日本はなぜ世界で遅れているのか。マクドナルドが考えるサステナビリティ

石黒さんの写真

日本マクドナルド コミュニケーション&CR本部広報部コンサルタントの石黒友梨さん

外食産業の中でも、若い世代と最も親和性の高い「ファストフード」。ここ数年、その主要顧客層である10代、20代の若い世代が、ファストフード界のSDGsへの取り組みに強い関心を示すようになっている。

日本マクドナルドは今夏、学生を集めて、持続可能な社会を考えるワークショップ「JSL Youth Club withマクドナルド」を開催した。若い消費者とともに取り組む活動には、どのような狙いがあるのか、コミュニケーション&CR本部広報部コンサルタントの石黒友梨さんに聞いた。

学生からの問い合わせに変化「社会に優しい会社か」が問われる時代

石黒さんの写真

マクドナルドには近年、環境への取り組みに関する問い合わせが増えているという。

「マクドナルドは、地球環境のためにどんな取り組みをしていますか?」

マクドナルドの広報部には近年、学生からの環境に対する取り組みについての問い合わせが増えている。

「授業や課外活動で企業の活動を調べるとなったとき、日常的に接している身近な存在として『じゃあマクドナルドはどうだろう?』となる学生さんが多いのだと思います」(石黒さん)

授業はもちろん、夏休みの課題などで、企業がどのような取り組みをしているのかを調べる学生は少なくない。「いちばん売れているハンバーガーは何ですか?」といったビジネスに関する質問も少なくないが、最近は、環境問題などに関係する質問が目立つという。

「いまは、小学校の教科書にもSDGsが載っています。彼らにとっては授業で学んだ、身近で、知っていて当たり前の問題なんですね」(石黒さん)

SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年9月にニューヨークの国連本部で開かれた「国連持続可能な開発サミット」で採択された、2030年までに実現することを目指したアジェンダだ。「1.貧困をなくそう」「2.飢餓をゼロに」「13.気候変動に具体的な対策を」など、17の目標が掲げられている。

石黒さんによれば、「修学旅行で東京へ行くので、SDGsへの企業の取り組みについて話を聞きたい」といった相談もしばしば持ち込まれるという。

そこで日本マクドナルドでは、若い消費者の関心の高さに応えるかたちで2019年から、学生と一緒に「サステナビリティ」について考えるワークショップを開いている。19年のイベントは、さまざまな団体と学生が一緒に「持続可能な社会・未来につなげるアイデアを“考えよう”」というイベントだった。

「ところが、学生さんたちからは、アイデアを考えるだけでなく、『もっと行動したい』『なんでマクドナルドはもっとやらないんですか』という声が上がったんです」(石黒さん)

石黒さんは、「大人が、彼らが活動できる場を提供することも必要だ」と考えたという。

2020年夏のワークショップ「JSL Youth Club withマクドナルド」は、高校生から大学院生までの12人の学生が参加し、5回シリーズで開催された。前回の参加者からの声を受けて「行動につなげること」が一つのテーマに。コロナ禍の影響でオンライン会議で実施したため、首都圏だけでなく、北海道や金沢など遠方からの参加が可能になったのも前年との違いだ。

「買い物の基準が変わっていく」

紙コップ

マクドナルドの紙カップに付いているFSC®の認証ラベル。(FSC® N002365)

2020年の「JSL Youth Club withマクドナルド」のミッションは、「サステナブル・ラベル」について、店舗やSNS上で発信して多くの人の認知を上げるために、情報をグラフィック化するというもの。15秒の啓発動画の製作がゴールだ。

graphicrecording

日本マクドナルド社が行う環境配慮のイラスト。初めて知る人にも分かりやすく描かれている。

提供:日本マクドナルド

Zoomの画面でつながった学生たちは、「日本サステナブル・ラベル協会」や日本マクドナルド、FSC、MSCの担当者からサステナブル・ラベルと日本マクドナルドの取り組みについてレクチャーを受け、クリエイティブは、マーケティングおよびコミュニケーションのプロから学んだ。イラストレーターがまとめていくグラフィックレコーディングを見ながら、空間を超えた熱いディスカッションを繰り広げた。

マクドナルドは、世界100以上の国と地域で約3万9,000店舗、日本国内でも約2,900店舗を展開。「Scale for Good」を提唱し、グローバルな枠組みでこのスケールを生かし、社会的課題や環境問題に対する取り組みを進めている。

「コーヒーカップについているカエルのマークをご存じでしょうか?あれもサステナブル・ラベルの一つでレインフォレスト・アライアンスの認証マークです」(石黒さん)。

サステナブル・ラベルとは、持続可能な原材料調達や環境・社会的配慮につながる国際認証のこと。世界中のさまざまな非営利団体が認証基準を作っており、現在、日本では日本サステナブル・ラベル協会(JSL)が、サステナブル・ラベルの普及・啓発活動を行っている。

日本マクドナルドでは、商品の紙製容器包装類にはFSC(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)認証紙を、コーヒーはレインフォレスト・アライアンス認証農園で栽培されたコーヒー豆を使用、さらに、フィレオフィッシュにはMSC(海洋管理協議会)認証を取得した漁業で獲られた魚を使用し、2019年8月にはサプライチェーンまでカバーするMSC CoC(管理の連鎖)認証を取得した。

それぞれの認証はカバーする領域が異なり、いずれも生産現場の自然環境や流通を含む働く人の権利、環境負荷の有無など、第三者機関による厳しい審査を経て初めて認証ラベルの使用が認められる。認証を得るには時間も、費用もかかるため、それぞれのテーマへの取り組みに対する、企業の本気度が反映されているともいえる。

「JSL Youth Club withマクドナルド」のディスカッションは、FSCチーム、MSCチームと2つのグループにわかれて行われた。

「短時間で問題点を認識してもらうにはどうすればいいのだろう?」

「ハンバーガーを食べることが環境を守ることにつながるというイメージを持ってもらいたい」

「見た人がハッピーになる、笑顔になるような内容にしたい」

「消費者が認証マークのついた商品を買うことで、ボトムアップで社会を変えていくことができると伝えるにはどうすればいいだろう?」

参加者たちは、専門家のアドバイスも受けながら、アイデアをブラッシュアップさせ、完成形をつくりあげていった。

「ビジネスも大事、環境も大事」10代のバランス感覚に感嘆

「JSL Youth Club withマクドナルド」を終えて、石黒さんはさまざまなことを考えさせられたと話す。

「学生さんからは、ヨーロッパでは早くからフィレオフィッシュにMSCラベルがついている国がいくつもあったのに、日本のマクドナルドが遅れたのはなぜですかという、なかなか鋭い質問も飛び出しました」(石黒さん)

ヨーロッパはSDGsへの意識が非常に高く、すでにサステナブル・ラベルなしでは商品を小売店に並べられないという国すらある。一方の日本はサステナブル・ラベルの認知度が低いため、費用のかかる認証取得が後回しになるケースは確かにあるのだという。

「それでも、商品の紙製容器包装類でのFSC認証については、2020年末までに100%の達成を目指しています」(石黒さん)

石黒さんは若い世代と接する中で、彼らのバランス感覚に感心することがあると話す。

「今回のディスカッションでも、『お金の流れって大切だよね』という発言がしばしば出てきました。寄付すればいいじゃないか、ということではなく、自然環境、生産現場、労働者、企業、それぞれがWIN-WINの関係でなければ意味がないということを理解しているのが、今の学生さんのすごいところだと思います」(石黒さん)

そんな学生たちが作成した動画が、もっと多くの若い世代に届き、その中から「自分もサステナビリティに関する活動に参加したい」と考える人が出てきてくれれば、今回の活動は大きな意味を持つと石黒さんは考えている。

「サステナビリティに関わる活動は芽が出て花が咲くまでにとても時間がかかるもの。根気強く取り組んで発展させていきたいですね」(石黒さん)

学生たちが完成させた動画は今後、日本マクドナルドの店頭やSNS、日本サステナブル・ラベル協会で公開する予定だ。


マクドナルドのサステナビリティへの取り組みについて、詳しくはこちら。

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