イケアがベルリン・パンコウ地区に出店した最小のイケアストア。外観はシンプルだ。
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- ドイツで売り場面積が最小となるイケアストアが先ごろベルリンにオープンした。
- 大都市の居住区にミニ店舗を開設した狙いを、イケア・ドイツのトップにインタビューした。
- これまで超大型店で知られてきたイケアだが、急速な環境変化のなか、競合他社に対抗するためには今後事業のやり方を変える必要があると考えている。
「ドイツは高速道路ばかりではないということに、すぐに気がつきました」。デンマーク生まれのデニス・バルスレフ(Dennis Balslev)は40年にわたってイケアグループに勤務し、2018年にはドイツ支部のトップに就任した。
イケア・ドイツのデニス・バルスレフ社長
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ドイツといえば、スウェーデン生まれの大手家具チェーン、イケアにとってヨーロッパ最大の市場だが、彼の知るドイツといえば、高速道路のインターチェンジくらいなものだった。出口の外に建つのは、ブルーとイエローの映える大型イケアストアだ。
しかし、バルスレフのコメントには、別の意味が込められている。
イケアの大型店舗は高速道路出入口や産業地区、または遠隔地に位置することが多い。彼の意向は、店舗を徐々に移動させ、ドイツの大都市、つまり顧客のすぐそばに持っていきたいということだ。
2020年9月上旬、ドイツ最小のイケアストアがベルリン・パンコウ区にオープンした。バルスレフの目標に一歩近づいたことになる。そこでBusiness Insiderは開店に先立って新店舗を訪れ、バルスレフに話を聞いた。
イケアストアの面積は通常3万5000平方メートルもあるのに、パンコウの新店舗は450平方メートルという小ささだ。従来店と比べて約80分の1の面積しかないこの小ぢんまりした“プランニング・スタジオ”で、イケアは新しいストア・コンセプトをスタートする。
イケアといえば“キャッシュ・アンド・キャリー(現金購入持ち帰り方式)”の原則を地で行く家具店だが、新店舗ではセルフサービスをやめ、アドバイスとサービスのみを提供する。
ドイツ最小のイケアストア
建物の外観はシンプル
全体を鮮やかなブルーとイエローに塗った建物はパンコウ区の新店舗にはない。イケアストアの存在を示すのは、同色の小さな看板のみ。
最小のイケアストアの狙いは、空間デザインのプランニング
パンコウ区にオープンするプランニング・スタジオは450平方メートルの面積しかない。そのため、メインは空間デザインのプランニング。キッチン、寝室、収納システムがその中心だ。
設備プランの相談には予約が必要
顧客は個々の部屋の空間デザインのほか、住居全体の設備プランについてもアドバイスをもらえる。ただし予約が必要。たまたま立ち寄って運よく相談に乗ってもらえることもあるが、前もってスタッフの時間を確保する必要がある。
大都市の住まいに応じ、小ぢんまりしたキッチンのデザインに特化
パンコウ店に勤務する14名のスタッフの中には、住居全体の設備プラン・デザイナーもいる。プランニングの費用は35ユーロだが、家具を実際に注文する際に還元される。キッチンや収納システムの相談は無料。
収納システム「Pax」は定番
大都市に住む人々の持つ問題を解決するのが小型店舗の狙い。典型的な大型イケアストアを訪れるには車が必要だが、パンコウ店ではオーダー後に商品が配送される。自家用車では運べない衣装ダンスなど大型家具に最適。
キッチンや空間デザインにはムードボードを使用
大都市に住む、デザインにこだわる若いシングルの生活をリアルに描写するのがムードボード。フォトは一例。
こうしてできあがったキッチン
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市街地の1Kを対象に
リビング、キッチン、収納システムについてプランニングの手伝いをするのは、14名のスタッフからなるチームだ。
ここで家具やインテリア雑貨を購入して持ち帰ることはできない。店内でオーダーするか、または家に帰ってからオンラインで注文する。
「ベルリンをはじめとする大都市では、車を持たない人も少なくありません。イケアに来るためにわざわざ車を借りようとは考える人はいませんから」とバルスレフは言う。
家具やインテリア雑貨を買うときは感情的になりやすい。顧客は事前に一度は手で触れ、実際に部屋に置いたらどんなふうに見えるか確かめたい。「そのため、家具の販売では固定店舗が今もなお重要です」とバルスレフは説明する。ベルリンを拠点とするHome24や、アマゾンといったネットショップが、ケースバイケースで固定店舗を開設するのもそのためだろう。
とはいえ、まずは新しいコンセプトがいることは、販売店もすでに意識している。というのも、大型店舗を持つ大規模販売店の問題は近年ますます深刻化しているからだ。
専門家は、このコンセプトには将来のチャンスはないと踏んでいる。ドイツのハイパーマーケットチェーン、レアル(Real)の売却や、ヨーロッパのデパート最大手ガレリア・カールシュタット・カウフホフが経営不振にあえいでいることなどがその例と言える。
ヨーロッパで展開するガレリア・カールシュタット・カウフホフ。近年は業績不振が続いている。
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イケアグループはそのような状態にはまだほど遠く、イケア・ドイツの2019年の売上高は53億ユーロ、前年比+5.5%だ。なかでもオンラインショップの売上は33.2%も伸びている。
オンラインビジネスの増加と都市化によって顧客の消費習慣が変化の一途をたどるなか、イケアも将来に向けての変化を求められている。
今後、大型店は建てない
「そのためにわれわれも数年前に決断しなければなりませんでした。まず、ドイツ国内に大型ストアを建てないこと。代わりに、すでにある54店舗をさらに発展させるとともに、新たな小型店に投資することです」とバルスレフは語る。
2020年10月末にはプランニング・スタジオ第2号がポツダムにオープンする。2021年までにドイツ国内に同様のスタジオを5軒、ベルリン市街地にミニ店舗を1店、開設する計画だ。定番商品の持ち帰りも可能だという。
ここ数年増加の一途をたどるオンラインビジネスは、新型コロナウイルスの流行によりさらに加速した。「ネット販売を行うインテリア雑貨店は、コロナのおかげで急速に伸びています」
2020年3〜4月、ドイツでは数週間にわたってロックダウンを実施。イケアの売上は90%落ち込み、その後もネットで購入する顧客は多い。そのため、2020年度のオンラインビジネスの売上高増加率は44%と前年度を12%上回っている。
2020年の総売上高のうちオンラインビジネスの占める割合は15%になるとバルスレフは予測している。2019年は10%以下だったにもかかわらずだ(正確な数値は秋に公表予定)。
「コロナ時代の損失はすでに取り戻しています。2019〜2020年度の業績は前年度よりやや高くなる見込み」とバルスレフは言う。
郊外に建つイケアの大型店舗はいわばトレードマークとも言えるが、消費者のライフスタイルの変化により戦略の見直しを迫られている。
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「純粋なオンラインビジネスではない」
オンラインビジネスの人気が上昇中とはいえ、「純粋なオンラインショップにしようとは考えていません」と、バルスレフは語る。イケアが目指すのは「オムニモード」と言えるかもしれない。家具販売は今後も伸びると予測されるが、イケアストアは顧客との重要な接点であり続けるべきだという。
とはいえ、ネット販売を始めるにあたって難題がなかったわけではない。
「コロナ禍では配達が遅れることがよくありましたが、この点でもっとキャパシティを広げるべきですね。計画を見直して、迅速に配達できるように」。新しいプランニング・スタジオによって顧客の生活の中心にもっと近づきたい、近所の一部になりたい、というのがバルスレフの願いだ。
「パンコウ店は位置的にベルリン市街地ではありませんが、お客様が実際に住む場所、つまりコミュニティの中に存在したいと考えています」
イケアの狙いは、ドイツにおける市場シェアを上げることではない。イケアは現在、家庭用家具市場の8.4%を占めるにすぎないが、ドイツにおけるマーケット・リーダーでもある。ほかにはオーストリアの家具店XXXLutzやベルリンに拠点を置くヘフナー(Höffner)がある。
そのほか、近年設立されたオンライン家具店も、イケアの深刻な競合他社だ。たとえばHome24では、コロナ危機の四半期に売上高が最高に達している。マットレスのネット販売では、エマ(Emma)、Bett1、キャスパー(Casper)といったスタートアップ企業によって競争が激化した。
こうした競合他社すべてを相手に独自の道を切り拓く必要がある。これまでのところ、プランニング・スタジオにはかなり予約が入っているが、新コンセプトへの興味が実際に売上に反映されるかどうか、今後の動向に注目だ。
[原文:Ikea eröffnet seine kleinste Filiale: Deutschlandchef erklärt die neue Idee des Möbelhauses]
(翻訳・シドラ房子、編集・常盤亜由子)