撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
今回は読者の方からお寄せいただいたご相談にお答えします。テーマは、「人間関係を理由に転職するのはアリか?ナシか?」。
20代の皆さんからは、同じような相談をよくお受けします。
それに対する私の答えは、「人間関係だけが理由なら、早まって転職しないほうがいい」です。
その理由と、「会社を辞めずに人間関係の悩みを解決する方法」「やはり転職したほうがいいケース」についてお話しします。
人間関係の悩みは、どんな会社に行っても発生し得るもの
人間関係だけが理由である場合、転職を早まらないほうがいいのはなぜか。
それは、転職したからといって、人間関係の悩みが解決できるとは限らないからです。
どんな会社にも、自分と相性が悪い人、信頼関係を結ぶのが難しい人と遭遇する可能性があります。
面接を受けて「この上司と一緒に働きたい!」と入社を決めたものの、その人とは異なる部署に配属されてしまったり、その人が他部署へ異動して苦手なタイプの上司が来てしまったり……なんてことはよくあるものです。
転職にはリスクがつきものですから、安易に踏み切るのはやめましょう。まずは今の会社を辞めずに悩みを解決できるよう、行動を起こしてみることをお勧めします。
その方法を、いくつかご紹介しましょう。
異動願いを出す
若手の皆さんには、配属された部署の世界がすべて……のように思い込んでしまっている人も。実は、異動によって他部署に移るチャンスがあることに気づいていなかったりします。
会社の人事制度を調べてみる、上司や人事に相談してみるなどして、異動の可能性を探ってみてください。
社内の勉強会、組織横断プロジェクトなどに積極的に参加して他部署の人たちとの関係を築き、他部署から「招いてもらう」ように動くのも手です。
上長に相談し、解決に動いてもらう
今の部署にとどまりたいのであれば、あなたにストレスを与えている相手が他部署に異動するように戦略を練ってはいかがでしょうか。
相手がグループメンバーであれば直属の上司に、相手がグループリーダーであればマネジャーに、相手がマネジャーであればさらにその上の部門長などに、相手との問題やトラブルを伝え、「一緒に働いていくのは難しい」と相談してください。
これは、相手が異動になるか、自分が異動を勧められるか、五分五分の賭けになるでしょう。相手が上長である場合は、分が悪いかもしれません。ただ、可能性はゼロではありません。ほかのメンバーも同様に感じている可能性もあるからです。
自分に有利に運ぶためには、くれぐれも感情的にならないように。「客観的」「論理的」に話すことを心がけてください。
今の自分と相手の関係性が、チーム全体の取り組みや業績に対して、どんなマイナス影響を及ぼすことになるのかを、理路整然と伝えましょう。
そのうえで、自身の今の部署・仕事への強い思いを語り、「この人間関係の悩みを解消できれば、これだけのパフォーマンス、成果を挙げられます」と宣言してはいかがでしょうか。
そうすれば、上長はあなたの悩みの解決に動いてくれるかもしれません。
相手の存在が気にならないように、自分の世界を広げる
ちょっと想像してみてください。
あなたが5人と一緒に共同生活を送っていて、その中に嫌いな人が1人いる状態。
100人と一緒に共同生活を送っていて、その中に嫌いな人が1人いる状態。
後者の環境であれば、嫌いな1人の存在は、それほど気にならないと思いませんか?
そこで、自分のコミュニティを意識的に拡大してみてはいかがでしょう。自分のグループや部署の人と付き合うだけでなく、他グループや他部署の人との交流を広げてみる、あるいは社外の人との交流を広げてみる。
そうして自分の世界が広がれば、今、あなたの中で大きな割合を占めてしまっている「嫌な人」の存在感がぐっと薄れ、気にならなくなるかもしれません。
社内外でのネットワークの広げ方は、この連載の第28回、33回でも触れていますから、参考にしてみてください。
一度、相手としっかり向き合ってみる
ストレスの元凶となっている相手と、あなたはしっかり向き合って、対話をしてみたことはありますか?
それをしたうえで、「この人とはやっていけない」と思うなら仕方がありませんが、まだ試みていないのであれば、ぜひ一度、腹を割って話す機会を作ってみてください。
意外と、相手を誤解していたり、思い込みがあったりするものです。
昔、嫌なことをされた人物とタイプや雰囲気が何となく似ていることから、その人の言動すべてに嫌悪感を抱く……なんてケース、実はよくあります。
私も会社員時代にありました。上司が私にばかりキツい態度をとるので、「嫌われているんだ」と苦手意識を持っていたのです。
その後、異動で離れ、17年後にOB会で再会。昔話をする中で、「◯◯さんは、私には意地悪でしたよね!」と言うと、「お前はああいう言い方をされたほうが、もっと頑張れるだろうと思ったんだよ」との答えが……。
じっくり話してみると、その人は私を買っていて、成長させようとしてくれていたのです。その事実を17年越しで知ることになりました。
自分は気にかかっていても、実は相手には何の悪気もないのはよくあること。自分の気持ちを素直に伝えることで、相手が気づくこともあるはずです。
一度、正面から向き合ってみてはいかがでしょうか。
「社風が合わない」なら転職もアリ
「人間関係が良くないから転職したい」と言う方の話をじっくり聞いてみると、「それは人間関係が悪いというより、『社風』が合っていないんですね」というケースがあります。
これは混同しがちですが、問題の本質が異なります。例えば——
「自分は仲間との一体感を持って働きたいのに、うちの会社は個人主義で、1人ひとりが自分勝手に動いている」
「うちの社員たちは、休日でも集まって一緒に遊んだり、バーベキューをしたり。それに誘われるのが苦痛だし、断るのも苦痛」
これらがチーム単位のことであれば、別のチームへの異動で解決できますが、会社全体のことであれば、それは「カルチャー」「風土」といえます。
そこになじむことができず、価値観にギャップを感じるのであれば、今後もストレスが消えることはないでしょう。
このような場合は、転職という選択肢もアリだと思います。
転職に踏み切るなら、次こそ「社風」がフィットする会社を見つけてください。次のような行動によって、候補企業の社風を見極めましょう。
- 会社や経営陣のSNSなどを見て、公式サイトでは分からない雰囲気を感じ取る
- 中途採用ページだけでなく、新卒採用ページにも目を通し、社員のインタビューや仕事のスタイルを知る(※新卒採用ページは、学生向けにわかりやすく、より具体的に紹介されていることが多いのです)
- 選考の過程で、現場で一緒に働くメンバーに会わせてもらう
- 社内イベントに外部の人を招いたり、「社会人インターン」「副業スタッフ」を受け入れていたりする企業もあるので、そうした機会を利用して参加してみる
くれぐれも感情に流されず、自分と相手、自分と職場の関係のあり方を冷静に見つめ直してみてくださいね。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
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※本連載の第35回は、9月28日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。