武装して集まったプラウド・ボーイズ(2020年9月26日、オレゴン州ポートランド)。
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- 米大統領選を前に9月29日の夜(現地時間)に行われたテレビ討論会で、トランプ大統領は白人至上主義グループを糾弾することを拒んだ一方で、右派が半数以上を占めるヘイトグループ「プラウド・ボーイズ(Proud Boys)」に対し「下がって待機せよ」と発言した。
- プラウド・ボーイズは2016年、ギャビン・マキネス(Gavin McInnes)氏が立ち上げた過激派組織で、人権団体「南部貧困法律センター(SPLC)」はヘイトグループと見なしている。近年、さまざまな暴力事件に関与している。
- ミドルベリー国際大学院モントレー校のセンター・オン・テロリズム・エクストリミズム・アンド・カンターテロリズムの副所長クリス・マガフィー(Kris McGuffie)氏は、トランプ大統領の発言は「非常に危険」で「暴力をあおるスローガンとして使われるかもしれない」とInsiderに語った。
- プラウド・ボーイズとその歴史について、これまでに分かっていることをまとめた。
米大統領選を前に9月29日の夜に行われたテレビ討論会では、司会を務めたクリス・ウォレス(Chris Wallace)氏がトランプ大統領に、白人至上主義グループや「ミリシア」と呼ばれる武装組織を糾弾しないのかと尋ねた。すると大統領は"右派による暴力"を起こしているグループの名前を挙げるよう求め、民主党のジョー・バイデン候補は右派が半数以上を占めるヘイトグループ「プラウド・ボーイズ」の名前を挙げた。
トランプ大統領は「プラウド・ボーイズ、下がって待機せよ」と言った。
過激派組織やヘイトグループを追跡しているNGO、名誉毀損防止同盟(ADL)のCEOジョナサン・グリーンブラット(Jonathan Greenblatt)氏は、トランプ大統領はプラウド・ボーイズへの自身の発言について「アメリカに謝罪または説明しなければならない」とツイートした。
プラウド・ボーイズの現在のリーダー、エンリケ・タリオ(Enrique Tarrio)氏は、トランプ大統領の発言を「直接的な支持」とは解釈しておらず、プラウド・ボーイズは白人至上主義とは関係ないとツイートした。その上で「彼はプラウド・ボーイズに下がって待機せよと言い、それは我々がこれまで常にやってきたことだ」とし、討論会でのトランプ大統領のパフォーマンスを「非常に誇りに思っている」と付け加えた。
しかし、トランプ大統領の発言は、過激派に詳しい専門家たちがまさに恐れていたものだ。テレビ討論会のすぐ後、ソーシャルメディアではプラウド・ボーイズに共感する人々が、大統領の発言を新たなスローガンとして取り入れていた。メッセージアプリ「テレグラム(Telegram)」のプラウド・ボーイズのアカウントは「下がって待機しています」とコメントしたと、NBC Newsが報じた。
ミドルベリー国際大学院モントレー校のセンター・オン・テロリズム・エクストリミズム・アンド・カウンターテロリズムの副所長クリス・マガフィー(Kris McGuffie)氏は、トランプ大統領の発言は「非常に危険」で「暴力をあおるスローガンとして使われるかもしれない」とInsiderに語った。
「トランプ大統領が大統領選に向けてキャンペーンを始めて以来、あからさまな暴力や内戦を求める声が高まっていて、現実世界でも暴力の呼びかけが増えたのをわたしたちは目にしてきた。こうした呼びかけは、政治家や力のあるその他の人々によって正統化されている」とマガフィー氏は言う。
トランプ大統領が白人至上主義の糾弾を拒み、人々に「注意深く観察する」ようアドバイスしたことは「事実上、有権者への脅迫を呼びかけたようなもの」だとマガフィー氏は指摘する。
トランプ大統領が「待機せよ」と言ったプラウド・ボーイズとは、どのような人々なのだろうか?
自称「西洋の熱狂的愛国主義者たち」の「友愛会」
集会に参加するギャビン・マキネス氏(2017年4月27日、カリフォルニア州バークレー)。
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プラウド・ボーイズは西洋文化、中でもストレートの男性のカルチャーが、ポリティカル・コレクトネスのカルチャーによって攻撃されていると考えている。彼らはしばしばソーシャルメディアのプラットフォームを使ってメンバーを募集してきたが、2018年にはフェイスブックに阻止された。
メンバー全員が男性で、トランプ大統領を支持するこのグループは、ヴァイス・メディア(Vice Media)の共同創業者ギャビン・マキネス氏が2016年に立ち上げた。マキネス氏はこのグループについて、ポリティカル・コレクトネスのカルチャーに反対する「西洋の熱狂的愛国主義者」たちの集まりで「『女の子は女の子、男は男だった』時代を切望している」と、2016年の論説で自ら説明している。
名誉毀損防止同盟(ADL)は、プラウド・ボーイズを「西洋文化」を称賛するための男性向けの「飲酒クラブ」と表現している。グループの活動の詳しい内容は秘密にされているが、国際テロ対策センター(ICCT)が出した5月のレポートで、プラウド・ボーイズの専門家で独立したコンサルタントのサマンサ・クトナー(Samantha Kutner)氏がその内部規則を分析している。
2018年の規約および内部規則で、プラウド・ボーイズは自らを「言論の自由や武器を持つ権利といった西洋文明を推進する」ための「友愛会」とし、「真の愛国心」などさまざまなミッションを掲げている。
入会の儀式は、まるで新入生をしごくマニュアルのようだ。2級メンバーになるには「朝食のシリアルを5つ言えるまで殴られなければ」ならず、3級メンバーになるにはプラウド・ボーイズのタトゥーを入れ、4級メンバーになるには「グループのために暴力に携わらなければ」ならないと、クトナー氏は書いている。
同氏は、プラウド・ボーイズのメンバーは世界中に推計3000人いるとし、最も多いのはアメリカだが、ヨーロッパ各地に地盤があるという。
メンバーは黒と黄色のフレッドペリー(Fred Perry)のポロシャツをよく着用していて、プラウド・ボーイズのロゴはフレッドペリーのロゴに似ている。フレッド・ペリーは9月24日の声明で、「プラウド・ボーイズとの関連が終わったとわたしたちが確信するまで」このポロシャツをアメリカもしくはカナダでは販売しないと述べた。
専門家は白人至上主義者と同様の主張をしていると指摘
ADLによると、プラウド・ボーイズの幹部は、自分たちは人種差別には反対だと主張しているが、一部のメンバーは「白人至上主義、反ユダヤ主義を支持」していて、白人至上主義グループと関わりを持っているという。
政府の透明性を求める非営利組織「Property of the People」が入手した内部文書では、連邦捜査局(FBI)がプラウド・ボーイズを「白人ナショナリズムと結びつきのある過激派グループ」と見なしていると、ワシントン州のある保安官事務所は述べている。
マガフィー氏は、プラウド・ボーイズが「(自分たちは)白人至上主義ではないと主張する一方で、まさに白人主義者のものとして知られる理屈や物語を公然と推進している」とInsiderに語った。
このグループは「女性差別、イスラム嫌悪、トランスジェンダー嫌悪、反移民の」レトリックも使っていると、ADLは指摘する。
2019年にはマキネス氏が、プラウド・ボーイズをヘイトグループと見なした人権団体「南部貧困法律センター(SPLC)」を訴えた。だが、マキネス氏自身が長い間、女性差別、人種差別をしてきた。
プラウド・ボーイズの立ち上げ前、マキネス氏はニューヨーク・タイムズの2003年のインタビューで、白人であることを「非常に誇りに思う」と語っていた。「我々の文化を薄められたくない。今こそ国境を閉ざし、全ての人間を西洋の、白人の、英語を話す生活に同化させる必要がある」とマキネス氏は主張した。
2002年のニューヨーク・プレスのインタビューでも、マキネス氏は人種差別的、同性愛嫌悪的な表現を繰り返し使用した。
2015年のFox Newsのインタビューでは、マキネス氏は専業主婦を「英雄」と呼び、働く女性は「時間を無駄にしている」と語った。トランスジェンダー嫌悪の発言もした。
左派グループに抗議し、暴力をあおる集会を開く
プラウド・ボーイズの集会(2020年9月26日、オレゴン州ポートランド)。
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プラウド・ボーイズは、アメリカ各地で反左派グループの暴力的な極右またはオルタナ右翼の集まりとなった。
グループはその「自警団的な武器と暴力的な戦術」で知られていると、マガフィー氏は言う。
ここ数カ月は、アメリカ各地でBlack Lives Matterの抗議活動に抗議している。CBS系列の地方放送局KOINによると、オレゴン州ポートランドで9月26日に開かれたプラウド・ボーイズの集会には200人が参加したという。プラウド・ボーイズはポートランドで複数のイベントを開催している。この集会で、現在の「会長」であるタリオ氏は「ポートランドは我々が国中で直面している全ての問題の中心地だ」とKOINに語った。
オレゴン・パブリック・ブロードキャスティングによると、ポートランド警察は9月30日、8月に起きた抗議活動の参加者に銃を突きつける事件に関与したプラウド・ボーイズのメンバーを逮捕した。
2019年10月には、マキネス氏がマンハッタンでスピーチした後に左派の抗議活動の参加者を襲ったプラウド・ボーイズのメンバー2人が懲役4年を言い渡された。プラウド・ボーイズ側は、メンバー2人は自衛のためにやったとしているが、ニューヨーク・タイムズが入手した動画は、2人が乱闘を引き起こしたことを示している。
タリオ氏は、2017年にバージニア州シャーロッツビルで開かれた悪名高い極右集会「ユナイト・ザ・ライト(Unite the Right)」に参加していたが、のちに自分は集会の一部の側面に「反対」だったと語った。3人が死亡、数十人が負傷したこの白人至上主義者とネオナチによるデモは、プラウド・ボーイズの元メンバーが組織するのを手伝ったとSPLCは指摘している。
マキネス氏は当時、ネオナチとは関係したくなかったし、集会にも参加しなかったと語っていたが、SPLCによると、プラウド・ボーイズの複数のメンバーが参加していたという。
ブーガルー(Boogaloo)といった他の右翼過激派グループ同様、プラウド・ボーイズのメンバーは「暴力や内戦は政治、社会変革のために容認可能なメカニズムだと強調している」とマガフィー氏は指摘している。
※編集注:ロイターによると、トランプ大統領は10月1日、Fox Newsのインタビューで、プラウド・ボーイズを含む全ての白人至上主義者を非難すると述べた。大統領の発言をめぐっては、共和党内からも「白人至上主義を非難しないのは容認できない」といった声が上がっていた。
(翻訳、編集:山口佳美)