半導体市場の巨人インテルが見据える「次なる展開」とは。
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- クラウド上ではなく、末端のデバイス上で先進的な人工知能(AI)を動かす「エッジコンピューティング」は、自動運転車から産業用ロボットまで、ここ最近の大きなテクノロジーの進化の根幹をなすものだ。
- インテルはエッジコンピューティング市場が2024年までに650億ドル(約6兆8000億円)規模に成長すると予測しており、同社の年間売上高に占める金額は着実に増えている。
- 成長の始まったこの市場の覇権をめぐって、半導体メーカーの競争が激化している。しかし、インテルのコーポレートバイスプレジデント、ダン・ロドリゲスはBusiness Insiderの取材に「大きな成功を得られると確信している」と自信を示した。
- エヌビディア(Nvidia)がアーム(Arm)買収を発表し、エッジコンピューティング市場で優位に立つ可能性が出てきたことで、覇権争いは一段と加熱していくとみられる。
これから起こるテクノロジーの進化のなかで最も期待されるものの多くは、クラウドではなく、末端のデバイス上で先進的な人工知能(AI)を動かす「エッジコンピューティング」がその土台となる。
自動運転がその最たる例だ。自動運転車は、子どもが走って道路を横切るといった不意のできごとに、何ミリ秒という瞬間で反応できなくてはならない。なので、アマゾンやマイクロソフトのクラウド上で動くAIシステムと交信してその反応を待つといった時間はまったくない。
しかし、車載プロセッサを強化することで、自動運転車は即時に(突発的なできごとに対し)判断を下すことができる。
エッジコンピューティング分野における覇権争いは、クラウド分野ほどに知られていないし、話題になってもいないが、専門家たちは2024年までに650億ドル規模に成長すると予測しており、アマゾンやSAP、オラクルといった巨大企業や先手必勝のスタートアップが入り混じって競い合っている。
とりわけ、エッジコンピューティングを支えるチップの開発競争は急激にヒートアップしている。
すでにインテルの総売上高の7分の1が「エッジ」
インテルのコーポレートバイスプレジデント、ダン・ロドリゲス(Dan Rodriguez)。
提供:Intel
半導体業界の巨人インテルでは、経営陣の入れ替えやPC向け次世代プロセッサの開発遅延問題で社内が揺れるなか、エッジコンピューティングがビジネスの重要部分を占めるようになってきた。
2019年、インテルは年間売上高720億ドルのうち100億ドルをエッジコンピューティング部門が稼ぎ出したと発表(前年の実積に対してどの程度伸びたか詳細は明らかにしていない)。独アウディ、米センチュリーリンク、楽天モバイルなどの大企業を顧客とし、さらに基盤の拡大を続けている。
インテルのコーポレートバイスプレジデント、ダン・ロドリゲスはBusiness Insiderの取材にこう語った。
「あらゆる種類のデジタルテクノロジーを駆使し、よりシンプルかつ効果的な手法でパートナー企業のビジネスを支援するのが我々の仕事だ」
しかし、インテルの野望は、米画像処理半導体エヌビディア(Nvidia)が選んだエッジコンピューティング強化戦略によってくじかれた。同社はソフトバンクグループ傘下の英半導体設計アーム(Arm)を400億ドル超で買収することを明らかにしたのだ。
エヌビディアの製造する画像処理半導体は発展を続けるAI分野においてすでに不可欠の存在になっている。一方、アームの半導体設計技術はほとんどのスマートフォン、さらには世界中で増え続けるデータセンターのサーバーを支えている。
アナリストの分析によると、エヌビディアはアーム買収によって、自社の高性能GPUとアーム設計のCPUを併せ持つことになり、基本的な処理とAIのような高度なコンピューティングタスクの両方に対応する強力なシステムを生み出すことができるようになる。
エヌビディアは2020年上半期にインテルを追い抜き、時価総額でアメリカ首位の半導体メーカーとなった。両社の競争はさらに激化するとみられる。
インテルのシニアバイスプレジデントでIoT部門を率いるトム・ランツシュ(Tom Lantzsch)。
提供:Intel
ただ、インテルのシニアバイスプレジデントでIoT部門を統括するトム・ランツシュは、そうした迫り来る危機にもかかわらず、インテルの戦略に特段変更はないと語る。
「(エヌビディアのアーム買収で)大きな変化が起きるとは考えていない。何かあるとすれば、ビジネスを加速することだが、今度のことにかぎらず、競争ではよくあることだ」
インテルが強気でいられる理由
インテルが急成長を遂げるエッジコンピューティング分野でリードできると強気でいられる理由の1つは、1200社以上のパートナーから成るエコシステムを築き上げ、1万5000社以上のエンドカスタマーに製品やサービスを提供してきた実積があることだ。
例えば、アウディは生産プロセスの品質管理の向上にインテルの技術を使っている。
洗練された機械学習を導入する以前は、同社工場で毎日組み立てられる1000台の1つひとつに5000カ所の溶接が必要で、それをすべて人間の手で行っていた。合計500万カ所の溶接に加え、毎日その品質検査をすることを考えると、気の遠くなるような作業だ。
ところが、エッジコンピューティング技術を用いたインテルの品質管理予測システムの導入により、工場で1日に実施可能な溶接検査は100倍に増え、人的コストは半減した。
「顧客企業がこうしたソリューションを必要とするなら、我々はただちにデモをお見せして、それがビジネス展開にどのくらい大きなインパクトをもたらすのか示すことができる」(トム・ランツシュ、前出)
(翻訳・編集:川村力)