ドナルド・トランプ大統領
REUTERS/Jonathan Ernst
- ドナルド・トランプ大統領が税金の支払いを回避するために複数の対策を用いていたことが、彼の納税申告書に関するニューヨーク・タイムズの調査で判明した。事業損失の個人所得への経費計上、地所の登録区分変更といった対策は、超富裕層の間で広く用いられている手段だ。
- 大統領は、リアリティ番組「アプレンティス/セレブたちのビジネス・バトル」に出演していた期間の理髪代を経費として計上し、7万ドル(約739万円)の税控除を申請していたという。
- そのほか、自らが所有する別荘「マー・ア・ラゴ」を事業所とすることで、これに関する高額な出費を事業経費として計上した。
- これらの節税策には、事業損失の計上など、一般人でも使える手段もあるが、トランプ大統領ほど多額の控除は望めない可能性が高い。
アメリカ史上初めて、ビリオネアの大統領となったドナルド・トランプは、多岐にわたる巧妙な会計処理で、過去10年間、連邦税をほとんど(年度によってはまったく)払っていなかったことが判明した。これは、同大統領の納税申告書を調査したニューヨーク・タイムズ(NYT)の報道により明らかになったものだ。
大統領は9月28日付のツイッターへの投稿で、具体的な報道内容に触れることなく、NYTの報道を否定した。この投稿の中で大統領は、「数百万ドルの税金を払ったが、他のすべての人々と同様に、減価償却や税控除の権利があった」と主張した。
税控除や減価償却にまつわるこれらの節税策の多くは、一般の人々でも使える。だが、大統領が連邦所得税の納税額を2年にわたって750ドル(約8万円)に抑えるために使った手段を使うのには、莫大なリソースが必要となる。
大統領は、自らの事業で生じた数百万ドル規模の損失を、個人の所得にかかる税金の控除に利用した。また、所有する高級不動産の区分を事業所に変更することで、自らが日常的に使用している贅沢品の費用を経費として控除したと、NYTは報じた。
具体的には、フロリダ州南部に「冬のホワイトハウス」としても使われる事業用施設(彼の別荘、マー・ア・ラゴ(Mar-a-Lago))を所有していれば、多額の税控除を手に入れられるということだ。
大統領の払った税額は、超富裕層に属する人々の平均的な納税額より少ない。所得上位1%の国民に適用される税率で計算すると、大統領の納税額は1億ドル(約105億5400万円)に達していたはずだと、NYTは指摘する。
超富裕層と大半のアメリカ国民の間で納税率に開きが生じ、それが拡大していることを示す証拠はいくつかある。2018年には、アメリカで史上初めて、ビリオネアの所得に対する納税率が、全国民の平均値を下回った。
以下で、トランプ大統領やトランプ・オーガナイゼーションが用いたが、平均的なアメリカ国民にはほぼ使えない節税策を紹介しよう。
その1:事業で生じた数百万ドル規模の損失を、自らの所得税に対する「節税クーポン」にした(NYT報道)
フロリダ州にあるリゾート「トランプ・ナショナル・ドーラル(Trump National Doral)」のエントランス。
Associated Press
トランプ大統領が連邦所得税の納税を回避するために用いた主な手段は、こうした事業損失の計上だったとNYTは報じている。事業による損失を計上することで、税控除を受ける権利を得ていた。
NYTの記事によれば、事業損失による税控除措置を利用することで、大統領は、自らが出演するテレビ番組「アプレンティス/セレブたちのビジネス・バトル(The Apprentice)」やその他の投資によって得た6億ドル(約633億2300万円)の所得に対する所得税の支払いを回避できたという。さらにこの所得は、赤字を出していた事業を継続するためにも使われていた。
調査された10年間では、所有するさまざまな不動産物件について計上した損失があまりに膨大になり、単年度に申告可能な法定上限額を超えた年もあった。そこで大統領は、この損失を先の年度に繰り越す、あるいは過去に支払った税金の払い戻しを受けるのに用いていたと、NYTは報じた。
その2:ほかにも、新規事業投資による税控除を受けていた
ワシントンD.C.にある「トランプ・インターナショナル・ホテル」
Reuters
トランプ大統領は、地域社会の振興目的で設けられた税控除制度の恩恵も受けていた。
たとえば、2016年にワシントンD.C.の旧中央郵便局パビリオンを「トランプ・インターナショナル・ホテル(Trump International Hotel)」に改装した際には、歴史的建造物の保存に関する税控除を受けたと、NYTは報じている。さらにNYTによると、大統領はさまざまな事業投資に関して、総額970万ドル(10億2370万円)以上の税控除を申請したという。
その3:利益を圧縮するため、かなりの額のコンサルティング料を支払ったとみられる
トランプ大統領(左)と、長女で上級顧問のイバンカ・トランプ。
Photo by Sarah Silbiger/Getty Images
2010年から2018年にかけてトランプ大統領は、「コンサルティング料」の名目で約2600万ドル(約27億4400万円)の所得控除を受けたと、NYTの記事は指摘している。
コンサルタントのうち少なくとも1名は、大統領の家族かつトランプ・オーガナイゼーションの従業員だが、コンサルタントに分類されていたため、その人物に払われた費用は事業経費として控除の対象となったとNYTは報道している。
納税申告書にはコンサルタントの氏名は記されていないが、そのうち1人に対する支払金額は、娘のイバンカ・トランプが資産公開で報告した報酬額と一致している。
その4:自身の事業所「マー・ア・ラゴ」に住居を置き、このクラブに関する多額の出費を控除の対象とした
トランプ大統領が所有する「マー・ア・ラゴ」。
Reuters
NYTによると、トランプ大統領は自分の住居がある「マー・ア・ラゴ」クラブに関する多額の出費を事業経費とした。2017年だけでも、リネン類と銀製食器に10万9433ドル(約1155万円)、造園作業に19万7829ドル(約2088万円)を費やし、イベントを撮影した写真家に21万ドル(約2216万円)を支払ったと申告している。
「マー・ア・ラゴ」以外でも、トランプ大統領は、自身が所有するプライベートジェットに関する費用や、テレビ番組に出演していた時期の理容費用7万ドル(約739万円)についても、事業経費として申告したと、NYTの記事は伝えている。
その5:さらに、不動産の区分を変更するという巧妙な手段で、さらなる節税を図った
ニューヨーク州ベッドフォードにある「セブン・スプリングス」(トランプ・オーガナイゼーションの公式ウェブサイトの情報による)。
Google Maps
ニューヨーク州ウェストチェスター郡にある広さ230エーカー(93ヘクタール)の地所「セブン・スプリングス(Seven Springs)」に関して、トランプ大統領は2種類の税制優遇措置を受けていると、NYTの記事は伝えている。
第1に、この地所は投資不動産に分類されているため、固定資産税を事業経費として控除できる。だが、投資不動産として認定されるためには、この地所から利益を得る活動をしている必要がある。これは、トランプ・オーガナイゼーションのウェブサイトの「トランプ家の別荘」という記述と矛盾しているようにみえる。
第2に、地所内の自然保護地域に関して環境保全の契約を結ぶことで、2110万ドル(約22億2686万円)の寄付金控除を手にしている。
NYTの記事によると、ロサンゼルスにある「トランプ・ナショナル・ゴルフ・クラブ(Trump National Golf Club)」も、保全地役権(conservation-easement)に与えられる税控除の恩恵を受けたという。
[原文:5 tax breaks Trump took advantage of that the average American can't]
(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)