米画像処理用半導体Nvidia(エヌビディア)のジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)。英半導体設計Armの買収は実現するか。
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- Nvidia(エヌビディア)が400億ドルでソフトバンクグループからArm(アーム)を買収するとの発表は、ジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)のテクノロジー分野における勇猛果敢な戦略家としての評価を際立たせる結果となった。
- NvidiaはArm買収により、半導体市場に君臨するインテルとAMDに並ぶ最有力のプレイヤーの仲間入りをすることになる。
- ただ、両社の統合は、Armのテクノロジーのライセンス供与を受けている他の半導体メーカーとの間にミゾをつくることになる。アメリカやヨーロッパ、中国といった主要な市場の競争当局も難色を示すだろう。
米画像処理用半導体Nvidiaによる英半導体設計Arm買収の報は、ジェンスン・フアンCEOが勇敢で、類まれなテクノロジー分野の戦略家であるとの評価を際立たせることになったが、一方で、予断を許さないリスクを伴う判断との見方も専門家たちからは出ている。
米資産運用バーンスタインのアナリスト、ステイシー・ラスゴンはフアンCEOについて、「勇敢な」リーダーで「コンピューティングの進化とそこでNvidiaが果たすべき役割について、独自のビジョンを持っている」と評価する。
「フアンCEOはこの10年間、人工知能(AI)と画像処理用半導体(GPU)にフォーカスしてきたが、彼は一度も立ち止まったことはなく、常にこの先の展開について考えを巡らせてきた。今回の買収合意はまさにそうしたリーダーシップが生み出したものだ」
しかし、Arm買収をテコに半導体市場における支配的なシェアを獲得しようというNvidiaの狙いはそう簡単には実現しないとみられる。ラスゴンはクライアント向けレポートで「おそらくフアンCEOの人生を賭けた戦いになる」と表現している。
Nvidiaはビデオゲームや大型映画作品に使われる画像処理チップのトップメーカーで、同分野については半導体産業の二巨頭と呼ばれるインテルとAMDに対してもいまや優位に立つ。
それだけではない。AIとクラウドコンピューティングの台頭という予期せぬ展開によって、Nvidiaは新たなビジネスチャンスをつかんだ。
AIテクノロジーは膨大なデータを取り扱うために強力なプロセッサを必要とするが、そこでNvidiaの画像処理用プロセッサは、インテル製やAMD製のチップより高い性能を発揮できることが明らかになったのだ。
Arm買収によって、Nvidiaは半導体市場の巨人としての存在感を強化できる。現在モバイル市場で広く使われている低電力のチップ設計を生み出した(Armの)優秀な人材にアクセスできるようになる。
また、Armのチップ設計は、半導体メーカーにとって大きな利益を期待できる急成長中の市場、すなわちデータセンターでも使われており、Nvidiaはそこでも優位に立てる。
Armのクライアントを説得できるか
米カリフォルニア州の店頭に並ぶNvidiaのグラフィックスカード。
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ただ、アナリストたちは大きな問題を1つあげる。それは、Nvidiaと競合する半導体メーカーを含むArmのクライアントの存在だ。
Armはサムスンやクアルコム、NXPセミコンダクターズ、STマイクロエレクトロニクスなどの大手を含む500社以上にライセンスを供与している。
「NvidiaとArmの統合をめぐる最大の問題は、ARMの(既存の)顧客企業の存在」と指摘するのは、エンドポイント・アソシエイツのアナリスト、ロジャー・ケイだ。Armの買収で得られる大きなアドバンテージがある一方で、頭痛のタネを抱え込む面もある。
「Arm買収により、Nvidiaは半導体サプライチェーンの最上流、つまりチップの基本設計に一足飛びでたどり着くことができる。そうすると、クアルコムやサムスン、アップルのような(Armの)ライセンス供与先にはどう説明するのか?あなたたちの知的財産(IP)は安全だとどうやって納得させられるのか?」
「何も問題ないと(クアルコムらを)説得できるかどうかは、フアンCEOのリーダーシップにかかっている。とくにアップルは、自分たちの依拠するIPの核心部分を他に握られるのを良しとはしない」
バーンスタインのステイシー・ラスゴンも「Armのライセンス供与先はどこも(冗談ではなく)憤慨するであろうことが目に見えている」と強調するとともに、今後想定される規制のハードルについて、「イギリス、EU、アメリカ、中国など、Armと関わりのあるさまざまな市場から承認を得ないと統合は実現しない」と語る。
それでも、IT専門調査会社IDC社長のクロフォード・デル・プレーテは、もし買収を実現できれば、Nvidiaはより大きな影響力をもつ半導体大手に成長を遂げることになると語る。
「半導体メーカーの歴史上、おそらく最も重要な買収案件になる。Armはエコシステムの中心にいる。そんな企業を買収できるチャンスというのがそうそうあるだろうか」
(翻訳・編集:川村力)