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この4年で、「トランプ大統領に対する意見の相違のせいで夫婦喧嘩が増えた」「友達を失った」「親とは政治の話をしないようにしている」などという話は、珍しくなくなった。「隠れトランプ支持者」には、家庭の円満のため、トランプに投票したことを妻や娘に秘密にしている人たちもいる。
トランプ当選以来、アメリカのメディアには感謝祭の時期になると、「ディナーで、政治的に意見の合わない親戚と同席しなくてはいけない人たちへのアドバイス」「トランプ支持者の親戚を黙らせる方法」という記事が頻出する。感謝祭は日本のお正月のようなもので、滅多に会わない親戚とも顔を合わせるし、1日中みんなでテーブルを囲む。衝突が起きるとせっかくの集まりが台無しになる。笑い事ではなく、この問題で悩んでいる人たちは少なくないのだ。
「How to navigate awkward political conversations at the Thanksgiving table」
「How to shut down your Trump-supporting family member at Thanksgiving dinner」
家族の中でも政治について意見が異なることは、いつの時代でも起きることだ。でも、トランプ大統領ほど「Divisive」(分断を促す)な政治家、人々を激しく感情的にさせる大統領は、少なくともアメリカでは近年例がない。
トランプ大統領側近の突然の辞任
大統領顧問を長く務めたケリーアン・コンウェイ氏(左)と、その夫で弁護士のジョージ・コンウェイ氏(右)。夫妻は、トランプ大統領支持という点で対立している。
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最近、それをまざまざと見せつけた家族が話題になった。コンウェイ一家だ。
2016年の大統領選挙のキャンペーンを仕切り、大統領顧問を長く務めたケリーアン・コンウェイ氏と、その夫で弁護士のジョージ・コンウェイ氏。ケリーアン氏はキャンペーン中から最もメディアに露出したトランプ側近の1人。強い忠誠心でトランプ氏を擁護し、議論の相手を容赦なく攻撃するため、トランプ氏からは絶賛され、リベラルからは嘲笑されてきた。
夫ジョージ氏は共和党系の弁護士で一度は政権に入る話もあったが、この3年余りで「アンチ・トランプ」の象徴的存在のようになっている。彼のTwitter(@gtconway3d)のアカウントは、今やトランプ批判のためにあると言っても過言ではなく、フォロワーは約150万人に上る。
トランプ氏も「ジョージ・コンウェイは、最低の負け犬で最悪の夫」「妻の成功に嫉妬している」とやり返し、応酬が続いている。
ジョージ・コンウェイ氏は、共和党内から生まれた反トランプのスーパーPAC「リンカーン・プロジェクト」の発起人の1人でもある。プロジェクトのミッションは「トランプ大統領と、トランプ的なものを、投票所で敗北させること」だ。
コンウェイ夫妻の対立を多くの人々は面白がりつつも、「この家の中はどうなっているのだろうか?」と疑問に思っていたところ、8月23日、ケリーアン・コンウェイが突然、大統領顧問を辞任すると発表した。よりによって共和党全国党大会(RNC)の前日にだ。
同日ジョージ・コンウェイもTwitterに、
「私はリンカーン・プロジェクトから手を引くことになりました。家族との問題にもっと時間を注ぐためです。Twitterもしばらく休みます。言うまでもないことですが、私は引き続き、リンカーン・プロジェクトとそのミッションを支持し続けます。情熱を持って」
とポストした。
15歳の長女から突きつけられた三くだり半
このサプライズ・ニュースによって、もう1人のコンウェイに注目が集まることになった。クラウディア・コンウェイだ。
コンウェイ家(4人の子どもがいる)の長女クラウディアは15歳。芸能人でもなんでもないが、Twitter(@claudiamconwayy)では約50万人、動画サイトTikTokでは85万人以上のフォロワーを持つ(@datjerseygirl)有名人だ。
彼女は政治的に保守的な両親のもとで育ったにもかかわらず、超がつくリベラルだ。以前からSNSで自分の家庭環境のひどさや、トランプの危険性についておおっぴらに発信してきた。親の思想を躊躇なく批判し、辛辣でユーモアのセンスある動画を活発に投稿している。それが同世代のユーザーたちから支持され、今や屈指のインフルエンサーになっている。
ケリーアン氏は辞任会見で、
「夫と私は多くの点で意見が異なる。でも、最も重要なことでは一致している。子どもたちだ」
と説明。彼女の決断は、前日の22日にクラウディアが発信したSNSが引き金になっているのではと推測されている。クラウディアがTwitterとTikTokで、事実上「親との縁を切る」と宣言したからだ。
「母がRNCでマジで演説するって知って絶望してる。どう表現していいかわからないほどに」
「本格的にこの家からの脱出に向けて動きだすつもり。あいにく、どうやったところで騒ぎになるだろうけど。私の人生にようこそ」
「母の仕事のせいで私の人生は台無しになった。子どもたちが何年にもわたって苦しんでいるのを見ているくせに、彼女は自分の進んでいる道を変えようとはしない。それを思うと胸が潰れそうになる。自分勝手すぎる。全てはお金と名声のためなんだから」
過去の発言にはこんなものもある。
「私はものすごく保守的な家庭で育った。だから、長い間、そういう思想だけが私の知っているものだった。でも、私は自分で自分を教育し、自分の頭で考えることにしようって決めたの」
「無知は、教育と知識が足りないせいで起きるもの。知識はパワーだと信じてる」
「私の母の『擁護』のためと称して私を軽んじてきた全ての大人に言いたい。あなたたちには関係ないし、私は私自身の意思を持った1人の人間なの。私はあなたと同じだけの尊厳と知性を持っている。私は、私の世代を良くするために自分のプラットフォームを使って活動しているんです」
なお彼女は、「両親とは政治的な意見が合わないだけで、彼らを軽蔑している訳でも嫌いな訳でもない」ともハッキリ言っている。むしろ「私の発言のせいでうちの両親を嫌いにならないで」とも。父親のコンウェイは、娘に「自分の頭で考えるのは良いことだ」と言って、彼女の活動をサポートしているようだ(少なくともクラウディアはそう言っている)。
親世代とかけ離れた感覚持つZ世代
ニューヨーク市でのBLM運動(9月3日撮影)。Z世代の若者たちの多くはBLMをきっかけに、親世代のレイシズムに対する感覚が、自分たちとはかけ離れていることに気がついてしまった。
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彼女のような発言がいわゆるZ世代(1997年以降生まれ。現在23歳以下)に共感され、注目を集めるようになった背景にはBlack Lives Matter がある。
Z世代の(特に白人の)若者たちの多くはBLMをきっかけに、親世代のレイシズムに対する感覚が、自分たちとはかけ離れたものであることに気がついてしまった。彼らの多くは自分自身でたどり着いたリベラルな考え方を信じ、同世代の似たような価値観の若者たちとのコミュニティに精神的な拠り所を求めるようになっている。その連帯の手段はSNSだ。
世代間の価値観・世界観のギャップは新しい話ではなく、10代の若者たちが「大人は分かってくれない」「うちの親は頭が古くてイケてない」と感じることはいつの時代も同じだ。ただ、Z世代とその親世代(今の40−50代)の育った環境には、いくつかの面で劇的な違いがあるように思う。
そもそも、Z世代とはどんな特徴を持つ世代なのか。
人種的に多様でデジタル・ネイティブ
生まれた瞬間からスマートフォンやソーシャルメディアが当たり前に存在するZ世代。SNSを武器に瞬時に仲間と連帯する。
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2020年3月にピューリサーチセンターが発表した「Z世代について今のところ我々が知っていること」という調査がよくまとまっているので、要点をまとめてみよう。
(1)アメリカのZ世代は、それ以前のどの世代よりも人種的・民族的に多様だ。人種的に多様な社会を良いものだと捉え、人間の平等は当たり前だと思っている。
ミレニアル世代(現在24歳から39歳)ではヒスパニックを除いた白人は61%だったが、Z世代では52%に過ぎない。Z世代の25%はヒスパニック、14%は黒人、6%はアジア系、5%はその他だ。少なくとも片方の親が移民のZ世代は22%にのぼる(ミレニアルでは14%)。
今後アメリカに入ってくるだろう移民の数を考えると、Z世代では2026年までに白人以外が過半数を占めるようになると予想される。
(2)史上もっとも教育レベルの高い世代になる。高校中退者の数は減り、大学進学者の数が増える。
(3)デジタル・ネイティブ。インターネット、スマートフォンが当たり前に存在する世界に生まれた初めての世代。
(4)約3分の2が、「黒人は不公平な扱いを受けている」と考えている。こう答える割合は、ミレニアル世代とほぼ同じ(親世代では約5割)。共和党支持を自称するZ世代でさえも、「黒人は公平に扱われていない」と答えた率が4割を超える。親世代に比べるとほぼ倍だ。
(5)重要な社会的・政策的問題については、ミレニアル世代と似た政治的指向を持つ。2018年秋の同センターの調査によれば、Z世代はミレニアル同様、政治的に先進的。多様性をポジティブにとらえ、同性婚を肯定する人が多い。気候変動を重要課題と考えている。そして「アメリカが他の国と比べて一番である」とは思っていない。
(6)ミレニアル世代同様、「大きな政府」に肯定的で、政府は社会問題の解決のためにもっと責任を負うべきだと考えている。
資本主義が生む格差や矛盾に批判的
アレキサンドリア・オカシオ・コルテス議員。史上最年少で下院議員に就任。
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今回大統領選の民主党の候補者だったバーニー・サンダース氏は「民主社会主義者」、エリザベス・ウォーレン氏も富の再分配を政策の中心に据えており、いずれも若い世代から熱く支持されていた。2018年に米下院議員に初当選したミレニアル世代のスター議員アレキサンドリア・オカシオ・コルテス(AOC)も、サンダース同様「アメリカ民主社会主義者(DSA)」という団体の会員だ。
「社会主義」という言葉は「共産主義」と並び、旧ソ連や中国を思い出させるので、アメリカでは従来ネガティブに捉えられてきたが、冷戦時代を経験していないミレニアルやZ世代は、親世代に比べるとアレルギー反応が少ない。むしろ資本主義が生む格差や矛盾に対し厳しい目を向けている。
(7)トランプ大統領に対するZ世代の評価は、親の世代よりはるかに厳しい。
2020年1月の世論調査によると、18歳から23歳の回答者のうち「トランプの大統領としての働きぶりを認める」と答えたのは22%、「認めない」は77%だった。親世代(X世代。1965−1980年生まれ。現在40歳ー55歳)の42%が「認める」と答えているのと比べると約半数だ。
1月に行われた別の世論調査では、Z世代のうち61%、ミレニアル世代の58%が「絶対に、あるいは多分、民主党の大統領候補者に投票する」と回答。「トランプに投票するつもりだ」と答えたのは、Z世代有権者のうち22%、ミレニアル世代の25%だった。
上記のようなさまざまな差異の中でも、私は特に「多様性」「テクノロジー」の2つが重要ではないかと思っている。この2点でZ世代は親世代と全く次元の違う経験をしながら育っているからだ。結果、彼らの世界観は、親世代と比べてはるかにダイナミックで、グローバルなコネクティビティを前提としたものになっている。
Z世代はインターネットによって世界とつながることが劇的に容易になった世界で育っている。国境を越えて情報を得、外国のエンターテインメントにもオンタイムでアクセスし、遠い場所で生きる人々とでも瞬時につながる手段が手の中にある。トランプ氏への反感であれ、黒人差別への怒りであれ、共感できる仲間を見つけさえすれば、距離を超えて連帯できる。
クラウディア・コンウェイに限らず、Z世代の若者たちは、非常にパブリックな方法で(つまりネット上で)親たちのイデオロギーを糾弾することに長けている。発信する内容も工夫され、ビジュアルや音楽の使い方もうまい。拡散のコツも心得ている。それに比べると、親側は無力だ。
TikTokでトランプ集会をスカスカに
6月20日にトランプ陣営がオクラホマ州で開いた集会では、大量の空席が発生した。TikTokのユーザーたちが「集会をガラガラに」と呼びかけた結果だ。
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この能力の不均衡を世界中の人々に見せつけた最近の出来事が、6月にTikTokユーザーがぶち壊したトランプ陣営の選挙集会だろう。
6月20日にトランプ陣営がオクラホマ州で開いた集会で、大量の空席が発生した。当初は新型コロナのせいで人々が参加を控えたせいかと思われていたが、のちにこれはTikTokのユーザーたちが(最初から行く気もないのに)大量のチケット申し込みを呼びかけたのが一因だと分かった。この話を聞いた時、多くの大人は唖然としたと思う。
「大量のチケットを申し込み、トランプ集会をガラガラにしてやろう」という呼びかけを、まずK-POPファンがSNSに投稿し、TikTokを通じて爆発的に広がり、延べ数十万人分のチケットが登録されたという。行く気もないのにチケットを申し込んだTikTok ユーザーたちは、自分たちがやっていることが容易にバレないよう、SNSの投稿はサッサと削除し、登録には偽の電話番号を使っていた。チケットは無料なので、お金は一銭も使っていない。
トランプ陣営は、集会前に「100万人超の申し込みがあった」としていたが、当日会場に現れた人数はわずか6200人。トランプ陣営の選挙対策責任者は「過激な反対派が選挙集会を妨害した」と非難した。
このニュースが流れた時、「これは一種の暴力だ」「自分たちが同意しない政治家に対してならば何をしてもいいという前例を作ってしまった。トランプ陣営が同じやり方をとっても批判できない」「この世代の若者の発想が自分の常識とあまりにもかけ離れていてそら恐ろしい」など、私の周囲でもいろいろな反応があった。
私自身、ニュースを聞いた瞬間には「K-POPとTikTokとトランプ集会? それがどうつながるの?」と混乱したが、経緯を聞いた後には、いつか起きるべくして起きたことだという気がした。今回は入場券数が限られていた訳ではなく、よって誰の「参加する権利」も奪っていない。彼らがやったことがそんなに悪いことだとも思えなかった。これも一つの、画期的と言えなくもない戦い方だよな、とある意味感心すらした。
政治的発言を解禁したテイラー・スウィフト
今回のようにテクノロジーを駆使し、グローバルに連帯するZ世代のやり方は、今後どんどんクリエイティブになっていくと思う。場合によっては、新たな形のグローバルな政治ネットワークや運動を生む可能性もあるだろう。
11月の米大統領選挙が近づくにつれ、Z世代の動きが活発になっていくのではないかと思っている。2018年の中間選挙は歴史的に高い投票率を記録したが、ミレニアル世代、Z世代の果たした役割は大きかった。
この世代の芸能人たちには政治に対して積極的にコミットし、発言する人が多い。
その代表格がテイラー・スウィフト(1989年生まれ。ミレニアル世代)。彼女が中間選挙の1カ月前インスタグラムに載せたメッセージは爆発的に拡散された。
1億4000万人以上のフォロワーを持つ彼女は、「私は11月6日、テネシー州で投票します」で始まるメッセージの中で民主党議員支持を宣言したが、もともとカントリー・ミュージック出身の彼女のファン層の重要な一部である保守白人男性たちを敵に回すリスクを覚悟した上での発言だった。
最後には、
「賢く、思慮深く、冷静な多くの人が過去2年の間に18歳になり、自分の声を、票を通じて政治に反映させるという権利と特権を得ました。でも、まずは選挙登録をする必要があります。手続きは簡単です。テネシー州では10月9日が受付最終日です。Vote.orgにいけば、全ての必要な情報を得られます。投票しようね!」
と締めくくっている。
彼女の呼びかけは大反響を呼び、24時間以内に全米で6万5000人が新規に選挙登録をした。Vote.org のスポークスパーソンは、その影響はオバマ前大統領以上だったと述べている 。翌々日までには16万6000人が申し込んだが、そのうち42パーセントが、18歳から24歳の若者だった。
今回もスウィフトはBLMが始まった直後、自らのTwitter上で、トランプ大統領に向け「11月にあなたを落選させます」と発信、200万以上の Like がついている。
全米で銃規制集会とデモを主催した高校生
フロリダ州パークランドで起こった銃乱射事件を生き残った生徒の1人である、エマ・ゴンザレス氏(2018年3月24日撮影)。彼女のスピーチは多くの人の心を捉えた。
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2018年の中間選挙ではパークランドの高校生たちの影響力も大きかった。
同年2月14日、フロリダ州パークランドにある Marjory Stoneman Douglas High School で、17人の高校生たちが同級生にライフルで射殺された。生き残った高校生たちは事件から1カ月半後、「March for Our Lives (我々の生命のためのマーチ)」と題する大規模な銃規制集会とデモを組織し「銃のない社会」を訴えた。
デモにはジョージ・クルーニー、キム・カダシアン&カニエ・ウェスト夫妻、アリアナ・グランデ、セレーナ・ゴメス、ポール・マッカートニーなどの芸能人も参加。当日は全米約800カ所、欧州、アジアなどでも集会やデモが行われた。
この高校生たちが見せたスピード感、スケールの大きい機動力、メッセージの質の高さは、それまでの地道な銃規制運動とは一線を画す、プロフェッショナルで洗練されたものだった。
なぜ高校生たちが迅速に大型イベントを組織できたのか。
一つには、やはりこの世代ならではのテクノロジーやメディアの使い方のうまさ、情報発信能力の高さが大きかった。#March4OurLives、#NeverAgainなどといったハッシュタグを巧みに使い、自分たちのメッセージをSNS上で効果的に素早く拡散。テレビなどのメディアやオフラインでも積極的に発信し、大統領や国会議員、テレビ局のアンカーなどとの応酬にも怯まず、公の場で大人たちを言い負かす場面も見受けられた。
彼らはおしなベて表現力が豊かで、プレゼンテーション能力が高かった。自分の言葉で語れるのだ。約80万人を動員したワシントンDCの集会でリーダ一の1人であるエマ・ゴンザレスが行ったスピーチは、特に話題になった。彼女は亡くなった17人の同級生たちの名前を読み上げた後、スピーチを中断し沈黙。無表情なまま、まばたきもせず正面を見つめ続けた。最後にアラームが鳴った。
「私が壇上に上がってから6分20秒が経ちました」「6分20秒。その間に彼らみんなが殺され、私たちの人生は変わってしまったんです」
「March for Our Lives 」のリーダーシップをとったパークランドの高校生たちは、秋になると、2カ月かけて、地元フロリダ州の全ての選挙区、そしてアメリカ国内を回り、若者たちへの選挙登録と投票を呼びかけ、銃規制に反対する議員の落選キャンペーンを展開。結果的に、NRA(全米ライフル協会)が支持する議員のうち27人が落選した。
10年後には有権者の過半数に
先日死去したルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事を追悼するために、多くの人々が最高裁判所の前に集まった(9月19日撮影)。ギンズバーグ氏は生前、女性や若者たちから尊敬を集めていた。
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アメリカのZ世代の行動力を見ていると、「世界は自分たちの手で変えられる」と信じており、「大人たちがやらないなら自分たちがやればいい」と考えている印象を受ける。
アメリカでは18歳から選挙権がある。2020年の大統領選で投票できる有権者のうち、約10%をZ世代が占める(2016年の時点では4%だった)。約2400万人だ。今後、この世代の多くが18歳に達し、ますますZ世代の占める割合は増えていく。
10年後には、Z世代とミレニアル世代が30代〜40代になり、有権者の過半数を占めるようになる。さらに10年経てば、その割合はもっと上がる。彼らの経済力も増す。経済力だけで言うなら、アメリカのZ世代は、(大多数がまだ未成年であるにもかかわらず)既に最大の消費者グループとなっており、その購買力は$143 billion(1430億ドル)に上ると言われている。
人種的に多様なZ世代の有権者が増えるということは、非白人の有権者が増えるということでもある。今秋の選挙では、有権者のうち3分の1が非白人となる。これは米史上最高であり、特にヒスパニック人口の増加によるところが大きい。
このような人口動態上の変化は、今後、アメリカの政治をどう変えていくのだろうか。
MとZが支持する民主党vs.高齢者の共和党
2019年5月の「アトランティック」誌に、歴史学者のニーアル・ファーガソンが、「来たるべき世代間の戦争(Coming Generation War)」と題した寄稿をしている。
今日の民主党は、「若者(とくにミレニアル世代とZ世代)の党」になってきている。一方、共和党は、60歳以上、特に1945年以前に生まれた世代(現在75歳以上)に支えられている。現在政治の実権を握っているのは共和党の古い世代が中心だが、この世代間の力関係は、時が経つにつれ変化していく。
2018年の中間選挙は、世代交代という意味で一つの分岐点だった。ベイビー・ブーマー世代(1946年から1964年生まれ)以上の世代が依然として議会の大多数を占めてはいるものの、新たに当選した議員のうち14人がミレニアル世代、32人がX世代(1965年から1980年生まれ)だった。
今日では民主党支持者のうち43%がZ世代とミレニアル世代だが、この割合は、4年後の2024年には50%に上がると予想されている。仮に、ミレニアルとZ世代が現在示しているような先進的な政治指向がそのまま続けば、民主党の軸もよりリベラルに振れていく可能性が高い。同時に、今既に進んでいる世代間における社会の分断、ジェネレーション・ギャップが米国政治をさらに複雑にしていくだろう。
(文・渡邊裕子)
渡邊裕子:ニューヨーク在住。ハーバード大学ケネディ・スクール大学院修了。ニューヨークのジャパン・ソサエティーで各種シンポジウム、人物交流などを企画運営。地政学リスク分析の米コンサルティング会社ユーラシア・グループで日本担当ディレクターを務める。2017年7月退社、11月までアドバイザー。約1年間の自主休業(サバティカル)を経て、2019年、中東北アフリカ諸国の政治情勢がビジネスに与える影響の分析を専門とするコンサルティング会社、HSWジャパン を設立。複数の企業の日本戦略アドバイザー、執筆活動も行う。Twitterは YukoWatanabe @ywny