お茶の抽出にデータセンシングを活用した「teploスマートティーポット」。
撮影:大塚淳史
異色のスマートティーポット「teplo」をご存知だろうか。2015年創業のLOAD&ROADが8月29日に販売開始したもので、価格は税別2万5000円。日本茶、紅茶、中国茶から台湾茶まで、「お茶」を体調や気分に合わせてパーソナライズして抽出してくれるという。
自動抽出ポットと言えば、コーヒーメーカーをどうしても思い浮かべるが、これはあくまで「お茶」。記者自身は、お茶を煎れるというのは、あたり前だが人の手でやるものだ、という印象がいまだにある。この意外性のあるIoT機器の実力を実機で体験してみた。
CESでイノベーションアワード受賞の注目のIoT機器
ポット下部真ん中にある円形部分に人さし指を押してセンシングする。
撮影:大塚淳史
実物のteploは一般的なコーヒーポットと外観は変わらない。ただ、teploは“スマート”とつくだけあって、さまざまなセンサー、アプリとの連動といった新味がある。
開封すると、まず初期化をして(このあたりがいかにもIoT機器っぽい)、スマートフォンにアプリをインストール。その後、Bluetooth経由で連携させれば、お茶の抽出準備は完了だ。
teplo用の茶葉は紅茶、緑茶、中国茶、台湾茶など複数種類あるが、今回は紅茶の「Margaret's Hope Darjeeling Black」を選んだ。アプリ上では、その茶葉の効能や生産地、最適な抽出条件の解説が読める。
アプリ上ではお茶の効能や、抽出の最適条件の解説などがある。
撮影:大塚淳史
ポットに水を300mlを加え、インフューザー(中の網の部分)に茶葉を入れた。アプリ上で、自分が選択した茶葉を選び「Brew(抽出)」ボタンをクリック。
このあとがユニークで、体の様子をチェックする。まず「センサーを使う」を選択し、ポットの下にあるセンサーに人さし指を約15秒ほど乗せて「計測」するのだ。teploには脈拍、指温度、室温、湿度、照度、騒音レベルを計測するセンサーが内蔵されている。利用者や環境を解析する。そして、独自に開発したアルゴリズムで、抽出温度と時間を導き出してくれるという。
なりたい気分の質問には「仕事に集中」を選ぼうかとも思ったが、最近疲れ気味だったので「元気がほしい」にした。
条件などを設定して抽出する。
撮影:大塚淳史
果たして、今の自分にあった、飲みたいお茶を出してくれるのか。ワクワクしながら、抽出開始。
中の水が沸騰し始めると、インフューザーが回転した。このインフューザーも独自のもので、重りがついており、回転で重りが上に持ち上げられると、茶葉側の方が水に接し、重りが上に達すると、重みで下におりてくる。この回転の繰り返しによって、お湯が徐々にダージリンティーの茶褐色に染まっていった。
機械好きとしては、その無機質に回転していく様子が面白く、ずっと眺めてしまった。
抽出作業そのものは、約7分ほどで完了。別売りのグラスに入れて、口に含んでみた。
センサーで水温調節をしているためか、適度な暖かさで舌触りが良い。やや濃いめの味と、心地のよい苦みがある。仕事でモヤモヤし、疲れがたまっていたが、元気が出てきたような気がした。
エンジニア視点で茶の抽出を探求
抽出された紅茶は美味しかった。
撮影:大塚淳史
LOAD&ROADの河野辺和典代表は、エンジニア視点でスマートティーポットをつくったと話す。
「(実は)元々お茶が好きだったわけではなかった。(アメリカの)ボストンの大学院にMBA留学をしていた時、カフェが楽しくて毎日飲んでいたら体調が悪くなり、アールグレイを飲み始めたら(なぜか体調が)良くなった。そこでスーパーで紅茶や緑茶買って飲み始めて、お茶っていいなと良さを再認識するようになっていきました」
MBA留学前はエンジニアとして働いていたこともあり、理系的な探究心が湧き上がってきたという。
「お茶を美味しくいれたいなと考え、数値を制御できる部分、温度、時間、茶葉や水の量で、味が左右されるのが面白いと感じました。例えば、緑茶は40度で入れたお茶と90度以上でいれたお茶もまったく違う。一般的には人が経験でやっているが、エンジニアだったこともあり、制御は機械でやった方が良いじゃないか、とますますハマりました」
LOAD&ROADの河野辺和典代表取締役。
出典:リリースより。
そして、当時のクラスメートだったインド人とともに創業した。
特徴の一つであるセンシングによる最適抽出も考え抜かれたもの。しかし、脈拍や温度はまだしも、騒音や照度のセンシングデータがどんな意味があるのか。
「騒音でいうと、リラックスしたい時にすごく雑音が酷いところ、うるさい環境にいると、あまりリラックスできない。少しリラックスできる程度に、お茶を抽出してあげる。照度であれば、朝これから仕事する時、暗いところにいる時、お茶の濃さを変えます」(河野辺代表)
しかし、もちろん人それぞれ好みは違う。teploがセッティングしたお茶が、その人にとって最適だったのか、はどうやって調節していくのだろう。
「(好みは)確かに人それぞれ。抽出後にレーティングできてるようにしてあり、(評価を)蓄積することでパーソナイライズしていける。初期は我々のレコメンド状態で、弊社が数百人にモニタリングしていったデータを蓄積していったもの」
つまり、使えば使うほど、自分自身の気分や体調に沿った味わいになりやすくなる、という。嗜好品を楽しませるアプローチとしては、なかなか面白い。
不思議に感じた、インフューザーの重しの回転も、計算したものだという。
「回転は肝の技術です。急須でお茶を湯飲みに入れる動きがヒントになりました。抽出温度を調節中、抽出終了後は茶葉が上になって、水と分離している状態。“抽出している時だけ”水と茶葉が触れ合い、計画的に抽出する。
回転速度だけでなく、回転するのか、振り子にするのか、あるいは茶葉をつけた状態で制止するのか。茶葉に応じて、美味しくいれる回し方を制御できる」(河野辺代表)
重りの重量は150グラム強だが、これにも意味がある。
「お茶の入れるメッシュの方が、茶葉が水をすって重くなる。1回当たり使う茶葉10〜15グラムが、水を吸うと約150グラムぐらいになる。それよりも重くなるように」(河野辺代表)
150グラム強のインフューザーの重しが、抽出の肝。
撮影:大塚淳史
現時点ではまだ準備中だが、アプリを通じて茶葉を購入できる仕組みもつくる。同社が商社や生産農家から卸した緑茶、紅茶、中国茶、台湾茶などが購入できるようになるという。
もちろん、自分で購入した茶葉でも使える。その際は、自分で茶葉を登録して使用する仕組みだ。
製品付属の茶葉を使ったが、市販の茶葉を使用しても構わない。
撮影:大塚淳史
茶文化に親しむきっかけになるかも?
お茶はコーヒーに比べて消費量が減少傾向にある。
全国茶生産団体連合会・全国茶主産府県農協連連絡協議会がホーム-ページで公開しているデータによると、緑茶、紅茶、ウーロン茶を合わせた年間消費量は、平成以降、2004年の約15万6000トンをピークに、2018年には約11万2000トンまで下がった。
一方で、外来品であるコーヒーの2019年国内消費量は、そのほぼ4倍の約45万トン(全日本コーヒー協会のホームページより)だ。
お茶文化に親しむきっかけとして、「特にコツを知らなくても任せておけばおいしく淹れてくれる」スマートティーポットは、お茶の良さを知るきっかけとしてアリなのかもしれない。
(文・大塚淳史)