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トランプ氏に感染拡大の疑惑。討論会前に検査拒否、判明後イベント参加。バイデン氏支持率上昇【更新】

トランプ大統領

10月4日、ウォルター・リード国立軍事医療センターから一時外出し、支持者に手を振るトランプ大統領。密閉された車両の中でシークレットサービスを感染リスクに晒したと批判されている。

REUTERS/Cheriss May TPX IMAGES OF THE DAY

超大国アメリカでもっともリスク管理が徹底されるべきホワイトハウスで、トップのトランプ大統領とその側近たちが新型コロナウイルスに感染し、大統領の病状は一時「憂慮すべき」(メドウ大統領首席補佐官)事態とされた。しかも、再選がかかった大統領選挙の1カ月前だ。

自己中心的な“独裁”とも言える政治を主導してきた張本人を失い、ホワイトハウスも大混乱している。トランプ氏だけでなく、10月4日現在(米東部時間)でホワイトハウス関係者、議員、大統領側近、担当記者も含めて感染が判明しているのは、少なくとも9人にものぼる。

トランプ氏は10月5日夕に退院、だがその後もホワイトハウスで治療は継続すると報じられている。

世界におけるアメリカへの信頼度は、株価や米ドルの急落にすぐに表れ、「トランプ氏検査陽性」の発表直後、米先物価格は時間外取引で1%以上下落した

そもそもトランプ大統領のコロナ対策の失政により、新型コロナの感染件数は世界最大レベルだ。10月4日時点での感染者数は累計で741万人、死者は20万人を超えた。1日感染者数をみると、多くの州でロックダウンが実施されていた4月よりも、高い水準で推移している。

失業率は7.9%と最悪の月より改善はしているものの、経済の先行きには不安がある。凶悪犯罪が増加し、ニューヨーク市では8月の銃関連の犯罪が前年の2倍に達している

まさに「ディストピア」状態で、トランプ氏の新型コロナ感染前から広がっていた混乱がさらに深まっている。

感染診断後もマスクなしでイベント参加

トランプ氏の病状については楽観的な主治医の発表とは異なり、CNNなど複数メディアは、トランプ氏が10月2日、ホワイトハウス内で酸素吸入を受けたと報道した。

アメリカでは日本と異なり、新型コロナの症状が出て陽性と判定されても、軽症・中等症では入院はできない。酸素吸入器が必要となる「重症」で初めて、入院が許されるため、「酸素吸入」は米市民にとっては、一時は死への不安さえ感じさせる言葉だ。

ホワイトハウス

ホワイトハウスではトランプ大統領夫妻の他、側近や議員など少なくとも9人が感染したことがわかっている。SPなど警備や一般職員の感染者数は明らかにされていない。

Shutterstock/Luca Perra

そもそも側近の元広報部長ホープ・ヒックス氏は自覚症状があったにもかかわらず、トランプ氏と濃厚接触していた。その後、トランプ氏は複数のイベントに参加し、関係者を感染リスクに晒した可能性が取りざたされている。直近1週間のトランプ氏の足取り(米東部時間)を振り返ろう。

  • 9月26日 ホワイトハウス内で、連邦最高裁判事の後任にエイミー・コニー・バレッド判事を指名。後に、参加者の中から、トランプ夫妻を含め6人が陽性と判明。
  • 9月29日 第1回大統領候補討論会に参加。民主党候補のジョー・バイデン前副大統領と討論。
  • 9月30日 中西部ミネソタ州で、大規模選挙集会。参加者の大半がマスクせず。
  • 10月1日 ニュージャージー州で資金集めパーティーに参加。
  • 10月2日未明 大統領夫妻がコロナ検査で陽性と発表。
  • 10月3日午前 主治医ショーン・コンリー氏が「72時間前に新型コロナ感染と診断した」と記者会見で発言。

コンリー氏の発言によると、9月30日日中に新型コロナと診断されたにもかかわらず、トランプ氏はその後のイベントにマスクもせず参加していたことになる。支持者と握手したり、ハグをしたことも容易に予想できる。

討論会前に義務だった検査も受けず

トランプ大統領

入院2日前の9月30日、トランプ大統領はミネソタ州ダルースのダルース国際空港で選挙集会を開いていた。

REUTERS/Leah Millis

側近に感染者がいると知りながら、9月29日の大統領候補討論会に臨んでいた可能性も指摘されている。討論会では参加者に義務付けられていた検査も拒否していた。

「大統領夫妻とトランプ一家は、討論会の時間ギリギリに来て、参加者に義務付けられていたコロナ検査を受けなかった。全員マスクをしていたバイデン陣営とは対照的に、トランプ一家は全員マスクをしていなかった」(討論会司会のクリス・ワラスFOXニュースアンカー)

ホワイトハウスという世界一危機管理が徹底されるべき場所、またそこでのイベントで感染が拡大し、クラスター化したことは、アメリカという国への信頼の失墜にもつながる。

しかも、そこから発信される病状に関する情報も透明性を欠き、二転三転している。

とても良好だ」(10月3日コンリー医師)→「過去24時間は憂慮すべき状態だった。向こう48時間が山場だ」(10月2日メドウ大統領首席補佐官)→「気分は良くなってきたが、今後数日何が起きるかわからない、それが試練だと思っている」(10月3日トランプ氏、Twitterビデオで)→「ホワイトハウスの情報は誤解される」(10月4日コンリー医師)→10月4日、トランプ氏が突然、一時的に軍医療施設を離れ、車内から支持者に手を振るパフォーマンス

「陽性」発表から3日経っても、トランプ氏の正確な病状が分からない状況だ。

討論会後バイデン氏の支持率上昇

9月29日に行われたトランプ氏とバイデン氏のテレビ討論会の様子。

9月29日に行われたトランプ氏とバイデン氏のテレビ討論会。両者、誹謗中傷の応酬となり、「勝者なき討論会」とまで言われた。

REUTERS/Jonathan Ernst TPX IMAGES OF THE DAY

このトランプ氏のコロナ感染は、大統領選挙で一気に民主党候補のバイデン氏を有利にするのだろうか。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)とNBCニュースが討論会直後に実施し、10月4日発表した世論調査の結果は、バイデン氏の支持率が53%、トランプ氏が39%と、バイデン氏が14ポイントもリードした。9月のバイデン氏のリードは8ポイントだった。

調査は、トランプ氏の新型コロナ感染の発表の前。従来、非難の応酬となり、「勝者なき討論会」とまで言われていたが、結果的にはバイデン氏に有利に働いたとみられる。

そこにきて、このトランプ氏のコロナ感染。新型コロナ対策に真剣に取り組まず、感染を拡大させたことに対する反感はもともと根強い。このために今後の世論調査でさらにバイデン氏がリードするという予測もある。

トランプ氏は、常にマスクをしているバイデン氏やホワイトハウス職員、担当記者をバカにしてきたが、結果的に自身が感染した。

さらに無保険者約2000万人を救ったオバマ前大統領の医療保険制度(オバマケア)の撤廃に躍起となり、オバマケアを全廃するカギを握る最高裁判事に、エイミー・コニー・バレット氏を送り込もうと指名。有権者の多くが生死をさまようまで入院できないにもかかわらず、病状について不確かな情報しかない大統領や他の政治家が入院できたことに、非難の声も上がっている。

「重要なのは、トランプは世界一の治療を得られるいうことだ。新型コロナと診断されたほとんどの人が家に帰され、症状の経過を見守るように言われているにもかかわらずだ。そして失業し、個人で保険料を払えないから、医療保険を失った人たちのことも忘れずに」(オバマ政権の政府高官だったクリス・ルー氏)

トランプ氏は、アメリカで最高の治療を受けている最中の10月4日夕、一時外出した。大統領専用の車列を組み、沿道にマスクをした警官を配備し、病院の外に集まり支援や祈りを送る支持者に手を振るパフォーマンスを送ったことにも批判が上がっている

「全然必要のないトランプ大統領の“走行”に付き合ったスタッフは、今から2週間の自主隔離をしなければならない。発症するかもしれない。死ぬかもしれない。政治的なドラマのためにだ。トランプが彼らの命をリスクに晒すと命令したからだ」(トランプ氏が入院している米軍事医療センターのジェイムズ・フィリップ医師)

投開票日と開票後に襲う大きな混乱

トランプ氏のコロナ感染以前に、そもそも大統領選挙の投開票日当日とその直後にアメリカを大きな混乱が襲うことが予想されていた。

9月29日の討論会で、トランプ氏は市民や警察に2つの大きな不安の種を残した。投開票日に銃器を持ったトランプ支持者が投票所に現われるかもしれないという可能性と、トランプ氏が敗北しても、選挙結果を受け入れない可能性だ。

トランプ氏は、女性・イスラム教徒・移民などへの差別や暴行を容認しているヘイトグループ「プラウド・ボーイズ」について質問された際、こう答えた。

「プラウド・ボーイズ、一歩下がって、待機せよ。なぜなら誰かがアンティファ(注:反ファシズムのグループ)など左派に対抗しないといけないからだ」

米オンラインメディア「アクシオス」によると、プラウド・ボーイズ幹部のジョー・ビッグズ氏は、保守系ブログにこう書いた。

「トランプ大統領は、誰かが左派グループ、アンティファに対応しなければならないため、プラウド・ボーイズに待機せよと命令した……はい、サー! 私たちはやる気です。トランプ氏は基本的に彼らを消せと命令した。嬉しくてなりません」

9月18日にすい臓がんで87歳で亡くなった米連邦最高裁のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事。

9月18日にすい臓がんで亡くなった米連邦最高裁のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事。その後にトランプ氏が保守系のバレット氏を指名したことで、最高裁での保守の力が圧倒的になった。

Getty Images/Mark Wilson

トランプ氏は討論会で、「結果を見るまで何カ月もかかるかもしれない。(中略)八百長の選挙だ」とも述べ、敗北しても再集計を命じ、結果を容認しない見通しも出てきた。

投票所には武装した右派グループが現れ、投開票日後には結果を巡って、リベラルと保守の市民双方が、デモに繰り出し、対立する可能性がある。

まさに投開票日は、民主主義国家としての崩壊の入り口になるかもしれない。

大きな混乱のうねりの中、トランプ氏は10月4日、花やアートが飾られて最高のシェフがいる軍の病院から一時外出し、病院外に集まった彼の支持者に手を振り、強靭さをアピールした。多くの命が失われた新型コロナ感染ですら、自らの再選に利用しようとする姿が、彼を支持する有権者にどうとらえられるのだろうか。

(文・津山恵子

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