前回はドラマ『半沢直樹』のストーリーを追いながら、銀行は融資先企業の経営状況に応じて「貸倒引当金」を計上することを解説してきました。では、現実に貸倒引当金を積むことになった場合の実務とは? そして、ドラマに出てくる帝国航空のモデルとなった実際のケースではどうだったのでしょうか。引き続き解説を進めていくことにします。
※以下、『半沢直樹』2020年版第2部のネタバレが含まれます。
貸倒引当金はどうやって計上されるのか
貸倒引当金はどうやって計算されるのでしょうか? 銀行には、貸倒引当金の金額を決める「自己査定」というプロセスがあります。
各銀行は、金融庁の「金融検査マニュアル」を踏まえて自行の自己査定マニュアルを策定します。このマニュアルをもとに融資先企業の業績等を確認することで、銀行が出した融資等を査定するわけです。
なお、金融検査マニュアル自体は2019年12月に廃止されました。その理由は、金融検査マニュアルが策定された1999〜2000年前半と比べ、銀行を取り巻く経済環境が大きく変わったからです。
今後、融資に関する査定は金融機関の個性や特性に合わせて個別に行われることになります。ただし金融庁の公表資料によれば「金融検査マニュアル別表に基づいて定着している現状の実務を否定せず」とあることから(※1)、本稿でも金融検査マニュアルに基づいた従来の自己査定の考え方を前提として話を進めることにします。
自己査定のプロセスは2つに分けられます。第一に、取引先の信用状態を把握してランク分けを行います。そして第二に、分類されたランクに応じて貸倒引当金を計上します。
ランク分けをする
ランク分けではまず、取引先の財務状況、資金繰り、収益力などによって返済能力を判定し、次の5つの「債務者区分」に分類します(図表1、※2)。
前回の記事で、不良債権とはざっくり「融資先の経営悪化や倒産等により、回収が困難になる可能性が高い債権」のことだと述べましたが、より厳密に言うと、上の債務者区分のうち「要管理先」以下が不良債権とみなされます(※3)。
債務者区分を行ったら、今度は融資先企業の融資の中身の「質」を分ける作業を行います。
例えば、B社に対して不動産の担保付きで10億円、および担保なしで運転資金2億円を貸し付けているとしましょう。当然、担保付きの融資のほうがその担保の分だけ保全されていますから、担保なしよりも回収の可能性は高くなります。
このように、融資の回収可能性の状況に応じて債権の額を次のⅠ〜Ⅳに分類します(図表2)。
例えば、預金や国債等の優良担保があれば、債務者区分が低くてもその額は第Ⅰ分類(非分類とも言います)に区分されます。また不動産担保がある場合は、回収見込み額を踏まえて一部は第Ⅱ分類、その残りは第Ⅲ分類というように分けられていきます。債務者区分が低く、かつ担保もなければ第Ⅳ分類に区分されるケースがほとんどです。
貸倒引当金を計上する
ここまでできたら自己査定の第二のプロセス、貸倒引当金の計上に移ります。
貸倒引当金は、債務者区分と分類によっていくら計上するかが変わってきます。計上の仕方は銀行によって多少の違いはありますが、おおよその目安は図表3(※4)のとおりです。
これをざっくり表現すると、それぞれの債務者区分ごとに担保なしのケースでは、債権額に対してだいたい以下の通りの貸倒引当金を積みます(※5)。
- 破綻先(Ⅳ分類):100%
- 実質破綻先(Ⅳ分類):100%
- 破綻懸念先(Ⅲ分類):70〜80%前後
- 要管理先(II分類):30〜50%前後
- 要注意先(II分類):5〜10%前後
- 正常先(I分類):0.3〜0.5%前後
この貸倒引当金はP/L上で費用として計上されるだけでなく、貸倒引当金額としてB/Sにも計上されます。
参考までに、図表4は三菱UFJ銀行の2020年3月期のB/Sです。貸出金105兆円に対して、貸倒引当金が6125億円(貸出金の約0.58%)計上されています(※6)。これを見るかぎり、「正常先」の割合に近いことが分かります。
このように、貸倒引当金はP/L上で費用もしくは損失として計上されるため、銀行が多額の貸倒引当金を計上すると費用が増えて利益が圧迫されます。
つまり、自己査定を通じて貸倒引当金をどのくらい計上するかは、銀行経営の生命線とも言えるのです。
ここで『半沢直樹』のストーリーに立ち戻りましょう。
出向先の東京セントラル証券から東京中央銀行へと出戻ってきた半沢が任された案件は「帝国航空の再建」。経営再建を要する状態ということは、帝国航空は「本来ならば」この段階で「破綻懸念先」以上に分類されてしかるべきでしょう(※7)。
東京中央銀行が帝国航空に融資した額は700億円ですから、仮に債権額の70%に相当する貸倒引当金を積むとして、約500億円(700億円×70%)に及ぶ貸倒引当金を計上する計算です。
前回も触れたように、ドラマ『半沢直樹』第7話では、大和田取締役が「(債権放棄をすることで)500億なんてカネをみすみすドブに捨てるようなことはしたくないよ」と吐露します。
しかし現実の世界で帝国航空並みの案件を抱えていたら、国から500億円の債権放棄を要請される前の段階で、すでに500億円もの金額を貸倒引当金として計上して、まさに「カネをドブに捨て」ることも覚悟していたに違いありません。
自己査定をチェックする監査・考査・検査
自己査定はその名の通り、銀行が自ら行うものです。実務を担当するのは、まず融資を出している営業部店や支店。そのうえで、銀行内の審査をする部署や与信を管理する部署などの、リスク管理のプロがチェックを行います。
『半沢直樹』の登場人物に当てはめると、半沢や大和田は営業部の立場、紀元常務や曽根崎(第6話に登場)は審査の立場。ここまでが銀行内における「内部管理」になります。
自己査定や引当金の内容は、この内部管理に加えて、主に3つの外部組織による「外部管理」によってもチェックされます。ここに関係してくるのが監査法人、日本銀行、金融庁の3つです(図表5)。
『半沢直樹』第6話には半沢の天敵ともいえる金融庁の黒崎(片岡愛之助)が登場しますが、ここで黒崎ら金融庁が行っていたのがまさに金融庁検査です。
このように、銀行内部での自己査定を通じた引当金の計上に加え、監査法人、日銀、そして金融庁といったそれぞれ違った立場から自己査定や引当金の状況についての確認が行われることになります。
帝国航空のモデル、JALはどうだったか
さて、ここまでは『半沢直樹』に出てくる帝国航空のストーリーについて考えてきましたが、すでにご存知の方もいるように、帝国航空は2010年に経営破綻した日本航空(JAL)のケースがモデルになっています(※8)。
ここで、現実世界でJALが経営破綻した際、銀行がどのような動きをしたのかを追いかけてみましょう。
JALの経営状態をめぐる報道をさかのぼると、破綻する約3年前の2007年時点で主力行である日本政策投資銀行、三菱東京UFJ銀行(当時)、みずほコーポレート銀行(当時)等の一部では、JALはすでに「破綻懸念先」に区分されており、融資の7割に当たる引当金を計上していたようです(※9)。
また、2007年5月に行われた第166回国会衆議院財務金融委員会第11号の答弁においても、日本政策投資銀行は、JALへの融資に対して82%の引当金を積んでいる可能性があることが指摘されていました(※10)。
その後、2010年にJALは会社更生法の適用を申請。更生計画では87.5%の債権放棄がなされることになりました。
銀行としては、2007年の時点ですでに「おそらく融資は返済されないだろう」と見込んで貸倒引当金を計上していたことから、会社更生の申請を通じた債権放棄による損失もある程度織り込み済みだったはずです。そのため債権放棄を行ったとしても、追加的な損失はおそらくそれほど多額にはならなかったでしょう。
これが、前回の冒頭で「業務改善命令を甘んじて受けてまで『500億円の債権放棄』を拒否する姿勢を貫くなんてことがあるだろうか」と述べた理由です。
現実世界では、業務改善命令と500億円の債権放棄を天秤にかけた場合、おそらく業務改善命令を避ける可能性が高いと考えられます。なぜなら、過去時点で既に貸倒引当金を通じて損失を計上しているため、銀行は債権放棄をしやすくなる合理性が出てくるからです。
しかし債権放棄にはデメリットも
一方で、債権放棄にはデメリットもあります。ひとたび債権放棄をすると、今後融資先の業績が回復した際に「戻り益」を計上できなくなってしまうのです。
戻り益とは、引当金以上に融資を回収できた時に発生するものです。例えば、10億円の融資に対して7億円の引当金を計上したとします。融資額から引当金を引くと3億円ですね。
ところが実際には4億円回収できたとしましょう。このように引当をしすぎた場合、実質的な元本を超えた分(この例では1億円)は「戻り益」として利益計上されます(※11)。
ただしこれは債権があってのこと。引当金の計上があれば債権放棄をする合理性は高まるものの、債権放棄をすれば戻り益の可能性がなくなるため、銀行としても簡単には債権放棄に応じられないという事情もあります。
加えて、簡単に債権放棄をしたことが公になると、他の融資先から「だったらうちも債権放棄してよ」と不平不満の声が挙がる可能性もありますから、銀行としては慎重に判断しなくてはなりません。
銀行も簡単には債権放棄しない
債権放棄の意味合いは、破綻状況が「法的整理」なのか「私的整理」なのかによっても大きく変わります。
図表6は、連載第14回で解説した私的整理と法的整理の分類です。
筆者作成
「法的整理」とは、法律に則り裁判所を通じて倒産後の手続きを行うというもの。JALの会社更生はこちらに該当します。
これに対して「私的整理(内整理)」とは、裁判所を介さず、企業が貸し手である金融機関や利害関係者と個別に交渉します。交渉の結果、返済スケジュール等を調整してもらったり(これを「リスケ(リスケジューリング)」と言います)、場合によっては債権放棄をしてもらうことになります。ドラマ『半沢直樹』の帝国航空は、劇中に裁判所がいっさい出てこないことから、私的整理だと分かります。
法的整理にせよ私的整理にせよ、原則論から言えば債権放棄をするかどうかを決めるのはあくまでも貸し手である銀行であって、国が介入すべきことではありません。これはあくまで銀行側の経営判断であり、その判断に合理的な理由がなければ、場合によっては銀行が株主から代表訴訟を起こされる可能もあるからです。
もちろん、預金者を含めたステークホルダー(利害関係者)にも相応の説明責任が必要です。説明の仕方を一歩間違えれば預金者に経営不安を連想され、取り付け騒ぎにつながりかねません。
だからこそ、『半沢直樹』第6話で、国から債権放棄を要請された半沢は筒井道隆演じる乃原弁護士に対してこう啖呵を切っているのです。
「あなた方タスクフォースの法的根拠は何ですか。大臣の私的諮問機関が民間企業にやってきて取引銀行に指示命令の類いをなさるというのは、どういう法律に基づいているんでしょうか。
(中略)
大臣のご意向だというのなら強権発動でもして、債権放棄を命じればいいじゃありませんか。それができないのは債権放棄をするかしないか、その最終的な選択権が我々銀行にあるからです」
もちろん、東京中央銀行はかつて公的資金が注入されていたことから(※12)、国の意向に配慮せざるを得ないという事情はあるでしょうし、会社更生のような法的根拠があれば債権放棄をすることも私的整理よりは受け入れやすくなるでしょう(※13)。
JALや帝国航空のような案件に政府が介入してきたのはあくまでも、それが国民の生活や経済を直接支えるインフラ産業であり、万が一清算にでもなれば市場が実質的に競合他社の1社独占になってしまうからだと考えられます。
だから政府の介入とは言っても、それは「命令」ではなくあくまでも「要請」。最終的に債権放棄をするかどうかは銀行自身に委ねられるべきことです。
おそらく半沢直樹ら東京中央銀行は、「帝国航空の自力再建は可能」と心から信じているからこそ、債権放棄に反対したのでしょう。にもかかわらずタスクフォースに債権放棄を迫られて……業務改善命令の問題はあったにせよ、『半沢直樹』で東京中央銀行が500億円の債権放棄に抵抗を示したのは、こうした意味合いゆえかもしれません。
半沢直樹に見る「バンカーの矜持」
今回は2回にわたり、ドラマ『半沢直樹』とJALのケースをもとにして、銀行の融資とそれに関連する貸倒引当金、そして貸倒引当金を算定するための自己査定の仕組みについて見てきました。現実世界で銀行がどのように債権を管理しているのか知れば知るほど、ドラマを2倍も3倍も楽しめるのではないでしょうか。
さて、ドラマ『半沢直樹』の原作者である池井戸潤さんは元バンカーです。ドラマの中では貸倒引当金について一切言及はありませんでしたが、ドラマの原作となった『銀翼のイカロス』では当然、貸倒引当金を計上することを匂わせる筋書きが出てきます。
ですが原作でもドラマでも、半沢直樹ら東京中央銀行は貸倒引当金のあるなしに関係なく、債権放棄500億円を安易に受け入れるという選択は最後までしませんでした(※14)。なぜ池井戸さんはあえてこのようなストーリーを描いたのでしょうか?
帝国航空の債権放棄に対して「反対」の姿勢を示していたのは当初、半沢ら東京中央銀行だけだった。
撮影:村上茂久。TBS『半沢直樹』第7話より。
上の画像は『半沢直樹』第7話で、東京中央銀行以外のすべての銀行が帝国航空の債権放棄に同意していることを報じる劇中ニュース番組のワンシーンです。おそらく他の銀行は、貸倒引当金を引き当てていたこともあり、政府からの債権放棄の要請を受け入れやすかったのでしょう。
このような四面楚歌の状況にあっても、東京中央銀行は国からの要請である債権放棄を拒みます。他行が債権放棄に賛同するなか、そこまで拒否する理由は何だったのでしょうか?
このシーンを見た私の脳裏には、先日残念ながら他界された住友銀行(現三井住友銀行)の元頭取、西川善文氏の著書『ザ・ラストバンカー』に記された次の一節がふとよぎりました。
「バンカーとして知恵を絞り、汗と血を流さなければならないのは、メインバンクとして支える企業が危機に陥ったとき、どのように再生させるかであろう」(※15)
現実世界においては、JALは2020年1月に会社更生法の適用を申請。法的整理になってから2年8カ月後の2012年9月には経営再建を遂げ、再上場を果たしました。
これだけ早期に経営状況を回復できたことを踏まえると、メガバンクが行った債権放棄は果たして正しい選択だったのだろうか——元バンカーの池井戸潤さんは、もしかしたらそう考えていたのかもしれません。実際、ドラマの原作『銀翼のイカロス』の巻末解説では、書評家の村上貴志氏も次のように書いています。
「東京中央銀行が、帝国航空再生タスクフォースから五百億円の債権放棄を迫られ、半沢直樹がその妥当性を吟味し、さらには役員会でも放棄の是非を巡って火花が散る。そうやって池井戸潤は、この債権放棄の“なぜ”に向き合っているのだ」(※16)
たしかに貸倒引当金があれば、銀行としては会計的視点では債権放棄しやすくなるのは事実です。ですが、債権放棄をしたからといって支援先企業の経営を再建できるわけではない。必要なことは、危機に陥った帝国航空を再建させるために、「バンカーとして知恵を絞り、汗と血を流」すことです。
ドラマの中で半沢直樹は、誰もが経営再建を確信できるような再生計画(※17)を自ら作り、帝国航空の経営陣と二人三脚でリストラ計画を実行していきます。債権放棄ありきではない、まず再生計画ありきなのだと行動で示すように。
『半沢直樹』はドラマですから、「実際にはそうはならないだろう」と感じる部分はたしかにあります。ですが同時に、「あるべき理想の姿」を示してくれてもいます。これこそが、『半沢直樹』が私を含め多くの人に愛される所以なのだと思います。
私自身、12年強の銀行員生活を通じて、サブプライムショック、リーマンショック、東日本大震災、ユーロ危機、Brexitなど、幾度も危機的な状況に直面してきました。しかし仕事の厳しさやプロフェッショナリズムを身に沁みて学ばせてもらったのもまた、銀行でのこうした厳しい局面においてでした。
あの時の自分も、半沢直樹の足元にも及ばないながらも「心から信じた行動を実践できた」と信じたいものです。読者のみなさんも、業界は違えど修羅場を経験するなかで、自分の中に小さな半沢直樹(※18)がいることに気づくことはないでしょうか。
私はしばらく半沢ロスになりそうですが、その虚脱感を押して執筆した本稿が、銀行という世界の醍醐味とそこに集う本物のバンカーたちの息遣いを読者のみなさんにお伝えする一助となったら、とても嬉しく思います。
※1 金融庁「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」2019年、p.15。
※2 金融庁「金融検査マニュアル別表」。
※3 不良債権の認識の仕方については、金融再生法に基づく開示債権とリスク管理債権の2つがあり、定義はそれぞれで微妙に異なります。
※4 なお、「要管理先」や「破綻懸念先」の大口債務者の債権等に対してはDCF法を適用することが望ましいとされています。詳細は金融検査マニュアルの別表2償却・引当に詳しく書かれています。事細かく規定されているため、ここでは詳細は割愛します。
※5 銀行や状況によって変わってくるので、あくまで目安とご認識ください。
※6 貸倒引当金は貸出金以外の債権にも計上されますが、ここでは単純化して、貸出金を分母として貸倒引当金の割合を計算しています。
※7 前回記事の脚注でも記載したように、ドラマの原作である『銀翼のイカロス』では、審査部のファインプレーにより帝国航空向けの債権は正常債権となっている描写が出てきます。
※8 実際、ドラマの原作となる『銀翼のイカロス』(文春文庫版)には、巻末の村上貴史氏による解説において「現実社会とは、帝国航空のモデルと思われるJALこと日本航空であり」と書かれています。
※9 「JALが主力行に債務株式化を要請、一部取引行は難色」ロイター、2007年5月24日。「JAL最終処理 始まった秒読み」東洋経済オンライン、2007年6月7日。
※10 国会会議録「第166回国会 衆議院 財務金融委員会 第11号」平成19年5月8日。
「まさに今、JALは、過去の放漫経営とあえて申し上げますけれども、中期再建計画を立てて再建に取り組んでいます。(中略)そこでお伺いをいたしますけれども、破綻懸念先債権、日本政策投資銀行の貸倒引当金の引き当て率は何%なんでしょうか。もちろん、債権内容によるものですので、概算で結構です。お答えください。(中略)私どもの貸倒引当金の総額を破綻懸念先債権の総額で割った数字、これは、大体でございますけれども、八二%ということでございます」
※11 実際、不良債権処理が一段落ついた2006年3月期の銀行の決算では多額の戻り益が計上されました。三菱UFJフィナンシャルグループの2006年3月期の決算では、連結で1兆1817億円の当期純利益のうち、特別損益となる貸倒引当金戻入益は6089億円にものぼりました。つまり、利益の半分以上が貸倒引当金の繰戻となった計算になります。
※12 ドラマ内で乃原弁護士は半沢に対して「知ったふうな口を聞く前に、公的資金で救済された銀行の過去を思い出したらどうなんだ。自分たちはちゃっかり助けてもらっておいて、他の会社のことをあれこれ言えた義理か」と言っていることから、現実世界において多くの銀行が国から公的資金を注入されたように、東京中央銀行も公的資金を注入されていたと考えられます。
※13 実際に銀行が、法的整理ではなく私的整理を通じて「債権放棄」を行うということはそれほど多くはありません。2000年代は、銀行が不良債権をオフバランスする際には債権放棄ではなく債権譲渡をすることが多かったです。例えば、10億円の元本の債権を外資系投資ファンド(いわゆるハゲタカファンド)に3億円で譲渡するようなイメージです。銀行から不良債権を購入したハゲタカファンドは、10億円の元本を盾になるべく多く回収しようと、債務者に「4億円払えば、残りの債務は全額免除する」などと交渉を仕掛けます。債務者にとっては10億円の債務が4億円まで減り、ファンド側は3億円で仕入れた債権を4億円で売ることができるのでWin-Winとなります。これが不良債権投資ビジネスです。
※14 ドラマの第8話では、役員会で紀本常務取締役が銀行員生命をかけて「債権放棄を受け入れる」と提案し、頭取を納得させました。しかしこの「債権放棄の受け入れ」は、帝国航空の主力銀行である開発投資銀行が債権放棄を拒否したら、準主力銀行である東京中央銀行も債権放棄を拒否するという条件付きのものでした。結果的に開発投資銀行が債権放棄を拒否したことで東京中央銀行は首の皮一枚がつながり、債権放棄を受け入れずに済みました。
※15 西川善文『ザ・ラストバンカー』講談社、2011年、p.56。
※16 池井戸潤『銀翼のイカロス』文春文庫、2017年、p.431。
※17 実際ドラマ内では、再生タスクフォースは半沢が作成した再建案と一部を除きそっくりな再建案を作成しました。
※18 ドラマ第4話で半沢直樹は、己の信念として次の3つを言っています。「ひとつ、正しいことを正しいと言えること。ひとつ、組織の常識と世間の常識が一致していること。ひとつ、ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価されること」。
(連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
村上 茂久:1980年生まれ。経済学研究科の大学院を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして大手企業や地方の新規事業の開発及び起業の支援等をしている。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も実施している。