IBMはニューヨーク市内9カ所の拠点を統合するため、巨大オフィスを探し始めた。
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- IBMは10月6日、ニューヨークの不動産市場で最大50万平方フィートのオフィス物件を探すための提案依頼書(RFP)を発行した。
- 新型コロナの影響でリース需要が減少し、契約交渉は借り手(テナント)優位で、IBMにとっては賃料の値下げを引き出しやすい状況にある。
- IBMとしては、新オフィスをリースすることで、さまざまな業務にフレキシブルに対応し、ポストコロナの常態となるローテーション勤務も可能になる。
米IBMがニューヨーク市内で50万平方フィート(約4万6500平方メートル、東京ドーム1個分)のオフィス物件を探し始めた。パンデミックでオフィスのあり方を見直す動きが相次ぐなか、フェイスブックやアマゾンなど大手テック企業は逆にオフィス機能の強化に動き出している。
ニューヨーク州ウェストチェスター郡アーモンクのはずれに本社を置くIBMは10月6日、マンハッタンで大型オフィス物件を探すための提案依頼書を発行した。
現在、複合ビル「51アスタープレイス」や超高層ビル「590マディソン・アベニュー」などニューヨーク市内9カ所に散らばる拠点を1カ所にまとめる方針だ。
同社バイスプレジデント(エンタプライズオペレーション・サービス担当)のジョアンヌ・ライトによれば、パンデミック以前と以後の両方のトレンドに対応するオフィスを想定しているという。
大規模オフィスを使っている他の企業と同じように、イベントやクライアント向けのプレゼンテーション、社内ミーティングといったさまざまな業務にフレキシブルに対応でき、ときには特定のプロジェクト向けスペースに転用できるようなスペースをIBMは必要としている。
一方で、コロナショックによって多くの従業員が在宅勤務を余儀なくされた結果、リモートワークはパンデミックの副産物として常態になると予想される。
ライトは次のように語る。
「パンデミックが収束したら、週に2、3日程度という柔軟性を持たせた形でオフィスに復帰したいと考えている従業員が7割以上います。しかし、本当に大事なのは出社する目的で、同僚やクライアントとのコラボレーションやイノベーション、アジャイル開発……いろいろあるでしょう。
だからこそ、新たなオフィスはもっとハイブリッドで、硬直的にならないようにしたいのです。顧客エンゲージメントのために使う日もあれば、イベント会場になる日もある。小さなデザインチームがクリエイティブのために使う日があってもいい」
IBMは新たなオフィスをローテーション(シフト)制で使うことも含めて柔軟に考えており、そのため占有面積はスリム化することもできるという。現在はニューヨーク市内に9カ所計50万平方フィートのオフィスを借りているが、新たなオフィスはそのすべてを吸収するだけでなく、今後のさらなる従業員増にも対応できるという。
なお、ニューヨーク市内に拠点を置いているのは主に、人工知能(AI)システム「ワトソン」とクラウドコンピューティング関連、そのマーケティング部隊だという。
大手IT企業が次々と
フェイスブックが今年8月に賃貸契約を結んだファーリービル。
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どこの従業員も自宅で普段通りのパフォーマンスを発揮できることに気づき、マンハッタンの高層オフィスビルの多くは人もまばらな状態だ。
ところが、とくにテクノロジー分野の企業は、人材採用と生産性向上のツールとしてのオフィスを重視し、その再開に向けて力を入れている。
パンデミックが経済を破壊し、各地でロックダウンが始まった2020年3月後半、アマゾンはマンハッタン五番街の空きオフィスを10億ドル(約1050億円)で購入している。
またフェイスブックは、8月にニューヨーク市内最大のオフィス物件を借りている。マンハッタン西部の歴史的建造物(中央郵便局)「ジェームス・ファーリービル」内のオフィススペースで、面積は73万平方フィート(約6万7800平方メートル)。15年におよぶ長期契約で、期間中の賃料は(先述のアマゾンの物件購入額と同じく)総額10億ドルに達する。
「私たちのクライアントはニューヨークにいる上、ここには優秀な人材がたくさん集まっています」(ジョアンヌ・ライト)
IBMは総合不動産サービス世界大手のクッシュマン・アンド・ウェイクフィールドと契約を結び、新築、既存のビルを問わず、物件を探している。ライトによれば、新たなオフィスを契約し、移転完了するまで最低2年はかかるという。
条件面での優遇を引き出しやすい市況
ニューヨーク・マンハッタンの空撮。商業用不動産市場の停滞が続く。
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先行き不透明な現状のもと、企業はオフィススペースの確保に及び腰で、ニューヨークの商業用不動産市場は停滞が続く。不動産総合サービスCBREの調べでは、2020年1〜8月のマンハッタンにおけるオフィス成約面積は1030万平方フィートで、前年同期に比べてほぼ半分だ。
どんな戦略を持って物件探しをしているのか、それを公然と語る企業はほとんどないが、少なくともIBMには次のような意図があることをライトは認めた。
それはもちろん、テナントが物件オーナー側から割り引きやその他条件面での優遇を引き出しやすい不況期をうまく活用したい、ということだ。
例えば、フェイスブックは先述のファーリービルのオフィス契約について、パンデミック前に交渉済みだった契約金額よりさらに10%近いディスカウントを引き出している。
「IBMとしては、他の企業がこの先どうなるかを見定めているいまだからこそ、率先してニューヨークの未来に投資したいのです。ニューヨークに素晴らしい未来が待ち受けていることは誰もがわかっていますが、(IBMが新たな大型オフィスを置くことで)それを確信に変えたいのです」
(翻訳・編集:川村力)