3日間レビュー:「Apple Watch SE」のコスパとバッテリー性能を実機を触って考えた


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「Apple Watch SE」。試用したのは“大きい方”の44mmモデルだ。

撮影:伊藤有

9月16日の発表から、その週の金曜日には発売、そして日本は4連休に突入。この週末にさっそく手に入れて使い始めた人もいるかもしれない、新型Apple Watch。今回、最新のSeries 6のほかにApple Watch SEという普及機種が初めて登場した。

個人的にこのSEは、発表時からアップルの戦略機種だとみて、注目していた。

手元に届いた試用機材をこの3日間触っていると、いろいろと気づかされることがった。Series 6にはない特徴もあり、なるほど、これはただの廉価機種じゃないな、という実感がある。

これまで使っていた画面常時点灯モデルであるSeries 5との比較も交えて、SEを触って見えてきたことをまとめてみよう。

激似の「Series 4」とは、背面で見分けられる

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開封して取り出したところ。この仕上げの良さを見ると「これでSEか」と思わずにいられないが、あえて安っぽくするようなことはしないのが最近の流れ。

撮影:伊藤有

発表時の記事でも書いたとおり、SEは2018年に登場したSeries 4と、2019年発売のSeries 5が融合したような製品だ。

Series 5から導入された「画面の常時点灯」、Series 4から入った「心電図(ECG)」の電気心拍センサーや最新機種Series 6の「血中酸素濃度」センサーを省いた代わりに、価格を大幅に抑えている。

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アップル公式の製品比較ページより。センサーの違いがよく分かる。このほか選べる本体色や素材(ステンレスなど)がSeries 6の方が豊富、という点がSEとの違いだ。

出典:アップル

単体で通信できるセルラーモデルでも3万4800円(40mmモデル、税別)というのは、過去のApple Watchの価格帯からすると破格といえる。にもかかわらず、動作のサクサク感にかかわる心臓部はSeries 5世代の「S5」だと思えば、コストパフォーマンスはさらに際立つ。

さて、実機のぱっと見は、普段は画面が消灯しているということもあって、「Series 4」そのものに見える。

あまりに違いが分からないので、手元にあるSeries 4と比べてみた。

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照明のあたり具合ではなく、実際にもこういう色の違いがある。右のSeries 4のほうが、微妙に色が薄い。紫外線による退色も多少あるかもしれないが、SEのスペースグレイの方が「より締まって見える」のは確かだ。

撮影:伊藤有

比較しなければ絶対に分からないレベルの違いとして、どうも本体色(スペースグレイ)が微妙に違うように見える。Series 4の方がやや明るく、SEのほうがより黒っぽい。

また、性能には関係ないもう1つの違いとして、背面の心拍センサー部分のデザインが違うことも分かった。

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こちらの写真は、あえてSeries 5の40mmモデル(右)との比較。脈拍センサーの機能的には変わらないはずだが、デザインの意匠が違う。ちなみにSeries 4の脈拍センサーのデザインは、右のSeries 5とほぼ共通。

撮影:伊藤有

とはいえ、かたやセルラー版で3万円台のスタンダードモデル(SE)、かたや当時は6万円近かったモデル(Series 4のセルラー版)が、質感水準では「ほぼ完全に同じ」で、高級感も十分あるというのは、やはり相当戦略的なモデルといえる。

とにかくバッテリーが持つ。実質2日間動作

「画面が常時点灯ではない」というのは、比較上のウィークポイントになるが、Apple Watchをずっと使ってきた人なら「メリット」もすぐに思いつく。

画面が消えることは、バッテリー駆動時間には大きくプラスに働くはずだからだ。

スペックシート上は、バッテリー駆動時間はSeries 6もSEも、変わらない「最大18時間」だ。

実際、2年前のSeries 4は非常にバッテリーがよく持つモデルだった。自分の使い方だと実質2日間、充電なく動作できた(Series 5以降は、画面常時点灯と引き換えに、毎日の充電が必須になった)。

Series 4とよく似たSEもかなり良いスタミナ性能があるんじゃないか……と期待して、手元に届いてからまず24時間、日常生活(スポーツなどのアクティビティトラッキングは利用せず)で使ってみた時点での残量がこれだ。

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24時間使用した時点でのバッテリー残量は48%。まだ半分残っている。とはいえSeries 6や5ではこうはいかない。画面が常時点灯ではないことのメリットは、この長時間駆動だ。

撮影:伊藤有

このあと、さらに12時間使ってみたが、その時点で残り20%台。やはりSEは期待通り、大人しい使い方をしているとほぼ2日間、バッテリーが持つようだ

睡眠記録にはSEが向いている

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watchOS7からの新機能、睡眠記録。Apple Watchと併用することで、より細かな睡眠時間を記録したり、就寝準備をしらせたりといったことができる。

撮影:伊藤有

このスタミナ性能は、これまでは「毎晩の充電を忘れても大丈夫」というだけだった。でも2020年のwatchOS7からは事情が変わった。睡眠記録機能がついたからだ。

睡眠記録の機能は自分の睡眠状態を把握するために便利な反面、丸1日程度しかバッテリーがもたないSeries 5やSeries 6(こちらも最新実機で試した)だと、「いつ充電するのか」という問題がある。装着しながら充電はできないからだ。

この1年、Series 5を使っていたユーザーとしては、watchOS7のパブリックベータを試し始めて以降、対処法として「朝の起床後の身支度中に充電する」などをルーティーンに取り入れて、対処していた。

慣れれば問題ないとはいえ、翌朝のバッテリー切れの心配が一切ないSEは、やはりストレスフリーという点では大きなメリットがある。

シンプルに「バッテリーが持つってやっぱりいいなぁ」と思える。

アップルはなぜApple Watch SEをつくったか

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SE(上)とSeries 6の化粧箱の比較。文字がくっきり書いてある方がSE、エンボス加工で手がかかっているのがSeries 6という微妙な差別化がある。

撮影:伊藤有

ここ最近のアップルは、入門機の価格は抑えつつも、廉価モデルというより「スタンダードモデル」、つまり「性能はそこそこだけど、手頃な価格で安心して使えるモデル」を意図的にラインナップしている。

「iPhone SE」はまさにその代表例だ。また、SEと呼ばれてはいないものの、無印の「iPad」も、そういう位置付けのモデルといえる。

これらに共通しているのは、「長年にわたってデザインが大きく変わらず」「性能は一定水準を満たしていて」「デザイン的に優れていて、特徴的である」ということだ。

こういった特徴は、“新しいものほど良く、性能追求型のガジェットの世界”には、従来あまりなかった(ファンのためのハイエンド機種と、汎用的な大衆向け機種、という切り分けはあったが、根本的に意味が違う)。

一方、身に着ける製品の世界では、この戦略をとっているものは多い。

たとえばスニーカー 。ニューバランスの一部のモデルやアディダスのスタンスミスのようなアパレル製品は、誰もが知っているデザインと一定の質が重要な価値の1つだ。ハイブランドの定番バッグや、もちろんブランドビジネスの最たるものである高級機械式時計も、長期間にわたってほぼ形を変えずに、細かなアップデートで新旧の差異を作り出している。

「変わらない」ことに価値を創り出せるのは、エンジニアリングとデザインの高度な両立なくしては実現できない……そう考えると、アップルが、何を意識してこの領域に足を踏み入れるのか、という理由もおぼろげながらみえてくる。

Apple Watch SEは「スタンダード」になるか

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気になるディスプレイの違い。Series 3は明らかに全世代だが、SEは最新世代と同様に、表示領域が画面の四隅まで広がったタイプ。解像度も同じ。

出典:アップル

まぁ、そういう難しい話はともかくとして。

いまだ心電図機能(ECG)が上陸していない日本では、諸外国よりも「SE」と「それ以外」の機能差は少ない。見た目だって、手に巻くバンドさえ新型のソロループに変えてしまえば、最新モデルと変わらない満足感も得られる。

特に、Series 3以前の世代を使っていたり、始めて買ってみようという人には、魅力的なコスパを備えたモデルといえる。一方、Series 4とはあまり差がないので、買い換えまでは必要はない。

いろいろ書いてきたが、アップルがこの先も「変わらないことの価値」路線を突き詰めるのだとすれば、Apple Watch SEは思ってる以上に長く使えそうなスタンダードになるんじゃないか、という気がする。

(文・伊藤有

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