企業が今果たすべき、社会的責任とは何か?(写真右はセールスフォースのLGBTQへの平等な社会づくりを目指した活動を推進する社員コミュニティ「アウトフォース」メンバーの岡林薫さん)
画像:Google Meet画面
レズビアンやゲイが法律で守られれば、足立区は滅んでしまう —— 。
9月25日の足立区議会で、白石正輝議員が「レズビアンやゲイが広がってしまったら、足立区は滅んでしまう」と発言したことに対し、強い批判の声が寄せられている。
同発言は区議会の一般質問で、少子高齢化に関連して言及したものだが、自民党は「性的指向・性自認に関する特命委員会」で、同性婚と少子化に相関関係はないことを明らかにしている。区議から発言の撤回や謝罪はない。
この発言に対し、SNSでは「#私たちはここにいる」のキャッチコピーで、レズビアンやゲイ当事者を含む多くの人たちが投稿し、大きなムーブメントになっている。
日本では、企業や経営者が政治的な発言をしたり、社会的な課題に積極的に関わることは少ない。一方、アメリカではすでに、企業が差別に対して「断固反対」の姿勢を示すことが当たり前になってきている。
200以上のテック企業が「差別に反対する」
サンフランシスコのプライドパレードでは、企業や著名人も多く参加している(写真は2019年のもの)。
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足立区議の発言は、日本に未だに残る性的マイノティ差別の問題を浮き彫りにした。
日本では企業が差別に対してアクションを取ることはまだ少ないが、アメリカではこうした差別に対して企業が声をあげる動きが盛んになっている。
2019年8月には、アマゾンやデル、ナイキなどを含めた企業200社が、最高裁判所に対して性的指向やジェンダーアイデンティティーによる職業差別を国家レベルで禁止するよう求めた。
企業の政治参加によって法案が修正される流れもできつつある。2015年、アメリカのインディアナ州で、顧客の性的指向を理由に、事業者がサービス提供を拒否することを認める法案が可決された。
その際にはアップル、セールスフォース、ウォルマートなど米国の大手企業が事業のボイコットに乗り出した。なお、当時のインディアナ州知事は、現在アメリカの副大統領を務めるマイク・ペンス氏(共和党)だった。
さらにこの動きが顕著だったのが、Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)運動だ。2020年5月、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが警察官の不適切な拘束方法によって死亡させられたことに端を発して広まったこの運動は、アメリカ中の企業を巻き込んで広がった。
最終的に、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)を含む、実に200以上の大企業のCEOらがBlack Lives Matter運動に対して公式に支持を表明する声明を発表した(The Plugの調査より)。
Z世代の7割が、企業の社会貢献を期待
企業の社会貢献への期待は、特に若い世代の間で高い。
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企業も社会問題から無関係ではいられない —— 。アメリカでその傾向が強まっていることの背景には、消費者の価値観の変化がある。
企業の社会的責任についてのコンサルティング会社「Corporate Citizenship」の調査(2016)によると、ミレニアル世代(1980年生まれから1996年生まれの世代)の 8割以上が、国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)を達成する上で企業が重要な役割を果たしていると考えていることという。
また、FacebookがZ世代(この調査では1996年から2002年生まれの世代)を対象に実施した調査(2018年)では、約7割がブランドが社会に貢献することを期待しているとの結果も出ている。
日本でもこの動きは加速している。電通が1万5000人を対象に、2019年に実施した「2019年度 ESG/SDGsに関する意識調査」によると、投資をする際に、6割以上が社会責任投資(ESG投資)を重要視する、と回答した。
また、ESG(Environment、Social、Governanceの頭文字)やSDGs(国連によって定められた「持続的な開発目標」)の認知度は、20代から30代の男性が多かった。
ビジネスと社会貢献を両立させる「1-1-1モデル」
セールスフォース創業者のマーク・ベニオフ氏は、著名なフィランソロピスト(慈善活動家)としても知られている。
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「企業が社会貢献することを期待する」消費者のニーズが高まる中、社員によるフィランソロピー活動を積極的に推進する企業も注目されている。
例えば、顧客情報管理システム(CRM)大手のセールスフォース・ドットコムは、就業時間の1%、株式の1%、製品の1%を社会貢献のために使うという制度「1-1-1モデル」を導入している。
このモデルは、セールスフォース社が創業間もなくの2000年から実施しているもので、もともと社会貢献への強いこだわりがあった創業者のマーク・ベニオフ氏が「企業のフィランソロピー活動の最も新しくシンプルなモデル」として採用した経緯がある。
なおベニオフ氏は、前述の「反LGBT法案」が可決されそうになった時真っ先にインディアナ州のビジネス・ボイコットを表明したことでも知られる。
「1-1-1モデル」から生まれたのが、性的指向や性自認に対して平等な社会づくりを目指した活動を推進する社員コミュニティ「Outforce(アウトフォース)」だ。
セールスフォース社員の自発的な活動「アウトフォース」活動。
出典:セールスフォース
アウトフォースには、現在400人超の社員が参加しており、東京レインボープライド(TRP)のほか、日本における同性婚訴訟のトークセッションなど、LGBTQへの理解促進向上に向け、社内セミナーやワークショップを開催している。
「きっかけは『1-1-1制度でボランティア活動の時間をつけたいから』という、少しずれている理由の人もいるかもしれません。でもそれでいいんです。まずは入ってみることで当事者の方とつながって、そうした社会課題に興味を持つこともできる。(1-1-1制度には)気づける仕組みができていると思うのです」(専務執行役員セールスエンジニアリング統括本部長の森田青志さん)
企業も差別に黙らない
前出の専務執行役員、森田さんは、あくまでアウトフォース活動は社員による自主的な取り組みだとはしつつも、企業としてこうした活動を発信することでのサービスへのポジティブな影響を指摘する。
「私自身、セールスフォースの製品を買ってください、という会話の前に、アウトフォースの取り組みなどについての話をすることがありますが、ここ最近で(社会課題の話題に関する)関心の高まりを感じています。『こういう会社とお付き合いすることが社会的使命だ』と感じてもらえるようになってきているのかな、と」
現在アウトフォースのリーダーを務め、セールスフォースでグローバル・オンボーディング(入社時研修)を担当する岡林薫さんは、15歳の時からレズビアンであることをカミングアウトしている。
入社のきっかけも、前職の上司から、同社のLGBTQ支援への取り組みを聞いたことが始まりだったという。
「仕事の他に、自分が情熱を持って取り組めることが会社の中でできるのなら、こんなに素晴らしいことはないなと思ったんです。セールスフォースが公開している動画などをみて『この会社、全然違うな』と思いましたね」
日本では、企業が差別などに対して具体的なアクションを取るケースはほとんど見られない。もしも日本の自治体で、LGBTQを差別する法案が通りそうになったら、という質問に対し、森田さんはこう語る。
「実行するかは別として、CEOの小出(伸一氏)がマーク・ベニオフに(ビジネス・ボイコットをすることの)インパクトとリスクを伝える可能性はあると思います。(企業として)差別に対して、黙っていることはないと思いますね」
(文・西山里緒)