目指すは「不動産業界のアマゾン」住宅をワンクリックで購入。コロナ下でもV字回復【GAテクノロジーズ・樋口龍1】

ミライノツクリテ_樋口龍_GA technologies

中国・武漢で肺炎の集団感染が発生していると2020年の年明けに小さく報じられたとき、それが世界に飛び火し、東京オリンピックの延期にまで至ると思っていた人はいないだろう。肺炎に「新型コロナウイルス」と名前が付き、中国だけでなく欧州、アメリカでもロックダウンが起きた2〜3月の頃も、これほど長引くと予測していた日本人は少なかったはずだ。

だが現実には、緊急事態宣言が5月に解除されて以降も、日本は「Withコロナ」状態が続いている。ニューノーマル、新しい生活様式という概念が広がる中で、最近は「DX(デジタル・トランスフォーメーション」というキーワードがトレンドになっている。

不動産テックベンチャーのGA technologies(GAテクノロジーズ)は8月下旬、経済産業省と東京証券取引所の「DX銘柄2020」にマザーズ上場企業で唯一選定された。不動産業界は不況に弱い業種でもあり、コロナ・ショックで同社の株価は3月に1797円まで下がったが、その後、中国人向け不動産プラットフォーム事業の取得、DX銘柄指定が追い風となり、直近では9000円前後まで上昇している。

GAテクノロジーズのCEO、樋口龍(37)は、

「上場した2018年以降は不動産業界で不祥事が相次ぎ、海外の投資家にも『日本の不動産業界は本当に変わらない』と言われた。創業時から一貫してデジタル化に取り組んでいた当社も、その点をあまり見てもらえなかった。今の株価やDX銘柄指定は、これまでやってきたことに対する当然の評価」

と言い切った。

「世界的な企業をつくる」「テクノロジーでイノベーションを起こす」というビジョンを掲げ、起業家になった樋口。創業7年目で迎えたコロナ禍を飛躍の機会と捉えている。

理想像は「不動産業界のアマゾン」

東京マンション郡

コロナの影響は不動産業界にどんな影響を及ぼすのだろうか。

kurosuke / Shutterstock.com

GAテクノロジーズは不動産関連の取引をワンストップで完結するプラットフォーム「RENOSY(リノシー)」を運営する。目指すのは「不動産業界のアマゾン」だ。

日本の不動産市場には売買、賃貸、投資、管理、リノベーションなどを手掛ける企業が約12万社あり、分業制が確立しているため、消費者は目的に応じその領域の会社とそれぞれ取引するのが当たり前になっている。

RENOSYは物件の検索から賃貸・売買の取引やリノベーションまで、不動産に関するあらゆるサービスを自社提供し、最終的にはワンクリックで不動産を購入できる世界を描く。

人生最大の買い物とも言われる不動産を「ワンクリックで購入する」のは、今は想像できないかもしれないが、中国最大のEC企業アリババのプラットフォームでは2019年、化粧品やiPhoneと一緒に人気地区のマンションの部屋もセールで売り出された。それどころかアリババのECサイト「天猫(Tmall)」は2020年9月、不動産企業と提携し、不動産取引プラットフォームを設立すると発表した。アリババのライバルで世界最大のメッセージアプリWeChatを運営するテンセント(騰訊)も、最近不動産企業に出資した。

DX先進国の隣国の動きを見れば、少なくともグローバルレベルでは「オンラインで不動産を買う」世界が近づいている。

コロナが業界を強制的に変えた

樋口にとってコロナ禍は追い風ではあるが、こう繰り返した。

「当社はコロナ対策としてではなく、一貫して不動産業界のデジタル化を目指してきた」

不動産のセールスからキャリアを積み上げてきた樋口は、

「不動産業界は課題だらけだが、顧客にリテラシーが蓄積されないから、企業側もなかなか変わらない」

と指摘する。

賃貸物件の取引では仲介会社が入ることでコストが増大する。売買や投資でも、情報の透明性や取引の効率性は改善の余地が多い。一方で、ほとんどの消費者にとって、不動産は一生に何度も買う商品ではない。賃貸にしても住み替えサイクルは通常数年だ。

「不動産取引で不満を感じても、時間が経つうちに忘れてしまう。高い買い物である故に、買った後は『良い買い物をした』と自分を納得させてしまう。顧客の『負』がたまらないから、企業が変わる理由がない」

ミライノツクリテ_樋口龍_経歴

だが、樋口が自社のデジタル化を通じ業界を変えようと奮闘する最中、顧客ではなくコロナ禍が、企業に強制的に変化を迫った。

売買、賃貸共に長時間の対面営業が基本だった不動産業界は、緊急事態宣言中にモデルルームの多くが閉鎖された。物件の内覧も困難になり、顧客対応を縮小せざるを得なかった。感染症対策と経済の再開が両輪で進む今、オンラインでのモデルルーム見学などITを使った非接触・非対面の動きが急拡大している。

不動産企業が一斉にデジタル化に舵を切った結果、GAテクノロジーズの先行ぶりがようやく注目されることとなり、9月14日に発表された2020年5ー7月決算でも、同社の堅調ぶりが見てとれた。売上高は前年同期比67%増の152億500万円、営業利益は同119%増の2億6000万円。

RENOSYの投資サービスでは、WEB面談予約やオンライン面談、非対面契約などを以前から導入していたことが奏功し、同期間の成約数が前年同期比で44%増加した。子会社の賃貸向け不動産テック「イタンジ」による管理会社のオンライン化をサポートするサービス「ITANDI BB」の契約数も、2020年7月までの1年間で128%増えた。

「ITツールは使ってみると便利で離れられなくなるが、使ってもらうまでが大変。コロナは使う障壁を一気に下げた」

樋口は、ニューノーマル下の8ー10月決算では、さらに業績が拡大すると確信している。

「創業20年で世界的企業」目指す

GAテクノロジーズを創業5年でマザーズに上場させ、37歳になった樋口は、創業20年を迎える2033年を世界的な企業になれるかどうかのターニングポイントと見ている。

インターネットが普及したこの20年で、世界の時価総額ランキングの上位企業の顔ぶれは一変した。コミュニケーションやビジネスの形を変え、時に政府から脅威とみなされるアメリカのGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)や中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)といったメガITの多くは、創業20年で現在の地位を手に入れた。

GAテクノロジーズは、2019年11月に国際事業部を設立。2020年9月に、同業のベンチャーから中国人向けインバウンド不動産プラットフォーム「神居秒算」事業を取得し、海外事業の一歩を踏み出した。

「ベンチャーはパラダイムシフトが起きるタイミングで成長していく。コロナ禍はチャンス」

力強く語る樋口の言葉に、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行による外出制限とネットの普及で、急成長のきっかけをつかんだアリババが重なる。

アリババを創業したジャック・マーは2浪して無名の大学に入り、英語教師としてキャリアのスタートを切った。ビジネスの「非エリート街道」勝負で言えば、樋口も負けていない。彼の最終学歴は高卒。大学進学は鼻から考えていなかったし、ビジネスの世界に入る気持ちもなかった。24歳で最初の夢を諦めるまでは。

(敬称略、明日に続く)

(文・浦上早苗、写真・竹井俊晴、デザイン・星野美緒)

浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。

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