米メジャーリーグベースボール(MLB)の試合では、世界中のたくさんの野球ファンたちが画面の前でリアルタイムのデータ配信を待ちわびている。
Carmen Mandato/Getty Images
- 米メジャーリーグ(MLB)は、今シーズンからグーグルクラウドのマルチクラウド管理プラットフォーム「Anthos(アントス)」を導入し、グーグルクラウドと各球場にあるオンプレミスのデータセンターの両方でデータを蓄積している。
- Anthosを利用することで、MLB側は試合のデータを処理し、リアルタイムで放送局やスコアボードに配信している。
- MLB側はレイテンシの理由から、球場にあるデータセンターでコンピューティングを行わなければいけないケースがあり、それを実現する手段としてAnthosを選んだという。
今季のMLBは新型コロナウイルスの影響で7月23日に遅れて開幕、試合数を60試合に短縮して行われている。
開幕初日から、MLBはグーグルクラウドのマルチクラウド管理プラットフォーム「Anthos」上でアプリケーションを実行している。Anthosを使えば、グーグルクラウドにも、自前のデータセンターにも、必要なら他のクラウドにも、データを蓄積できる。
Anthosの導入により、MLBはグーグルクラウド上でも、球場にあるデータセンターでも、環境にしばられずアプリケーションを実行し、打率の計算やホットドッグの売上分析といったタスクでデータを処理できるようになった。
また、MLBはグーグルクラウドの人工知能(AI)サービスも活用しており、リアルタイムで収集した試合のデータをもとに処理や分析、決定を行っている。
MLBはこうしたデータを自分たちで分析するだけでなく、しばしばファンの手もとまで届ける必要がある。しかも迅速に。そこで強みを発揮できるのが、Anthosのハイブリッドクラウドあるいはマルチクラウドだ。
MLBでは、放送局のキャスターやスコアボードに最新のスタッツ(=選手やチームのプレー内容に関する統計数値)を配信する際、レイテンシ(=通信の遅延)の都合で、球場にあるデータセンターでコンピューティングを行うことがよくある。
MLBバイスプレジデント(テクノロジーインフラ担当)のクリス・エイミーはこう説明する。
「5秒、いや3秒すらも待てないときが僕らにはあるんだ。テレビやスマホの画面の前にいる野球ファンはみんな、球場で起きてることをリアルタイムで見たがってる。だから、僕らは間髪入れずに球場でデータを処理しなくちゃならない」
MLBでは球場にも小型のデータセンターを設置し、迅速なデータ処理を行っている。
Carmen Mandato/Getty Images
MLBはかつて、VMware(ヴイエムウェア)の仮想化環境を使っていたが、1年半前にテクノロジーのアップデートに着手した。
その一環として、自前のデータセンターとクラウドとの間のデータ移動を容易にする「コンテナ」を採用。それがAnthosを選ぶもう1つの大きな理由となった。
Anthosは、グーグルから生まれたオープンソースのクラウドコンピューティングプロジェクト「Kubernetes(クベルネテス)」がベースになっていて、コンテナを使う。
前出のエイミーによると、MLBはKubernetesへの移行をしばらく検討したが、最終的には、Kubernetesを使ったコンテナ化が可能で、なおかつ自前のデータセンターとクラウドで均一的な環境を確保できることからAnthosの採用を決めたという。
また、MLB側の開発者にとっても、データ処理が行われるのがクラウド上なのか、オンプレミスのデータセンターなのか、はたまた球場にあるデータセンターなのかをいっさい気にせず、まったく同じ環境のもとでアプリケーションを構築できるのは大きい。
「我々は開発者たちの役に立つ最新のクラウドテクノロジーを生み出すために大きな投資をしている。いまやエッジデバイスで機械学習を行うユースケースが多くみられるようになり、実際我々も一部をエッジで、残りをクラウド上で行っている。そうした作業を完全にシームレスに実施できるようにしてくれるのがAnthosだ」
(翻訳・編集:川村力)