米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下で、日本のホンダやソフトバンクも出資する自動運転開発会社「Cruise(クルーズ)」の試験運転車両。
Cruise
- 完全自動運転車の開発は、今日最も困難な技術的課題のひとつだ。
- 自動運転車は、公道を走る他の車両や歩行者の挙動など、周囲で次々と起こる出来事にミリ秒単位で反応できる必要がある。
- 米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下で、評価額190億ドルの自動運転開発会社クルーズ(Cruise)は、車載人工知能(AI)のアルゴリズム精度を上げるため、「継続学習マシン(CLM)」を活用している。
- 200台の公道試験車両から集まってくる情報の多くは、典型的な運転行動に関するものばかりだが、実はその究極の狙いは「干し草の山にまぎれ込んだ針」ほどの通常想定しがたいケースにめぐり合うことだ。
クルーズは日ごろから、公道試験を目的とする自動運転車200台を、米西海岸サンフランシスコの街なかで走らせている。道路状況や歩行者の挙動、他の一般者のドライバーの運転行動に関するデータを集めるのが目的だ。
走行するのはそれぞれ1日数時間、運転席には人間のドライバーが乗り込み、制御はほとんど自動で行われる。
車体に搭載された40個の独立したセンサーが集めたデータは「コンティニュアス・ラーニング・マシン(CLM、継続学習マシン)」に送られ、自動でラベル分けされる。これはクルーズのあらゆるAIモデルにとって重要なデータソースとなる。
クルーズの核心を支えるのは、それぞれ「認識」「予測」「計画」を司る3種類のソフトウェアだ。
「認識」は、自動運転システムの“目”にあたり、ある物体がクルマなのか人間なのか、それとも別の何かなのかを特定する。「予測」は、そうした物体が次にどんな動きをするのかを見抜く。「計画」は、それらの情報を組み合わせ、自車がどう動くかを判断する。
これらすべてのソフトウェアは、試験車両から集まってくる最新のデータを反映させて自動運転システムをアップデートしてくれるCLMによって強化される。
クルーズの開発に携わるシニアマネージャーのシーン・ハリスとプリンシパルリサーチサイエンティストの賈兆印(ジア・ジャオイン)は、上記の技術の完成に向けた同社の戦略が垣間見える貴重な情報を提供してくれた。
完全自動運転の実現に向けて「到達度80%は超えた」
GMが2020年1月にお披露目したライドシェアリング用自動運転車「クルーズオリジン(Cruise Origin)」。
Cruise
ハリスによると、道路交通上の標準的なルールに従うようマシンをプログラミングするという面では、完全自動運転の実現に向けた到達度はすでに80%まできているという。
しかし、公道で自動運転車を走らせるのに、80%は十分な数字とは到底言えない。
「継続学習マシン(CLM)はこの80%のソリューションを99〜100%に引き上げるのが役割で、ここまで十分に役目を果たしてきました」(ハリス)
瞬時の判断で標準的なルールに違反するドライバーもいる。例えば、目の前のクルマが左折のウィンカーを出しておきながら右折したとき、マシンがすぐに反応できなかったら大惨事が待ち受けているのは明らかだ。
だからこそ、(サンフランシスコ内を巡回する試験車両から次々と)集まってくるデータが必要になる。
ほかのクルマが突然車線変更するとか、交差点で信号機が故障(消灯)しているとか、「干し草の山にまぎれ込んだ針」のようなほとんど想定しがたい状況に備えてシステムをトレーニングする際、試験走行車からのデータが役立つのだ。
そうした不運な出来事が起きると、(そうしたケースではフロントシートに座る人間が操作せねばならなくなることが多いが)CLMはそこで得られたデータをもとに即座にトレーニングを行ってモデルの改善を図る。運転席に人間を必要としない完全自動運転の実現には、そうしたプロセスが必要不可欠だ。
「試験車両の走行中に何か問題が起きたとき、それは常に(システム改善の)有用な事例となります。たとえそれがちょっとした問題だったとしても」(ハリス)
サンフランシスコはそうしたデータを収集するのに最適の場所というわけだ。2019年、クルーズの試験運転車両は合計83万1040マイル(約134万キロメートル)を走破している。
クルーズによれば、グーグルがウェイモ(Waymo)の試験走行を実施しているアリゾナ州フェニックスの郊外のような他の自動運転試験サイトと比較して、サンフランシスコは最大で46倍、困難な状況に遭遇する確率が高いのだという。
クルーズの試験車両がサンフランシスコ市内で予期しない出来事に遭遇したケース。
Cruise
実際、サンフランシスコ・ベイエリアでの1分間の試験走行は、フェニックスなど他都市の郊外で1時間試験するのと同等で、その要因としては、自転車に乗っている人に遭遇する確率が16倍高いこと、建造物の密集度が高いことなどが挙げられる。
「我々は公道上で人間以上のパフォーマンスを実現しようと取り組んでいます。想定できないような不足の事態に対応しようとすれば、試験走行を積み重ね、頑強なモデルを築き上げるしかないのです」(ジア)
実は、クルーズは立ち上げ初期、機械学習をそれほど重視していなかった。CLMがクルーズの核心を占めるようになったのはここ2年間の話にすぎない。しかし、その2年間こそがテクノロジーの発展と成長に大きなインパクトをもたらした。
何と言っても大きかったのは、公道上のほかの車両が通常想定されるのと異なる挙動を見せる特殊な事例(のデータ)を確実に積み重ねていく上で、CLMが大いに役立ったことだ。
「継続学習マシンは、自動運転車が走行する際、滅多には起きないけれども非常に重要な状況にどう対処するのか、あるいは、さまざまな分野におよぶ問題に対して機械学習ソリューションをどう適用していくのかを考えるための、われわれなりのアプローチなのです」(ハリス)
(翻訳・編集:川村力)