全世界のTikTokユーザーが「楽天ポイントダンス」を投稿している。
出典:TikTok
ショートムービーアプリ「TikTok」で面白い現象が起きている。
「貯めるならラララ、楽天ポイント~」の歌い出しから始まる「楽天ポイントダンス」が、8月頃から怒涛の勢いで世界中のユーザーに広がり、一大ブームを巻き起こしているのだ。
楽天ポイントダンス関連ハッシュタグ。上位4つの総視聴回数は1億7000万回以上。(10月9日現在)。なお海外ユーザーはハッシュタグを付けないケースが大半の為、実質的な総視聴回数は、それを大きく上回ると思われる。
出典:TikTok
驚くべきは、この現象が企業側の仕掛けや戦略とはまったく無関係に、ユーザーの自発的な発信から自然に広まっていったことだ。
なぜ「楽天ポイントダンス」はこれほどまでTikTokユーザーに愛されるのか?また、どんな経路で海外ユーザーにまでブームが広がったのか?
4年の時を経てTikTokでバズる
お買い物パンダを活用したテレビCMシリーズが起点。
出典:楽天ポイントCMからキャプチャ
ダンスの起点になったのは、2016年に放送開始された「楽天ポイント」のテレビCMだ。楽天の企業キャラクター「お買いものパンダ」がリズミカルに踊る姿が何とも愛らしく、当時放送されていた約2300本のテレビCMの中から「好感度トップ10」に選ばれるなど人気を博した。
それから4年の時を経た2020年8月下旬、国内のTikTokユーザーが、たまたま TikTok上にアップされていた楽天ポイントダンスの音源を見つけ、投稿が始まる(このダンスが国内で広がった理由についてはのちに詳述する)。
経緯をより詳細に追ってみよう。
まず7月末に最初のユーザー投稿が始まる。8月23日に、20万いいねを超えるダンス動画が続出。さらに9月に入ると、ブームに巻き込まれるかたちでインフルエンサーたちが参戦してくる。
9月4日に男性アイドルグループ「ONE N’ ONLY(ワンエンオンリー)」が、「#楽天のお偉いさんに届け」というメッセージとともに動画を放つと、9月10日には370万フォロワーを抱える「内山さん(Uchiyamasun☀)」、翌11日には70万フォロワーの「長草くん[Official]」が続いた。
いずれも40万以上のいいねを獲得し、特に内山さんの投稿には170万以上ものいいねが集まった。
3500万フォロワーのフィリピン出身TikTokerも投稿
全世界3500万のフォロワーを持つBella Poarchさん。
出典:TikTok
海外ユーザーによる「楽天ポイントダンス」動画投稿が活発になったのは、その直後からだった。
決定的だったのは、全世界3500万フォロワー(10月8日現在)を擁する「Bella Poarch」さんの投稿だ。突如投稿された9月15日の動画は530万いいねを集め、ブームをワールドワイドに押し広げた。
フィリピン出身のBella Poarchさんは、いま世界で最も話題になっているTikTokerのひとりだ。TikTokは2020年4月に始めたばかりだが、1日に50万人規模でフォロワーを増やし、8月17日に公開したリップシンクビデオ(口パク動画)は3650万いいね、1億4530万回の再生回数を記録。TikTokで最も視聴された動画といわれている。
さて、BellaPoarchさんはどうやって「楽天ポイントダンス」を知ったのか。
それは彼女が日本のカルチャーを好み、日本の人気TikTokerである内山さんと長草くんをフォローしていたからだ。動画の説明欄に「I tried(やってみた)」とある。内山さんや長草くんの楽天ポイントダンスを観て、自分も早速やってみた、という意味に読める。
こうして世界中から注目を集めるTikTokerが「楽天ポイントダンス」を投稿したことで、その後、海外ユーザーから怒涛の勢いで動画が投稿され、そのムーブメントはいまだに熱が冷めない状態が続いている。
投稿を行う海外の人気ユーザーたち。カッコ内はフォロワー数。左からKadeem Hemmingsさん(180万人)、Juwan Gutierrezさん(540万人)、SushiBAE さん(440万人)、Challanさん(310万人)(いずれも10月8日現在)。
出典:TikTok
10代に刺さる「#全力」動画
コンセプトは「全身全力でいつも一生懸命」。
出典:楽天ポイントCMからキャプチャ
ブームの始まりに話を戻そう。そもそも「楽天ポイントダンス」はなぜ、日本の主要なTikTokユーザー層と言われるZ世代(13歳~25歳)にウケたのか?
そのカギは、起点となった楽天の企業キャラクター「お買いものパンダ」の性質にある。楽天が公開している「お買いものパンダの誕生と成長の物語」によれば、お買いものパンダの性格のコンセプトは「全身全力でいつも一生懸命」。
2016年の放送開始当時のCM制作秘話として、「全身全力でいつも一生懸命」なお買いものパンダを、2次元キャラクターのクオリティを保ったまま3Dで動かすため、「各領域の最高峰の能力と知恵を結集させ、絶対にクオリティに妥協しない意気込みで創り込んだ」と記されている。
実は、「全力」はTikTokユーザーにとっては馴染みのあるコトバだ。ハッシュタグ「#全力」シリーズで、2019年に6億回もの視聴回数を記録した「#全力顔」や、1.5億回の「#全力まるまる」に代表されるように、すでに人気ジャンルとして確立されている。
「#全力顔」6億回、「#全力」3億回、「#全力まるまる」1.5億回の視聴回数と、人気ジャンルの「全力」コンテンツ。
出典:TikTok
「楽天ポイントダンス」は一つひとつの振りも大きく、キャラクターの性格コンセプトが反映された「全身全力で一生懸命に」踊るスタイル。それが「#全力」シリーズを愛する10代のユーザーたちの心を動かしたのではないか。
また振りつけが簡単で、セクシーさを感じさせる「お尻を振る仕草」を自然に取り入れたこのダンスは、「盛れる」という付加価値も加わり、目新しく映ったのかもしれない。
TikTok特有の文化で、ダラけて踊る動画には「全力で踊れ!」と喝を入れるコメントが付くことがある。
逆に、キレキレで(全力で)踊っている動画は視聴回数が伸びる傾向があるようだ。リアルな世界だと公衆の面前で全力で踊るのはけっこう恥ずかしいことだが、TikTokの世界には全力で踊る姿を褒めたたえ合う文化がある。
「楽天ポイントダンス」は、ユーザーの持つ「全力」という価値を最大限に引き出し、表現することを後押しする。企業広告が起点ながら、「全力」を徹底的に追究し、それを高めるために創り込まれたダンスだったからこそ、TikTokの文化と合致し、拡散されたのだろう。
楽天「こだわり抜いて制作した」
世田谷区の二子玉川駅前にある楽天本社クリムゾンハウス。
撮影:伊藤有
さて、TVCMを手がけた楽天の顧客戦略部に話を聞いてみると、TikTokでのブームについては認識しており、「おかげさまで幅広いユーザーに楽しんでいただけるコンテンツとなり、大変うれしく思う」という。
TikTok上での拡散についても「ユーザーがコンテンツそのものを楽しんでいる状況もあり、当初から広告は打たなかった」と認めた。
さらにテレビCMについては「楽曲、歌声、ダンス、3Dの動きなど、すべて一流のクリエイターとクオリティにこだわり抜いて制作した」と語った上で、「そのようなコンテンツは年月国境を超えて人の心を動かすのだとあらためて自信を深めることができた」とバズを振り返った。
このような時間差のバズ現象は、「楽天ポイントダンス」に限った話ではない。
2018年には、1983年に発売されたラッツ&スターの楽曲「め組のひと」がTikTokで大流行。しかもその音源は、倖田來未さんによるカバー・バージョン(それも2011年に発売されたもの)の高速アレンジ……という、複層的な変更が加えられたものだった。
今回の楽天ポイントダンスの場合、同じく時間差のバズながら、企業発信のCM楽曲がネタになった点は注目に値する。
文脈に刺さりさえすれば、良いコンテンツは時と場所を超え、さらに今後はますます「広告と広告でないコンテンツ」の境目が曖昧になっていく。「楽天ポイントダンス」のブームはそれを象徴する現象と言えるのではないか。
(文・西崎圭一、編集・西山里緒)