「転職と出産のリミットはどちらも35歳」 —— そう語った33歳女性のキャリアプランとは。
撮影:今村拓馬
子育て世代にとって「子育てとキャリアをどう両立させるか」は古くて新しい問題だ。とりわけ、20代から30代の多くを悩ませているのが、転職と出産のタイミングだ。
都内のITベンチャーでマーケターとして働くハルカさん(33、仮名)もそのひとり。2度の転職を経験し、現在第二子を妊娠している。ハルカさんの「まるですごろくのような」キャリアと子育ての両立事情とは。
33歳で2人目妊娠…キャリアすごろくに悩み
「うーん、そんなに計画的と言えるのかな?もっとうまくやっている人もいると思いますけど……」
子育てと転職のタイミングが、ちょうど1年おきで計画的ですね、と聞くと、都内の有名ITベンチャーに勤めるハルカさん(33)は、遠慮がちにこう語った。
ハルカさんは新卒で入った企業から2度の転職を経ながら、現在第2子を妊娠中だ。今まで歩んできたキャリアを振り返ってもらうと、ほぼ1年おきにプライベート(結婚・出産)とキャリア(転職)の大きな転機を迎えている。
- 22歳:新卒でITベンチャーに入社
- 26歳:1回目の転職(大手小売へ)
- 27歳:結婚
- 28歳:一人目の出産・育休
- 29歳:育休から復帰
- 31歳:2回目の転職(ITベンチャーへ)
- 33歳:2人目を妊娠・産休中
子どもも安定した職も手に入れ、順風満帆のように見えるハルカさん。しかし本人は、転職のタイミングは「ここしかないという必要に迫られたから」だという。
都内のITベンチャーに新卒で就職したハルカさんは、2014年に27歳で、結婚を意識する人に出会った。ウェブディレクターとして奔走する毎日だったが、終電での帰宅は当たり前。「これでは子どもを産めない」と、転職してから結婚。子育てのことを考えて残業の少ない職場をと、選んだのは都内の大手小売企業だった。
「1年以内は妊娠しない」暗黙の転職ルール
35歳までに子育てと転職、どちらも達成しなければ……。ハルカさんにはそんな悩みがあった。
撮影:今村拓馬
「都合の悪いタイミングで妊娠したと、職場に思われたくないから」と慎重に転職のキャリアを組み立ててきたハルカさんは、ふたつの転職マイ・ルールを設けていた。
- 転職してから1年以内は妊娠・出産しない
- 育休から復帰して1年以内は転職しない
どちらも、転職時の「マナー」として一般的にアドバイスされるものだが、転職や出産を複数回しようと考えると、キャリアプランに余裕はない。ハルカさんがそのことに気づいたのは、一人目の産休から復帰して、小売のマーケターとして働き始めてからだった。
「35歳までに転職もしたいし、2人目の子どもも欲しい。このままここで働いていてはダメだ」
そう考えた理由は、勤め先の給料だった。小売は業界全体として給料が低く、20代ならば年収200万円代もめずらしくない。さらにハルカさんの場合は時短勤務だったので、給料はパート並み、という状態だった。
転職活動では「時短ブロック」
焦ったハルカさんは2018年、転職活動を始めるが、立ちはだかったのは「時短勤務」というハードルだった。
「最終面接までは進むんですけど、内定が出ない。最終で『時短なので難しい』とハッキリ言われたこともありました」
もっと戦略的に転職活動をしなければと、20万部突破のベストセラー『転職の思考法』を熟読。そこに書かれていたある言葉をヒントに、ハルカさんは条件をより絞り込むことに。
「業界の生産性が高ければ、給料も上がる。まず業界選びを優先しよう」
ロボットベンチャーや新興IT企業を中心に再度、転職活動を進めると、大型資金調達を達成したこともある有名ベンチャーにすんなりと内定が決まった。そこからマイ・ルールに則り、1年ほど働いたあとで、妊娠が分かった。
育児と仕事の両立は“無理ゲー”、第1子出産前後に5割が退職
平均出生時年齢は年々上がり、2018年には30.7歳(女性)となった。
出典:令和2年版 少子化社会対策白書
20代から30代の若手を中心に、キャリアプランを立てる際に「転職」はもはや当然の選択肢だ。
リクルートエージェントの調査によると、2009~2013年度の転職決定者平均人数を1としたときに、2018年度時点で20代の転職は2.43倍にはっきりと増加している。とくに20代前半でみると増加はさらに顕著で、同期比3.82倍にものぼる。
その一方で、転職を前提としたキャリアに「出産・子育て」というライフプランが掛け合わさると、ハルカさんのように、出産育児のタイミングとキャリアプランの複雑なパズルを組み合わせた結果、「駆け込み転職」せざるを得なくなるケースも少なくない。
さらに転職を希望しても、育児に伴う時短勤務を嫌がるあまり、企業がワーキングマザーを採用しない「時短ブロック」に合う可能性もあり、長期的なキャリアプランを描くことは簡単ではない。
背景には「転職の前後に産休・育休を取るな」と考える企業の無言の圧力もあるのだろう。
2019年の厚生労働省の発表によると、女性の育児休業取得率はここ10年ほど、8割台で推移している。その一方で、少子化社会対策白書(内閣府、2020年)によると、2人に1人の女性は第1子出産前後に離職を決断しているというデータもある。その理由でもっとも多いのが「仕事と育児の両立の難しさ」。つまり、育休を取得する人は多いように見えて、取得以前に半数の女性が仕事そのものから離脱しているのだ。
産休・育休を取ったり、時短や介護休暇を活用しながら仕事をするなんて“無理ゲー”(離れ業)なのだから、やめた方がラク —— 。データからは女性たちのそんなホンネが見え隠れする。
男性の育児参加の促進も急務だ。2020年9月、厚生労働省は男性の育休義務化を企業に義務付ける検討に入ったと相次いで報じられた。しかしそのニュースを聞いて、ハルカさんは思わずつぶやいた。
「1歳になるまでに育休取得を義務化するよりも、子どもが手のかからなくなる年齢になるまで、定時で帰れたり、なにかあった場合に休める方が、助かる家庭が多いんじゃないのかな……」
(文・西山里緒)