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NVIDIAとArmの売上高を言える?【 NVIDIAのArmを4兆円買収】

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A. 売り上げはNVIDIAが年換算で約160億ドル(約1.6兆円)、Armが約180億ドル(1,800億円)。NVIDIAの方が約9倍大きい。

ちなみに、時価総額もNVIDIAが約9倍大きい計算に。

今回の記事では、NVIDIAによるソフトバンクグループからのArm買収のニュースを読み解いていきます。

「半導体チップが重要なことは分かるけど、NVIDIAとArmがどのようなビジネスを展開しているのかはよく分からない」という方も多いのではないでしょうか。

そのような方のために、本記事では、まず半導体チップ領域の代表的企業であるNVIDIAとArmのビジネスの違いに触れた上で、今回の巨額の買収金額の妥当性、買収後の懸念ポイントについて解説していきます。

NVIDIA INVESTOR PRESENTATION Q2 FY2021

Arm Limited 2021年3月期 第1四半期 IR資料

NVIDIAがArmを買収

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冒頭で説明したように、NVIDIAがArmをソフトバンクグループから買収することが発表されました。NVIDIA、Arm、ソフトバンクグループの3社の取締役会の承認は降りている状態です。

NVIDIAがArmをソフトバンクグループから4.2兆円超で買収、半導体大手2社が一体に

こちらの記事によると、買収金額は総額で$40B(約4兆円)と、莫大な金額となっています。

NVIDIA(エヌビディア)は米国時間9月13日夜、半導体設計追ってのArm Holdings(アームホールディングス)を総額400億ドル(約4兆2450億円)で現在の所有者であるソフトバンクグループから買収する意向を正式に表明した。ソフトバンクグループは2016年に320億ドル(約3兆4000億円)でArmを買収していた。

ソフトバンクグループは契約書署名後直ちに20億ドル(約2100億円)を現金で受け取る。その後、取引実行時に現金100億ドル(1兆600億円)およびNVIDIA株215億ドル(約2兆2800億円)を受け取る。この株式はNVIDIAの10%弱にあたる。さらにソフトバンクグループは、実績ベースのアーンアウトとして現金と株式を合わせて50億ドル(約5300億円)を受け取る見込みだ。

約4兆円の内訳は、以下の通りです。

・契約直後にソフトバンクグループへ支払い: $2B(約2,000億円)

・買収金額: $10B現金 + $21.5BのNVIDIA株式 = $31.5B(約3.15兆円)

・アーンアウト: $5B(約5000億円)

・既存Arm社員の株式報酬: $1.5B(約1500億円)

このように、シンプルに現金を支払うのではなく、NVIDIA株の引き渡しや、アーンアウト(実績等の一定の条件が成立した場合に行う支払いのこと)の条項等も含まれています。

ソフトバンクグループは、2016年に320億ドル(約3.2兆円)で買収したものを、(アーンアウトを除くと)335億ドル(約3.35兆円)で売却することになったわけです。

アーンアウトを除いた金額で見ると、若干資産価値は上がっているものの、2016年〜2020年における株式市場の成長と比較すると、見劣りする投資となっているとも言えるでしょう。

NVIDIAとArmのビジネスの違い

NVIDIAとArmは同じ半導体業界の代表的企業ではありますが、ビジネスの得意領域は異なっています。

両社のビジネスの違いを理解する上で、まずCPUとGPUについて簡単に説明しましょう。

CPUとGPUは、それぞれ計算処理を行うプロセッサであるという点では共通していますが、以下の図のような違いがあります。

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すなわち、CPUはコンピュータ全体に関わるような複雑な命令を処理する司令官のような役割を得意とするのに対して、GPUは画像描写のような定型的な処理を並列でスピーディーに処理することを得意としています。

GPUは、このように高速で大量のデータを処理することに長けていることから、近年では機械学習(自動運転・AI)の領域においても利用が広がっています。

そして、冒頭の話に戻ると、「NVIDIAはGPU、ArmはCPU」をそれぞれ得意領域としています。このように、同じ半導体チップを扱う会社でも、GPUとCPUという得意領域の違いがあるわけです。

さらに、両社のビジネスには、ビジネスモデルの観点でもう1つの違いがあります。

その違いとは、NVIDIAはハードウェアを販売をしているのに対して、Armは半導体チップの設計に関するIPライセンスを販売しています。Arm自身がチップを作るのではなく、設計フェーズにフォーカスし、各半導体メーカーからライセンスフィーをもらっているわけです。

これらを総合して考えると、NVIDIAはCPU周りのIPが弱く、Intel、AMDといった競合に対して優位性を築くための買収と見ることができます。

買収金額は妥当なのか: Armの売上・利益からの考察

次に、今回の約4兆円という巨額の買収金額は妥当なのか、検証していきましょう。「Armの売上・利益」と「NVIDIAの時価総額」という2つの軸で、妥当性を確認していきます。

まずは、Armの売上・利益の軸から検証するために、Armの決算数字を見てみましょう。

Armの売上とEBITDA(利益)は次のようになっています。

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2019年の実績で、年間売上は約18億円(約1,800億円)。2016年の買収後は大きくは伸びておらず、成長率は低迷していることが分かります。

同時期のEBITDAは、3億ドル(約300億円)程度となっています。こちらに関しては、2016年の買収後、大きく減少していることが分かります。

この売上・EBITDAに対して、約4兆円という価値がついたわけですが、売上マルチプル(PSR)は20倍以上、EBITDAマルチプルで100倍以上となっていることから、非常に高い買い物であったと言えるでしょう。

逆に言えば、Armは、他に類似企業ない掘り出し物物件であるためこれだけ高い値段が付いたと考えられます。

買収金額は妥当なのか: NVIDIAの時価総額からの考察

次に、NVIDIAの時価総額の軸から、買収金額の妥当性を検証していきます。

NVIDIAの決算数字を見てみましょう。

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直近の決算を見てみると、四半期あたりの売上は約39億ドル(約3,900億円)でYoY +50%という高い成長率を誇っています。営業利益は、6.51億ドル(約651億円)となっています。

これらを年換算すると、売上約160億ドル(約1.6兆円)、営業利益約26億ドル(約2600億円)となります。

Armの売上が約1800億円なので、NVIDIAの売上はArmの約9倍の水準です。

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一方で、NVIDIAの時価総額を確認すると、2020年9月16日時点で3090億ドル(約30兆円)です。Armの買収金額は約4兆円なので、NVIDIAの時価総額の約1/9の水準です。

こうして考えると、ArmはNVIDIAに対して、売上が1/9なので、時価総額も1/9だと思えば、335億ドル〜400億ドル(約3.35兆円〜約4兆円)での買収も悪くはないと言えるでしょう。

このように、今回の買収金額に関しては、Armの売上・利益から考えると割高だが類似企業がない領域のため高い値がついたと考えられ、NVIDIAの売上と時価総額の関係から考えると妥当な水準だと言えます。

買収後の懸念その1: 成長率の違い

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次に、Arm買収後の懸念点について、整理しておきましょう。2つの懸念点があり、1つ目は両社の「成長率の違い」です。

先述のように、Armの成長率は直近3年ほどは低迷しています。一方で、NVIDIAはYoYで+50%と未だに高い成長率を維持しています。

Armの数字が合算されることで、今後NVIDIAの成長率は低下することが予想され、Armがお荷物になる可能性あります。

買収後の懸念その2: Armの中立性がなくなることでの顧客離脱

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もう1つの懸念点は、Armの強みである中立性がなくなることによる顧客の離脱です。

冒頭のNVIDIAとArmのビジネスの違いの章でも説明したように、Armは半導体チップの設計をライセンスとして販売するIPビジネスを行っています。

そのようなビジネスモデルの下、Armによる設計は中国を含めた世界中の企業で使われており、特にスマホ向けCPUのシェア95%以上と言われています。

Armがここまで半導体チップの領域でシェアを伸ばすことができた背景には、その「中立性」がありました。どこかの企業グループに属していない中立的な企業であるからこそ、競合し合うような半導体メーカー各社もArmの設計を共通で採用していたわけです。

ただ、今回の買収によりArmがNVIDIA配下になると、その状況は一変します。「Armの顧客かつNVIDIAの競合メーカー」という企業は、ArmのIPの利用を継続することに対して、検討を余儀なくされるでしょう。

実際に、QualcommやAMDといったNVIDIAの競合半導体メーカーのほとんどは、ArmのIPを利用しています。

また、ファーウェイを中心とした中国企業もArmの重要な顧客ですが、昨今の米中対立の激化を鑑みると、米国政府がArmに中国企業との取引を中止するよう求めることも考えられます。

このように、Armが米国の半導体メーカーであるNVIDIAグループ入りすることで、中立性が損なわれ、競合半導体メーカー及び中国企業の顧客が離脱していくことが懸念されています。

Arm・NVIDIA陣営としては、NVIDIAの技術をArmのIPポートフォリオに追加することでArmのビジネスを強化すると共に、IPとチップの双方を必要に応じて販売できることを強みにしていくようですが、実際にこれが機能するのかは、注視していく必要があるでしょう。

まとめ

本記事では、NVIDIAによるArm買収のニュースに関連して、両社のビジネスの違い、買収金額の妥当性、そして買収後の懸念ポイントについて解説してきました。

半導体チップの領域において、両社は異なる強みを持つ会社であり、NVIDIAが自社に不足するピースを補完したいという動機は分かりますが、懸念点の2つ目として上げた「Armの中立性が損なわれること」は、そのような買収のメリットを打ち消しかねません。

NVIDIA・Arm陣営が、今後どのような形態でビジネスを展開していくのか、成長率はどのように推移していくのか、引き続き注目です。


シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中

決算が読めるようになるノートより転載(2020年10月6日公開

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