」と定義され、「スポーツの技能等の向上のみならず、生徒の生きる力の育成、豊かな学校生活の実現」を目指すとされる。

白田さんのFacebookでも、部活動を通じて周囲への感謝の気持ちや強いメンタルを学び、成長できたというコメントが見られた。

「貴重な体験ができる機会だからこそ、誰もが参加できなければおかしい。児童福祉に携わる人間が『仕事柄』考えるのではなく、部活に所属する教師や保護者、生徒がみんなで考えなければいけないのではないでしょうか」(白田さん)

(文・有馬知子

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