電動キックボード10月に公道実証スタート。次世代モビリティが走れる場所は拡張されるのか?

Luup

Luupの電動キックボード(撮影:2019年4月18日)。公道で実証する機体には、さらにバックミラーやナンバープレートなどの付属品の装着が必須とされている。実証試験の段階が進むにつれて、機体の仕様も徐々に変更されている。

撮影:小林優多郎

9月24日、電動キックボードの開発・普及や、電動自転車のシェアリングサービスを提供するLuupは、新宿副都心エリア環境改善委員会と「西新宿地区のスマートシティ化推進に向けた連携協定」を締結。

その一貫として、10月中旬を目処に電動キックボードの公道走行の実証試験を行なう計画を発表した。

電動キックボード、公道初の実証試験

制度の違い

規制のサンドボックス、新事業特例制度、国家戦略特別区域法に基づく特例措置のちがい。電動キックボードの規制緩和に向けて、全ての制度を利用して実証試験を進めていく方針だ。

Luupの記者会見資料より

電動キックボードは、海外ではシェアリングサービスとして広く普及しており、公道でも自転車と同じように利用されているケースが多い。

しかし日本では、道路交通法上の車両区分で「原動機付自転車」(いわゆる原付)に分類されており、原付同様の運転免許の携行、ヘルメットの着用、ナンバープレートや各種灯火類の装着が義務付けられている。当然、歩道での走行は禁止だ。

そこで、Luupをはじめとした業界団体である「マイクロモビリティ推進協議会」は、安全性を保ちながら、電動キックボードをより利用しやすくなるような形への規制緩和に向けて、これまで実証試験に取り組んできた。

Luupは2019年末から横浜国立大学の敷地内で「規制のサンドボックス制度」を利用した実証試験を実施。安全性や、実際の利用環境におけるサービスの使用方法に関するデータを集めてきた。

一方、今回計画している実証試験は、経済産業省の「新事業特例制度」を用いたもの。

この制度では、特定の事業計画に対して「部分的な特例措置」が認められる。

つまり今回は、「関係省庁の協力を得た、公道における初めての規制を緩和した実証」が行われることになるわけだ。

「走れる場所の拡張」のための実証試験

ナンバープレート付きの電動キックボード

電動キックボードで公道を走行するためには、ナンバープレートやウィンカーなどが必要となる。(機体は実証試験で使用するものとはことなる)

撮影:三ツ村崇志

10月中旬を目処に実施される実証試験では、これまでは走行ができなかった「自転車専用レーン」での走行が認められる見通しだ。つまり今回の実証試験の目的の一つは、公道で走行できる場所を拡張した場合のデータを集めることだ。

なお、ヘルメットの着用や免許の保有、ナンバープレートの装着など、基本的な走行条件は原動機付自転車の枠組みを遵守する必要がある。

特例措置とはいえ、かなり細かい段階を踏んでいるように感じられるが、Luup代表の岡井大輝代表は、

これまで、自転車専用レーンは電動キックボードで走ってはいけませんでした。自転車専用レーンがある道を走るときは、実質、道の真ん中付近を走らなければなりませんでした。数は少ないですが、こういう道が現存している結果、事故が起こる可能性が高かったんです。ここが緩和できたことで、初めて公道で実証ができるようになったといえます。


はじめて(規制の緩和に向けた)実証試験のスタート地点に立ったかな、というのが個人的な認識です」

と、公道での実証試験、そしてその先にある実際の法整備に向けて、今回のステップは非常に重要であると話す。

なお、今回の実証試験の結果をもとに、令和3年に予定されている国家戦略特別区域法に基づく特例措置の検討がなされる予定だ。

千代田区、新宿区、渋谷区、世田谷区で公道実証がスタート

新宿

西新宿エリアでは、新宿の西口から新宿中央公園付近までが実証試験で自転車走行レーンを走れる範囲となる。

shigemi okano/Shutterstock.com

Luupによる公道での実証試験は、新宿区に加えて、千代田区、渋谷区、世田谷区の4エリアで行われる見通しだ。期間は10月中旬から、2021年3月までを予定している。

「西新宿エリアでは、30〜50台を走らせる予定です。今回、1人に1機体をマッチングさせる形式で、『シェア』というより『レンタル』に近い形式で提供を考えています」(岡井代表)

なお、必要に応じて実証期間の途中で台数を増やすことなども視野に入れているとした。

実証試験への参加には、以下の通り条件がある。

  • 千代田区、新宿区、渋谷区、世田谷区在勤で、規定エリア内での日常的な走行が可能な方
  • 原付免許(普通免許等含む)を保有している方
  • その他道路交通法などを遵守し走行いただける方
  • 健康状態が良好な方
  • その他、本実証実験のガイドラインに沿って情報提供などのご協力をいただける方

※月額3,000円×6ヶ月間の利用料金もかかる。

参加希望者が多数の場合は、想定使用頻度、年齢、性別などの幅広いデータを得る必要がある実証試験という性質上、無作為な抽選ではなく、ある程度Luup側で選考が行われることになるという。

なお、参加者として選ばれた場合、事前に安全面などに関する簡単な講習やテストを受講する必要がある。

都市と地方で進められる、電動キックボードの実証

mobby ride とChariChari

福岡を拠点に電動キックボードのシェアリングサービスを行なうmobby rideは、同じく福岡でシェアサイクル事業を実施するneuetとの事業連携を発表したばかり。最終的には、ポートの共有化なども視野に入れているという。都心と地方では、小型モビリティの使用方法なども異なることが想定される。左がmobby rideの日向諒代表。右がneuetの家本賢太郎代表。

提供:mobby ride

電動キックボードの公道での実証試験の動きは、Luupだけにとどまらない。

Luupと同じく、マイクロモビリティ推進協議会に所属しているmobby rideも、10月中旬を目処に拠点としている福岡市で、公道での実証試験を計画している。

詳細はまだ開示できないことも多いとしているが、枠組みとしてはLuupと同じ新事業特例措置を用いたもの。緩和内容も「自転車走行レーンでの走行を認める」という、Luupの実証試験と同等だ。

mobby rideの担当者は、Business Insider Japanの取材に対して、

「協議会として同じ条件で実証試験を行い、そのデータを取ることが目的です」

と、業界全体で実証試験の知見を共有していく意図があると話す。

一方、実際のサービスの提供方法については、

「正直、今回の(新事業特例措置の)条件で、シェアをするのは難しいところです。例えば、『ヘルメットをシェアするのはどうするのか?』といった問題があります。


そこで、実証試験の最初の段階では、実質レンタルと変わらない運用にしようと考えているところです。ただ、段階を踏んで、台数に対して使用できる人数を増やし(シェアするような形にし)たいと思っています」

と、現時点では調整中であるとしながらも、構想を語った。

都心部と地方都市では、街の発展の仕方がまるで異なる。

最終的に全国的に電動キックボードをはじめとした「マイクロモビリティ」の普及を目指す業界にとって、モビリティの使用方法の地域差は貴重なデータとなりそうだ。

電動キックボードの最適な社会実装を目指して

岡井さん

Luupの岡井大輝代表。

撮影:三ツ村崇志

日本では、原付としての走行条件(ナンバープレートやヘルメット装着など)を満たさずに走行したり、非電動のキックボードのように歩道を走行したりする、違法な電動キックボードが多い。

これは、ECの発達によって海外で販売されているものを日本に簡単に持ち込めるようになった弊害でもある。

これが続いてしまえば、いずれ大きな事故が起こり、極端な規制によってさらに電動キックボードを利用しにくい環境が生み出されてしまいかねない。

電動キックボードをどのような形で社会実装することが、世の中にとって最適なのか。

Luupの岡井代表は、Business Insider Japanの取材に対して、

「細かい段階を1段ずつしっかりと確認して、安全性を確かめていきたいと思っています。


今回は、初めての公道での実証です。これを終えたところで、最終的に『公道で自由に電動キックボードに乗れる』という目標までの道のりの何合目までに到達しているのかが分かるのではないかと思います」

と話す。

どこまで規制が緩和できるのか、あるいは、やはり規制は緩和しない方が良いのか。

新しいモビリティーの受け皿を作る取り組みが、いよいよ本格的に始まろうとしている。

文・三ツ村崇志

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