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コロナ禍でも「中国人は日本の不動産を買い続ける」。DXで株価4倍の不動産ベンチャー社長が断言

テクノロジーを活用した不動産ビジネスを展開するGAテクノロジーズ(東京)が9月、人工知能(AI)ベンチャーNeoXから中国人向けインバウンド不動産事業「神居秒算」を取得した。GAテクノロジーズの株価はコロナ・ショックで2020年3月13日に1797円まで下がったが、神居秒算の取得や、経済産業省と東京証券取引所のデジタル・トランスフォーメーション(DX)銘柄に選定されたことが好感され、9月18日の終値は8170円と、2020年最安値の4倍以上に上昇している。

「当社は以前からどの会社よりもデジタル化に取り組んできた。今の株価は地道な取り組みの反映」と話す同社の樋口龍社長と、NeoXの何書勉社長に、M&Aの経緯やコロナ後の不動産市場の展望を聞いた。

現地見ずに不動産を購入できるアプリ

神居秒算

中国人が現地に出向かずとも不動産を購入できるよう、必要情報を全て盛り込んだプラットフォーム「神居秒算」。

アプリより

「2019年9月に黒字になり、これから成長軌道に乗るところだった。コロナ禍がなければ、正直売らなかったかもしれない」

そう話す何社長は、中国出身。京都大学博士課程で時空間データベースを研究し、楽天に入社、31歳で同社初の外国人執行役員に抜擢された。楽天を退社後はIT企業GREE(グリー)で中国事業の責任者に就任。経歴は華々しいが、実際は挫折続きだった。

「日本の大学で学び、日本企業でしか働いたことがなく、社会人経験も少ないのに、楽天で中国企業との合弁事業を任され、自信が持てず翻弄された。グリーでも在任中に中国支社の閉鎖が決まり、全員を解雇して自分一人日本に戻ることとなり、つらかった」

2度の挫折で「中国はもうこりごり」と思っていたが、2017年、投資家に勧められて起業し、開発したのが中国人向け不動産情報アプリ「神居秒算」だ。

同アプリはAIと過去の取引情報などのビッグデータを活用し、賃貸に出したときの利回りなども含めた物件情報を提供。現地に出向かずとも必要な情報を全てオンラインで提供し、購入できる仕組みを作った。拡張現実(AR)を活用し、カメラを軌道すれば売りに出ている物件と価格が表示されるため、旅行中でも物件を探せる。何さんの本来の研究分野を生かした事業で、日本で物件購入を希望する中国人が最も使う不動産プラットフォームに成長した。

中国の顧客獲得している「唯一無二」の存在

神居秒算のビジネスモデル

神居秒算のビジネスモデル

GAテクノロジーズのプレスリリースより

賃貸、売買、投資、リノベーションなど不動産総合プラットフォーム「RENOSY」を運営するGAテクノロジーズの樋口社長は、「当社が不動産プラットフォーマーとして成長するためには何らかの独自性が必要で、中華圏で顧客を獲得していた神居秒算は唯一無二だった。ビッグマーケットの中国は絶対取っていきたいが、独自で立ち上げるのは難しい。売却してもらわないという選択肢はなかった」と振り返った。

2019年11月に国際事業部を設立し責任者についた樋口社長は、進出国を検討する中で、何社長のインタビュー記事を読み、「すごいな、話を聞いてみたいな」と、Facebookのメッセンジャーから連絡した。だが、3週間経っても返信がなく、樋口社長はNeoXの公式サイトの問い合わせフォームから再びメッセージを送った。

何社長は「実はその頃は中国に滞在していて、Facebookはつながらないから、メッセージにも気付いてなかったのですよ」という。何社長が日本に戻ってきた2020年1月、2人は対面した。

M&A決断を後押ししたコロナ

東京

コロナ禍、五輪延期に揺れる日本の不動産市場だが、世界的にみると堅調だ。

voyata shutterstock.com

2度目の面会で、樋口社長は神居秒算を取得したいと伝えた。

一方、「3度目の正直」を目指し、事業が軌道に乗りつつあった何社長は、さまざまな思いが交錯したという。

「私はテクノロジーを使って、不動産の買い手と売り手の情報格差をなくし、業界の透明性や効率性を高めることを目指していた。そして、GAテクノロジーズのサービスと当社のやろうとしていることも、経営者同士考えていることもほぼ同じで、このままいけば敵になるかもという危機感を感じた」

最初に申し出を受けたときは返事を保留したものの、さまざまな選択肢を考えて、その日のうちにシステムのソースコードのバグの修正に着手した。

「GAテクノロジーズを徹底的に調べたが、不動産取引のワンストップサービスなど、かなり近い姿を目指していると分かり、上場企業相手の同社と戦うよりは、シナジーを追求した方がいいかもしれない。神居秒算は私ではなく、私の子ども。成長のためにはもっとよい先生に託した方がいい」と、最終的に売却を決断した。

社長

GAテクノロジーズの樋口龍社長(左)と、NeoXの何書勉社長。ともに、テクノロジーで不動産業界に変革を起こす取り組みを続けてきた。

撮影:浜田敬子

決断の背景にあるのは、何社長がITの専門家で、樋口社長が不動産業界の出身者という点だ。

「私はITの専門家。不動産業界を変えたいという思いはあったが、外国人だし、業界の深いルールは分かっていないという不安が3年間あった。これまで不動産業界のアドバイザーにも助けてもらってきたけど、樋口さんはこれまで会った誰よりも業界に詳しかった」(何社長)

さらに、新型コロナウイルスの拡大を背中を押した。

樋口社長は「疑いの余地がないことは、中華圏が伸びる、コロナはいつかは収まるということ」と言うが、社員20数人を抱える何社長は、「コロナ禍の影響は誰にも読み切れない。樋口さんと最初に会ったのは1月だったが、その頃にはここまで長引くと思っていた人は少なかったはず。不確定要素が多い環境で、確実に生き残るためには、人材も事業も大きい企業に託した方がいい」と考えたという。

NeoXは神居秒算事業とAI事業を手掛けており、上海も含めた社員の約半数と神居秒算事業をGAテクノロジーズに譲渡。何社長はNeoXでAI事業に注力する。

コロナ後の商業不動産投資は東京が世界トップ

jll

NYなど他の大都市の落ち込みに対し、東京への商業不動産投資は底堅い。

JLLプレスリリースより

コロナ禍で人の生活は一変した。

飲食店がテイクアウトを始め、テレワークも一気に普及した。国境を超えるのは簡単ではなくなった。非対面・非接触が推奨され、だからこそ不動産取引のオンライン化を早くから進めてきたGAテクノロジーズの株価が上がっているわけだが、オフィス縮小や訪日中国人旅行者の蒸発など、インバウンド、不動産業界は共に逆風が続く。

一方、中国はコロナ禍をいち早く脱し、自動車業界など製造業は急ピッチで回復が進む。それでも、中国政府は感染症防止と国内消費回復の両面から国内旅行を推奨しており、間もなく迎える今年の国慶節連休でも、日本で中国観光客の姿を見ることは少ないだろう。

それでも何社長は、「中国の高所得者の消費は戻っており、不動産投資意欲は引き続き強い。神居秒算への問い合わせ件数も、7月にはコロナ前の水準に戻った」とし、「米中関係がかつてないほど悪化し、コロナも落ち着かない。欧州でも反中ムードが高まっている。先進国の中では日本との関係は想定的に安定しており、投資先として日本を選ぶ人が増える」と話した。

世界をコロナ禍が襲う中で、日本の不動産市場の堅調さを裏付けるデータもある。

総合不動産サービス大手JLLの調査によると、2020 年上半期の世界の商業用不動産投資額は前年同期比 29%減の 3210 億ドル(約34兆円)、第2 四半期の投資額は同 55%減1070 億ドル(約11兆円)と大打撃を受けた。国別のデータは出ていないが、2020 年第上半期の都市別投資額は東京(150 億ドル)が世界 1位で、上位10都市の中でも減少率が際立って低い。今後の状況は不透明だが、世界的にみるとリスクが低い市場だと評価されているのが分かる。

樋口社長は日本の不動産市場そのものについて「若干の調整は入るかもしれないが、大崩れはしない」と楽観的だ。

「車と違って住居は絶対に必要なもの。そして資産という視点で考えると、不動産の価値はどこまで行っても立地」

不透明な環境での神居秒算のM&Aについて、GAテクノロジーズの取締役会では慎重な意見が多かったという。中国人の不動産“爆買い”に不安を抱く日本人も少なくない。

それについて樋口社長はこう言い切った。

「日本は人口減社会に入り、不動産を購入する日本人は確実に減っていく。買い手がグローバル化しないと、今の不動産所有者にとってもマイナスになる。外国人に売るだけでなく、その後もケアする仕組みを我々が提供した方が、日本のためになる」

(文・浦上早苗)

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