BI Daily Newsletter

「名ばかり在宅ワーク」もある…公務員の在宅勤務の実態

公務員

コロナの流行によって、在宅勤務の取り組みが進んでいる。

Shutterstock.com/metamorworks

新しい生活様式の浸透で、多くの民間企業では、在宅ワークやリモートワークの取り組みが広がり、結果として働き方の多様化が進んでいる。

その一方で、公務員の在宅ワーク、働き方改革は、なかなか進んでいない現状がある。

本末転倒な「名ばかり在宅ワーク」

在宅勤務をする男性

Shutterstock.com/mapo_japan

「確か、緊急事態宣言の期間中だったと思うのですが、職場で『在宅ワークをやってみましょう』という話が出て少しやってみました。ただ、個人情報の取り扱いが厳しいので出来ることは限られていました。正直、名ばかり在宅ワークでした

こう話すのは、地方の政令指定都市で公務員として働いているナオミさん(32・仮名)。

ナオミさんは生活保護に関わる業務についており、生活状況などを確認する家庭訪問などでどうしても住民との対面が必要となる。

また、取り扱いに注意が必要な「生活保護」という個人情報の性質上、職場外からそういった情報にアクセスして仕事をすることも難しい。

結果的にナオミさんの職場では、仕事に関わる制度や法律の勉強のほか、「勤務する自治体について調べる」という業務と直接関係するとは言い難い内容を在宅勤務の新たな業務として指示されたという。

「仕事に関係しているといえば関係しているけど……」(ナオミさん)

制度や法律についての知識は、職務上で当然役に立つだろう。だが、通常は業務フローの中で必要になった際に調べることも多い。

正直な話、在宅ワークを行なうために新たな業務を作っている状態で、本末転倒ともいえる。

なお、ナオミさんの職場では他の部署も含めて、現状ほとんど在宅ワークは行われていないという。

部署によって異なる在宅ワークの難易度

霞ヶ関のビル群

Shutterstock/soraneko

東北の地方都市で公務員をしているショウタさん(31・仮名)は、

「役所としては、4月の中旬くらいから時差通勤を始めたり、リモートワークをできるようにサテライトオフィスを設置したりしました。最近、在宅もできるようになりました」

と話す。

ただし、ショウタさん自身は基本的に出勤して業務を行っているという。

「出勤しなければならない」最大の理由は、いま課題の1つとして指摘され始めたネットワーク環境の問題があるからだ。

自治体では、アクセスできる情報のレベルに応じて、使用できるネットワークや端末が限られる。特に、住民の個人情報にアクセスできるような端末は、外部に持ち出すことはできない

ショウタさんの職場では、台数は限られるが庁内のネットワークにアクセスできる端末(個人情報へのアクセスは不可)を、専用のWiFiと一緒に貸し出すことで、一部業務での在宅ワークが可能となっている。

「福祉課など、人に対応する必要があるケースは、通勤しないと業務にならないケースはあると思います。一方で、建設部などはサテライトや在宅での勤務は簡単だと思います。電話する先が変わるくらいでしょうか。部署によって、結構差があると思います」

国家公務員とは異なり、市町村レベルでは特に身近な人の生活レベルの個人情報を取り扱うケースが多い。情報セキュリティの観点からも、部署によって在宅ワークの難易度が大きく異なることが想定される。

「結局職場に行かざるをえない」という現実

駅のホームで電車を待つ会社員

撮影:今村拓馬

ネットワークなどのシステム以前に、在宅を前提としていない職場環境も、公務員の在宅勤務を妨げる要因の1つだ。

「(在宅ワークを)やってみたいという気持ちはあります。ただ、もともと職場で働くことを前提に仕事をしてきました」(ショウタさん)

書類のやりとりもデータではなく、印刷された紙ベースである場合が多い。他の部署から回ってきた書類を確認して修正の赤字を入れたり、判子を押したりする業務もある。

一部の業務を在宅で済ませても、結局、直接やりとりが発生するケースが残る以上、部署の誰かは出勤する必要がある。

1つの課に何十人も人がいるような大きな自治体ならまだしも、人数の少ない地方では、在宅勤務を部分的に運用する中でも業務が回らなくなってしまう可能性がある、とショウタさんは諦めムードだ。

また、自治体の中には、デスクトップ型のパソコンを業務用として使用している場合も多い。在宅ワークをしようにもそもそも機材が足りない、という問題もある。

公務員の在宅ワーク、その実態は?

調査

公務員を対象にした調査結果。自治体に在宅ワークの制度があっても、7割近くが実際に利用したことがない。

出典:デロイトトーマツ行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020

実際のところ、公務員における在宅勤務、リモートワークはどの程度進んでいるのか?

デロイトトーマツは、9月28日に公務員の在宅勤務状況に関するアンケート「行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020」(調査日:2020年7月17日(金)~2020年7月19日(日))の結果を発表した。回答者は、国、都道府県、市町村で勤務する公務員1000人。うち約4割が市の職員だ。

アンケート結果から、進みにくい公務員の在宅勤務状況と、国や市といった行政機関の規模・住民との距離感によって抱える課題が見えてきた。

国・都道府県で在宅勤務制度が整っているのは6割程度。一方、市町村では3割に留まる。

調査1

出典:デロイトトーマツ行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020


在宅勤務の実施頻度は、国家公務員で5割。都道府県、市町村レベルだと約2割と低い。

調査2

出典:デロイトトーマツ行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020


在宅勤務における課題は「セキュリティ、ネットワーク関連」と「業務内容」が多い。また、制度上の問題も在宅勤務を妨げる要因となっている。

調査3

出典:デロイトトーマツ行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020


税務や福祉など、対人での業務が多い部署では、在宅勤務はかなり難しい。

7

出典:デロイトトーマツ行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020


公務員も、8割以上は在宅勤務を希望している。

調査5

出典:デロイトトーマツ行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020


業務用のパソコンの持ち帰りは、ほとんどできていない。仮にパソコンを持ち帰れても、約半数は社内ネットワークにアクセスできない。

調査6

出典:デロイトトーマツ行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020


市町村や都道府県レベルでは、特に自宅から社内ネットワークへアクセスすることは難しい。

調査7

出典:デロイトトーマツ行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020


在宅勤務の実施が最適解かどうかは別問題だが、現在の勤務形態に不安を感じている公務員は多い。

調査8

出典:デロイトトーマツ行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020


東京商工会議所が会員企業に対して実施した「テレワークの実施状況に関する緊急アンケート」(調査日:2020年5月29日~6月5日)によると、緊急事態宣言中は約7割の企業がテレワークを実施していたという。

感染の中心地であった東京での調査ではあるものの、公務員と比べて在宅勤務の実施率は非常に高い。

一方、在宅ワークにおける課題は、セキュリティーやネットワーク、押印対応など、公務員の間で認識されている課題と共通している。

民間企業と比べると、公務員の在宅ワークやDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みは、一歩遅れていると言わざるをえない。

しかしそれでも、河野太郎行政改革担当大臣が「ハンコ廃止」の動きを進めるなど、着実に状況は変化している。

感染対策をきっかけに加速した在宅ワークの取り組み。今後、仮に新型コロナウイルスの流行が収束してもこの流れが続くのか、注視したい。

編集部より:デロイトトーマツに関する記載に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。2020年10月9日16:40

(文・三ツ村崇志

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

あわせて読みたい

新着記事

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み