ESG経営はビジネスそのもの——利益を出し続ける企業はすでに取り組んでいる

夫馬賢治さん

夫馬賢治(ふま・けんじ)。ニューラル代表取締役CEO。サステナビリティ経営・ESG投資コンサルティング会社を2013年に設立。ESG領域に関するニュースサイト「Sustainable Japan」編集長も務める。環境省、農林水産省、厚生労働省のESG領域の有識者委員を現任。国際NGOウォーターエイド日本法人理事。ハーバード大学大学院サステナビリティ専攻修士。サンダーバードグローバル経営大学院MBA。東京大学教養学部国際関係論専攻卒。国内外のテレビ、ラジオ、新聞、雑誌等からの取材も多く、依頼講演も多数引き受けている。著書に『データでわかる 2030年 地球のすがた』(2020年、日本経済新聞出版)、『ESG思考』(2020年、講談社)ほか。

消費者にいま、単に「安くていいモノ」ではなく、環境に配慮し倫理的にも正しい製品を求める動きが広がっている。こうした意識の変化はヨーロッパだけでなく、若い世代を中心に日本でも浸透してきた。

ネスレ、ユニリーバ、ダノン、ウォルマート、BMW、スターバックスコーヒー……。変わる消費行動にいち早く反応したのが、名だたるグローバル企業だ。原料調達や製造プロセスなどで、環境や社会的責任に配慮した取り組みが進む。彼らはこうした取り組みを、もはや「社会貢献」ではなく、「企業の持続的な成長のために必要なこと」と捉えているのだ。

世界の消費者の意識はどう変わり、企業や投資家はどう動いているのか。

環境省、農林水産省のESG関連の有識者委員も務めている、サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社・ニューラル代表取締役CEO夫馬賢治氏に聞いた。

リーマンショックが変えた、経営者と投資家の価値観

株式市場のイメージ写真

GettyImages

「リーマンショックは、世界の環境、社会的責任に配慮した取り組みを加速させるきっかけになりました」(夫馬氏)

著書『ESG思考』の中でも歴史を紐解きながら夫馬さんはこう話す。どういうことなのだろうか。

リーマンショックで先行きが見通せない中、投資家の関心は、短期的な経営指標から長期的な経営指標に移っていきました。2050年までの長期的な視点で考えると、一般的な投資の判断基準になる国内総生産(GDP)や失業率といった経済指標の予測は困難。それよりも気候、気温、自然環境、人口動態、世界的なパワーシフトの動向のほうが予測しやすい。長期的な視点を求めた結果、環境指標、社会的な課題にフォーカスが当たるようになったのです。特に、公的年金や保険会社のような超長期投資家は長期的に社会が持続可能でないと事業が成立しなくなるので、ESG投資を率先して採り入れていきました」(夫馬氏)

「ESG投資」は、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮した投資手法で、近年、欧米諸国を中心に伸び続けてきた。特に、巨額の資金を持ち、中長期的な視座に立って幅広い資産や証券に分散投資するユニバーサルオーナーは、短期的なリターンを求めるよりも、市場全体への影響に配慮し「社会的責任を伴わない投資は行わない」という考え方を強めている。

日本でもここ3年でESG投資への関心は高まっているが、日本と欧米では企業や投資家の動きにずいぶん差があるという。欧米では2006年頃からESG投資を推進する動きが続いているが、日本では2017年に世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が初めて「日本株のESG投資インデックスを3つ採用した」と発表。一気に日本の企業経営者や機関投資家に「ESG投資」という言葉が広まった。

投資家が動けば企業も動く。日本の各業界のリーディングカンパニーも次々に長期視点、長期志向で市場環境がどう変わっていくかを予測しながら、商品やビジネスモデルを考える経営にシフトしている。

「日本でこの分野をけん引している企業は、花王、トヨタ、サントリー、キリンなど。あまり知られていませんが、花王は日本では抜きんでており、製品の原材料やパッケージに至るまで長期的な視点で考えています。やはり、グローバルで戦おうとしている企業は海外から情報が入ってくるので動きが速いですね。すでに世界のグローバル企業の多くは、エコや社会貢献のようなものを、わざとらしく大々的にアピールすることはしません。日本では国連持続可能な開発目標(SDGs)が一種のブームのようになっていますが、海外のグローバル企業では、SDGsという言葉ですら敢えて使うことを避ける企業もあります。すでに、ビジネスを続けていくために当然に必要なこととしてESG対策に取り組んでいます」 (夫馬氏)

「今の暮らしの延長線上に、今の生活水準はない」

夫馬さんポートレイト

欧米諸国と日本で、ESGへの温度差が生まれたのはなぜなのか。夫馬氏は意外な傾向を指摘する。

「実は日本では、環境問題や人権問題といった社会的責任に配慮した取り組みをすることに一番懐疑的な層が20代から40代の男性だと一般的に言われています」(夫馬氏)

日本でも、90年代から環境や社会的責任に配慮する流れはあった。しかし、その流れは2008年のリーマンショックで下火に。ここが欧米と日本の取り組みの差につながった。

「若い層を中心に環境問題・社会課題と経済を対立構造で捉えて、『環境問題や社会課題解決より経済が重要』という感覚が強くなってしまったんです。その後、つい最近までこの分野について取り上げる機会は日本ではほぼ皆無でした。特に30代男性は流行に敏感な時期にリーマンショックを経験した世代。当時の記憶を引きずっているのでしょう。一方、欧米の都市部では過去30年間ほど一貫して、環境や社会課題への関心はずっと高まり続けていきました」(夫馬氏)

世界を不況が覆う中でも欧米での関心が薄れなかったのは、数十年後の地球環境に強い危機感があるからだ。

「今の暮らしを続けていると、食料が入ってこなくなり、水も不足して簡単には手に入らなくなり、台風が吹き荒れて災害が頻繁に起こり、湾岸地域は海に沈むといった悲惨な未来が待っています。これは世界各国が直面している課題です。水が飲めて、食べたいものが食べられて、仕事があるという、少なくとも今の生活レベルを維持するためには、環境問題も人口減少や格差、貧困といった社会課題も無視できないテーマなんです」(夫馬氏)

カカオ農場で作業する人

GettyImages

水や食料だけではない。企業が現状のままのガバナンスを継続し、原料調達などのサプライチェーンを見直さなければ、製品を作り販売するといったビジネスモデルすら維持できなくなるだろう。ESGに対応できない企業を待ち受けているのは、国際社会の中で生き残れなくなる未来だ。

「企業でこれから中核を担う30代、40代は環境や人権には懐疑的な半面、DX(デジタル・トランスフォーメーション)には関心が高い傾向があります。しかし、世界的にはESGの実現手法としてDXを位置づけることのほうが一般的です。既存のビジネスをデジタル化しただけでは対応しきれない課題やチャンスがESGの分野には多い。

例えば環境負荷の少ない電気自動車を実現するためには、製造オートメーション、原材料トレーサビリティ、AIを導入したバッテリー性能の向上、量子コンピュータを活用した資源リサイクル技術開発などが不可欠です。ビジネスチャンスは山ほどある。実際にアメリカ、ヨーロッパ、中国の企業は、こぞって競うようにこの分野に参入しています。GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)やアリババ、テンセント、バイドゥも、同様です。巨額の研究開発や設備投資が行われています。

日本では最近『脱成長』論が流行っていますが、残念ながらそれでは世界は救えません」(夫馬氏)

「ESGより経済」ではなく、「経済を考えるならESG」。企業は今、両輪で回していくことが求められている。

「利益が増えるから、投資家も動く」ESG投資の専門家の見方は

森敦仁氏のポートレイト

森敦仁(もり・あつひと)オリックス銀行役員補佐資産運用営業部長ESG投資アドバイザー。1993年、米国の資産運用会社コモディティーズ・コーポレーション(当時)でCTA/クオンツトレーディングを学ぶ。95年からオリックス・コモディティーズ(当時)にてCTA/マルチアセットのポートフォリオマネジメント業務を開始。2007年からオリックス・インベストメント(当時)のチーフポートフォリオマネージャー。13年にオランダの投資顧問会社ROBECO(ロベコ)出向。15年から現職。

欧米で広がるESG投資だが、投資の現場はどう受け止めているのか。オリックス銀行 役員補佐 資産運用営業部長でESG投資アドバイザーの森敦仁氏も夫馬氏と同じ意見だ。

確かにESGはビジネスチャンスの山であり、言い換えればESGに積極的に取り組んでいる企業こそ、長期にわたって利益を出し続けることができる企業といえると思います。そして、そうした企業に投資することは単なる社会貢献ではなく、長期的なリターンを得ることができるということです。すでに日本においてもここ1〜2年の間にESG投資への流入額が大幅に増えています 」(森氏)

図表「欧米と比較すると日本の市場規模はいまだ小さいが、過去3年で4倍に」

欧米と比較すると日本の市場規模はいまだ小さいが、過去3年で4倍に

ドル表示箇所 単位:兆USドル
円表示箇所 2018年MUFG 米ドルTTM111円を用いて算出。2018 GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEWのデータをオリックス銀行が加工。

オリックスグループは、欧州の機関投資家の信頼が厚くESG投資のリーディングカンパニーである資産運用会社のロベコ社(オランダ)を傘下に持ち、オリックス銀行は、高度なESG投資のノウハウを活用したファンドを厳選して提供している。

「ESG投資にはいろいろな手法があります。例えば、ESGに優れた企業を中心に投資するポジティブスクリーニングやインデックス投資、あるいは特定のESGテーマに関連する企業に限定するサステナビリティテーマ投資などです。

しかし、ESGは投資である以上、財務分析など従来の投資手法と融合することが必要です。またESGは1テーマではなくたくさんの細かい項目があります。環境面では優れていても従業員の働き方など社会的には課題が多いという企業があるかもしれません。ESGはひとつの基準では計りきれないのです。

また、投資を開始するときだけではなく、投資先企業との対話や議決権行使により、投資家がESGに関する取り組みを継続して働きかけていくことも必要です。

オリックス銀行が提案するESG投資信託は、財務情報にESG評価を組み込むいわゆるESGインテグレーションという手法により総合的に評価し、中長期投資に適していると考えるファンドを厳選しています」(森氏)

投資信託の販売手数料で利益を出し、その後のモニタリングや企業の動向には関心が薄い運用会社もあるが、オリックス銀行では購入時の手数料は無料。販売後も責任を持って中長期投資をサポートしているという。

「今、アナリストに求められるのは決算書分析や財務諸表を読む力だけではなく、経営層とコミュニケーションを直接取ることで、その企業の隠れたESGの取り組みを見いだしていく力。私も運用会社や機関投資家、他行のESG専門家と頻繁に情報交換をしています。経営者と運用会社・投資家がお互いに成長していける関係を築き、ESG投資を一過性のブームで終わらせないようにしていくことが私たちの役割だと考えています」(森氏)

ESGへの取り組みは、企業の長期的な成長を可能にし、それが投資家にリターンを、そして環境や社会に好循環をもたらす。より良い世界を目指した新たな資本主義が、大きく動き出している。


オリックス銀行のESG投資信託について詳しくはこちら

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