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「再就職先を斡旋してくださいよ」
今朝、NTTドコモの社員からこんなメッセージが届いた。
9月29日、一部で「NTTがドコモを完全子会社化する」と報道された。
通常、この手の報道があった場合、広報部から「我が社が発表したものではなく、事実とは異なる」と言った文言のリリースが飛んでくるのだが、今回は違った。
NTTドコモの発表は「我が社が発表したものではない。ただ、本日開催の取締役会で付議する予定であり、決定した場合は速やかに公表します」……もはや決定事項なのだろう。あとは緊急記者会見を待つだけだ。
完全子会社化に踏み切るのはなぜか
2020年3月31日時点のNTTドコモの株主構成比。
出典:NTTドコモ
NTTドコモがNTTの完全子会社化されることで、まず頭に浮かぶのが、菅総理の「4割値下げせよ」という発言だ。
菅総理は、自民党総裁選の出馬会見から「携帯電話料金の値下げ」を掲げてきた。しかし、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクは民間の会社であり、株主が存在する。キャリアとの社長としては、企業の成長も考えなくてはいけない。
KDDIの髙橋誠社長は、
「政府、総務省の要請に真摯に受け止める。ただ、我々は企業として持続的に成長しなければならない。通信だけではなく、それ以外の事業も含め、持続的に成長することも含めて、しっかり要請にau、UQのマルチブランドで対応し、さらなる低廉化に向けて頑張って参りたい」
とコメント。
政府の要請には理解しつつ、企業としての持続的成長も意識していかないといけないとしている。
KDDIの髙橋誠社長(2018年撮影)。
撮影:小林優多郎
現在、NTTはドコモの株を64.1%保有している(2020年3月31日時点)。
政府がプレッシャーをかけてきたところで、NTTドコモとしては「株主がいるから無理」と反発できるのだが、株主が100%、NTTだけとなれば、「分かりました」というしかない。
ちなみにNTTの株主構成を見ると、32.36%が「政府及び地方公共団体」となっている。大株主である政府の意向にNTTとしては従わざるを得ないだろう。
「国内事業に特化しすぎている」は悪いことなのか
NTTドコモ吉澤和弘社長。今、報道のなかで何を思うのか(2020年1月撮影)。
撮影:小林優多郎
一部報道では「ドコモが内向きすぎる。国内事業に特化しすぎている」というNTT幹部の意見があり、今回の完全子会社化につながったとも言われる。
しかし、ドコモはすでに海外進出に散々失敗してきた。AT&Tなど海外5社に2兆円を突っ込んだにもかかわらず、大した成果を出せずに撤退。iモードも海外展開してきたが、成功したとは言えなかった。
ただ、そもそも、携帯電話キャリアが海外進出して、大成功した事例は稀だ。
ソフトバンクですら、孫正義会長が息巻いてアメリカのスプリント(Sprint)を買収したものの、最終的にはT-Mobileに「お預け」した格好だ。百戦錬磨の孫会長を持ってしても、海外キャリアの買収を成功させられないのだから、ドコモがうまくいくわけもない。
一方で、ドコモは国内に特化したからこそ、安定的な収益を稼ぎ出しているとも言える。例えば、2020年のコロナ禍においても、通信産業は堅調だ。むしろ、多くの人がインターネットの存在により、テレワークで仕事を継続できたのではないか。
スマホのモバイルデータ通信は若干トラフィックが落ちたようだが、個人利用の「音声通話」の利用は伸びている。コロナ禍で売り上げが落ちるどころか、通信の需要は増している。
輸出で稼ぐメーカーなどは為替の変動で収益が大きく左右される。しかし、国内通信事業は為替の影響もほとんど受けない。
米中の貿易摩擦に関しても、ファーウェイ製品を調達できなくなるというデメリットはあるが、通信事業においてはそれぐらいの影響しかない。
ドコモが国内に特化しているからこそ、NTTグループは安定した収益を出し続けられるのではないか。
ドコモ社員に漂う「完全子会社化」への危機感
一般への認知度や顧客接点、5Gを軸とした今後のイノベーションを考えると、本来であればNTTドコモがNTTを完全子会社したほうがいいのではないか。
NTT東日本や西日本、コミュニケーションズやデータなどを、本来であれば、モバイルであるドコモがトップに立ち、傘下に治めるほうが、将来性があるように感じる。
ドコモに入社した社員とすれば、NTTの完全子会社化は危機感しかないのだろう。ひょっとすると、ドコモから一気に人材が流出することもあるのでは……そんな心配が頭をよぎるニュースだ。
(文・石川温)