ミライノツクリテたちに聞く「28歳の自分に今声をかけるとしたら」。ベースフードCEOの橋本舜さん(32)のメッセージとは。
28歳という年齢は、僕がDeNAを辞めて起業した年齢です。
ベースフードという事業を始めたことに希望を持ちながらも、「これでいいんだろうか。もっとやるべき事業はなかったか」と迷いもあった頃。
「それでよかったんだよ。いい決断をしているぞ」と、当時の僕には言ってあげたいですね。
なぜよかったかというと、ベースフードという事業を通じて、僕はたくさんの人と出会えたからです。
食産業は裾野が広い産業で、起業してから4年経つ間に、老若男女、幅広い業界の人とのつながりが生まれました。IT企業にいた時には決して出会えなかったシニアの経営者や、物流や食品加工の会社とパートナーシップを組んだり。世界を見渡す視野が格段に広がったと感じます。
人類共通のテーマである「食」について、四六時中考え続ける事業へ踏み込んだことは、自分自身の成長のためにもいい決断でした。
成長の起点をどこでつくるかは自分で決めること
主食をイノベーションすることで、健康を当たり前に。橋本は目指した世界に一歩ずつ近づいている。
なんて今でこそ言えますが、当時は「会社を辞めてしまったからには、早く結果を出さなければ」と、焦る気持ちもありました。
早々と起業して成功している他人を羨ましく思ったり、「永遠に試作を続けて、完成しなかったらどうしよう」と不安に駆られたりすることもありました。だからこそ、執念のように自分を追い込んで、ストイックに開発できたのだと思います。
28歳は、しがらみなく挑戦できる年齢であることに間違いありません。
もちろん、その後にも挑戦できるタイミングは巡ってくると思いますが、若くて身軽な年齢のほうが思い切れる可能性は高い。
もしも「今だ」と感じた時には、一気に変化を自分で起こすことが重要だと思います。
僕のイメージですが、人間の成長は一直線ではなく、ある起点から急に跳ね上がる。その変化の起点をどこでつくるかは、自分自身で決めることなんですよね。
いつまでも決めなければ、いつまでも皆と同じ。「皆と同じでいい」と甘んじることは、リスクになる時代だから、自分自身のアクセルをどこで踏むかはいつも意識したほうがいい。
意味のないチャレンジをする必要はない
ただし、誤解してほしくないことが一つあります。
誰でもむやみにチャレンジすればいいというわけではないと、僕は思っているんです。
もしも、今の日常の連続の中で取り組んでいることに「意味がある」と信じられるのであれば、そこから飛び出す必要はないし、そのままでいい。「意味のないチャレンジ」をするのはナンセンスですよね。
チャレンジはあくまで目的のための行動であって、意味ある目的を見出せないなら、無理してチャレンジしなくたっていい。
僕のような起業家がメディアで取り上げられるたび、「チャレンジしなきゃ」と焦る人を生んでいたら申し訳ないなと、いつも気になってきました。
重要なのは、今取り組んでいることに意味を感じられるか。
意味を感じられることであれば、ずっと諦めずに続けられるはずだし、自然と仲間も集まってくると思います。
麺とパン、と言う誰もが気軽に食べられる形であることが日常的に取り入れやすい。
僕はベースフードという事業に人類全員を幸せにできるくらいの意味を感じられるから、挑戦を続けていきます。
若手や女性が活躍する会社に育ってきたことも、僕の誇りです。そんなスタートアップが結果を出せたら、希望を感じてくれる人はきっといるんじゃないかとも思うんです。会社の成長が社会のためになると信じられるから、頑張れます。
健康が当たり前になる社会の達成。それが可能な技術や環境がある時代を生きている。
だから、僕はそれを成し遂げる決意で、未来へ進んでいきます。
(敬称略、完)
(文・宮本恵理子、写真・伊藤圭)
宮本恵理子:1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社し、「日経WOMAN」などを担当。2009年末にフリーランスに。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。