コロナ禍で実体経済は停滞しているが、株価は世界的に見て上昇基調。だが「2021年にこの状況は一変する」と、景気予測で有名なハリー・デントは警告する。
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- 『バブル再来』『次なる大恐慌』などの著書でも有名なハリー・デントは、株式が「報いを受ける日」が近づいているという。
- その予測は、常軌を逸して膨らんだ債務、何年にもわたる無制限の金融緩和、中央銀行の効力低下、人口高齢化、株価や不動産価格の高騰、といったいくつかの要素を根拠としている。
- 「暴落が起きると、株価の修正は30%や50%では済まない」とデントは言う。一体、何%下落する可能性があるのか。
「私たちの生涯で最悪の暴落になるだろう」
デント・リサーチ創設者であり『エコノミー・アンド・マーケッツ』誌編集者であるハリー・デントは、ポッドキャスト『Money Life With Chuck Jaffe』のインタビューの中でこのように述べ、さらに次のように語った。
「前回の世界的バブルは1925年から29年にかけて起きた」。そしてこう続ける。「(バブルは)1世代ごとに起きる。つまり、生涯に1度の90年周期。私たちは、今まさにその時期に差し掛かっている」
デントの予測は、常軌を逸して膨らんだ企業債務、1920年代前半の政策に酷似した何年にもわたる無制限の金融緩和政策、中央銀行の効力低下、人口高齢化、株価や不動産価格の高騰といったマイナス要素を根拠としている。
企業債務は10兆ドルという記録的な規模に膨らんでいる。厳しい不況下に製品への需要が縮小すると、その債務が企業の収益を圧迫すると指摘する専門家は多い。コロナ禍はこの問題を浮き彫りにした。信用格付の格下げや倒産の申請が後を絶たない。
次の図は、歴史的に見て低い近年の借入コストを反映して伸びてきた企業債務を示している。
元ヘッジファンドマネージャーでリアル・ビジョンの創設者でもあるラウル・パル(Raoul Pal)も、長期にわたる企業債務の増加に警告を発している。
パルは投資関連ポッドキャスト『We Study Billionaires』のインタビューの中で、「アメリカをはじめとする世界の債券市場は、莫大な発行額により問題を抱えている」と語っている。「企業債務は2008年から倍増した」
株価のバリュエーションも、2008年の金融危機以来の膨張を見せている。次の表は、これまでの市場水準と現在のバリュエーションを対比している(バンク・オブ・アメリカ)。株価は明らかに割高だ。
S&P500銘柄のバリュエーション - 網掛けの数字は、過去平均と比較して統計的にバリュエーションが高いことを示唆している(2020年8月20日)。
S&P, Compustat, Bloomberg, FactSet/First Call, BofA US Equity & Quant Strategy
懸念要素の中には、長年かけて徐々に積み重なってきたものもあるが、最近になって深刻化したものもある。デントによると、その組み合わせは市場を暴落に向かわせる毒薬のようなものであり、特に新型コロナウイルスは、危険水域に迫るマーケットにとどめを刺す「パーフェクトな引き金」だという。
「これまで何の策も講じてこなかったのだから、2008年から2009年(の金融危機)より深刻な危機が生じるだろう」とデントは言う。「つまり、バブル景気に続き、債務のデレバレッジ(過剰債務の削減)をしなければならない時期が来るということだ。ちょうど1930年代初期に起きたように」
中央銀行が役割を果たしていない
デントによると、米連邦準備銀行(FED)は金融危機の影響に適切に対処しておらず、「われわれが債務の再編など健全性を回復させるためのあらゆる措置を講じる前に、紙幣を発行することで不況からの脱出を図った」と指摘する。
1920年代初頭も、今回と類似した敏感な金融緩和策がお膳立てする格好となって、世界恐慌が起きた。デントはそこに共通項を見出している。
FEDはゼロ金利を導入し、無制限の量的緩和を発表。社債の買い入れを始め、地方債も買い入れると発表した。中央銀行であるFEDの効力は今後薄れていき、市場が最も必要とする時には完全に消滅しているだろうとデントは言う。
「(アメリカの市場は)一度暴落を経験している。FEDはそこから脱するための刺激策を講じ、あらゆる手を打った。しかし、その刺激策はいずれも不十分だ。このままでは制御不能に陥るだろう」
現状に対するデントの見方は、元大学教授のジョン・ハスマンの見解とも類似している。ハスマンは歯に衣着せぬ物言いで知られる投資家としても知られており、やはり株式市場の暴落を予測している。
ハスマンは顧客向け記事にこう記している。「FEDはこれまで、リスクが存在しないかのような不適合な自信を助長してきた。投資家のそうした自信過剰ぶりこそが、彼らを危険に晒しているのだ」
ハスマンは別の記事で、「今の市場周期の終焉に伴い、S&P500がその価値の3分の2を失ったとしても驚くに当たらない」とも述べている。
デントの予測はさらに厳しい。近いうちに市場は「いくら刺激策を講じても、覆水は盆に返らないことに気付くだろう」。そうした背景から、2021年初頭に一層の下落が起きると予想している。
ハスマンもデントも、これまで極めて弱気な市場予測をしてきた。とはいえ、結果はまちまちで、2001年まで日本経済を悩ませた10年不況を正確に言い当てた一方で、アメリカ株式市場が暴落すると数年来予測し続けているが、その規模の暴落はいまだ起きていない。
株式市場は全般的に上昇を続けているが、デントは警告を発し続けている。
「どうなるか分かるだろうか? 私の言う90年周期を当てはめれば、1929年から数えて今がちょうどそのタイミングだ。ひとたび暴落が起きれば、株価の修正は30%や50%では済まない。80%から90%になるだろう」とデントは言う。
そしてこう続ける。「あなたの年齢はさておき、特に30〜40代以上の人は、生きているうちに株価や不動産価格が今の水準に戻ることはないだろう。金融資産のほとんどを失い、元に戻るには長い時間がかかる」
(翻訳・住本時久、編集・野田翔)