九州経済連合会の「婚機創出事業」で使用される恋愛AIナビゲーションサービス「AILL(エール)」。
出典:九州経済連合会とAILLのオンライン会見より。
九州経済連合会(九経連)は、加盟企業の独身社員の出会いを促進するため、AI(人工知能)を活用した恋愛ナビゲーションアプリと提携した。経済団体と出会い系アプリという意外な組み合わせ……その背景には、地方経済にとって、人口減少の抑止が喫緊の課題であるという危機感がある。
業界団体が主導する「婚機創出事業」
AILL(エール)の豊嶋千奈代表取締役。
出典:AILLのリリースより。
九経連が9月17日に開始した「婚機創出事業」は、スタートアップのAILL(エール)と共同で実施するもの。九経連の加盟社約1030社の正社員の独身者が、福利厚生として、このサービスを利用できる。
マッチングアプリには、エールが提供する恋愛AIナビアプリ「Aill(エール)」を利用する。
最大の特徴は、通常のマッチングアプリと異なり、利用者が対象企業の社員かどうかを確認してから登録できることだ(公開されるのは双方の業種のみで、会社名は表示されない。個人情報を保護しつつ、一定の身元確認として機能を狙う)。こういった利用者の「安全・安心」という面からも、九経連が導入を決めた。加盟企業の社員は、「Aill(エール)」に登録すると、社外の独身者とマッチングができる。
なお、サービスに登録したことが自社に知られることはなく、秘匿性は遵守しているという。
AIが恋愛成就をサポート
AillではAIキャラがマッチングした2人の会話をサポートしてくれる。
出典:AILLのリリースより。
最大の特徴は、アプリを通じてメッセージのやり取りをする際に、AIがナビとなって助言すること。
デートに誘うタイミングや、趣味の話をする際など、どのタイミングでどのように話を進めれば、うまくいきやすくなるかを、AIナビがアドバイスするという。
Aill(エール)の画面。あくまで真面目な出会いが目的であって、遊び目的による利用や、既婚者や営業目的での入会は違反行為になる。
出典:AILLのリリースより。
エールの開発には、ナビゲートエンジン開発で北海道大学の川村秀憲教授が、AIシステム設計で東京大学の松原仁教授、データ分析で東京大学の鳥海不二夫准教授が関わっている。
エールは2019年、大手企業11社でトライアルを実施。AIナビによるアシストの効果で、マッチングした相手との直接対面によるデートへの進捗率が4倍に上がったという。
実施したトライアルで、AIによるアシストが効果があるとわかったという。
出典:九州経済連合会とAILLのオンライン会見より。
トライアルでわかったAIによる効果。
出典:九州経済連合会とAILLのオンライン会見より。
業界団体の「人口減少に対する危機感」
九州の人口増減。自然増減も社会増減のいずれも減少している。
出典:九州経済連合会とAILLのオンライン会見より。
九経連が恋愛アプリとの提携を行った背景について、九経連の観光・サービス産業部、升本喜之部長は、人口減少があるとした。
「根源は人口減少問題。減少が非常に大きい。九州では、自然増減、社会増減とあるが、社会増減が転出が転入を上回っている。このまま九州域内の人口減少が進めば、現在約1300万人の人口が、30年後には1000万人をきるかもしれない。人口が減ると、経済の停滞や、社会基盤であるインフラが作れなくなる。また、社会基盤の問題は、雇用の問題、福利厚生の問題だったりする」
2018年の人口動態統計によると、婚姻率(年間婚姻届出件数を10月1日現在日本人人口で割り、1000を掛ける)の全国平均は4.7%で、九州では福岡県と沖縄県以外、軒並み下回っている。
生産年齢人口の割合は全国平均より少ない。
出典:九州経済連合会とAILLのオンライン会見より。
また、九州の生産年齢の人口は全国平均より下回っており、こういった背景も九経連には危機感に結びついている。
従来から経済界と行政が一緒になって、婚活パーティーなどに取り組んではいた。しかし、場所、時間、集まる人数などでどうしても制限があった。
「加盟している事業社の中で出会いを進め、まずは九州域内での婚機を創出していきたい。必ずしも結婚をゴールにしているわけではないが、まずは男女の出会い。一番の根源にこの事業は踏み込んでみたい」(升本部長)
九経連がバックアップすることで利用者への安心安全の担保となる。
出典:九州経済連合会とAILLのオンライン会見より。
北大のAI研究の知見、今後の「恋愛支援」には経済面の課題も
エールの豊嶋千奈代表取締役は、自身の体験からこの恋愛AIナビアプリを企画し、北海道大学で人工知能研究を進める川村教授らとともに開発して起業した。
北海道大学の川村秀憲教授は、豊嶋氏から企画を相談され開発に協力した。
出典:九州経済連合会とAILLのオンライン会見より。
会見に出席した北海道大学の川村教授は、アカデミックな立場からこういったサービスに取り組む意義を語った。
「実際の社会の課題は、大学の中や論文の中にはなかなかない。AIを理論的な側面やアカデミックな側面で発展させていくことも大事だが、僕自身は、こういうテクノロジーを使って課題を解決したり新しいものを作って行くことに興味がある。
出口として、これで婚活して結婚していく人がうまれたり、明るい未来に向かって人が前向き取り組めるような原動力になれば、我々も研究者冥利につきる」
経済団体が、恋愛アプリを活用した事業を行うというのは、時代の流れもあるとはいえ、かなり思い切った取り組みだ。
しかし、そもそも付き合うに至ったとしても、結婚に至るには別のハードルがある。
特に大きな理由としてあがるのが、若者世代の経済面だ。結婚式の費用であったり、結婚生活における金銭面が、国の調査等で常に大きな不安点として上げられる。九経連はそこへのサポートをどう考えているのか。
「(九経連として)補助的なものはないが、例えば、このマッチングアプリで成立したカップルが、ゆくゆくは(本事業が)ウェディング会社と連携できた時に、少し安くするなどはしていきたいという構想はある。
まずは、このアプリをうまく稼働させていくことに注力したい」(九経連の担当者)
一方で、経済的な不安は、九経連と連携するサービスだからこそ解消できるとする。
「九州の魅力的な企業が、九経連の厳しい登録条件をクリアして加盟している。福利厚生が整っている企業も多い。
魅力的な働き口があるというのは、九州の人たちにとって魅力的なメッセージのひとつ」(豊嶋代表取締役)
今回は加盟社企業向けだが、将来的には長崎県や鹿児島県に多い離島や、農村も視野に入れている。
(文・大塚淳史)