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【新連載・山口周の“思考のコンパス”を手に入れる】北野唯我と語る、グルを見つけないと進めないビジネスパーソンたち

「もはや地図は役に立たない。今、必要なのは地図ではなく、コンパス(方位磁石)」——。独立研究者の山口周さんはそう語ります。仕事、そして人生。時代の“先”がより見えづらくなっているからこそ、多くの人は、迷わないための“地図”を欲します。しかし、今は地形が変わるかのような変化の激しい時代。何が正しいゴールなのか。ますます誰にも予測がつかなくなってきました。

「地図を手に入れても、すぐに古くなり、使い物にならなくなる。でも、真北を常に指すコンパスさえあれば、どんな変化にも惑わされず、自分の選択に迷うこともない」。そんな山口さんとさまざまな分野の識者が対話。自分の“思考のコンパス”を手に入れ、迷ったときに一歩を踏み出すためのヒントをお届けします。

第1回目の対談相手は、採用クラウドサービスのワンキャリア取締役で「職業人生の設計」に関する専門家としても活動する北野唯我さん。前後編2回の前編では、コロナを経てこれからの生き方、働き方で大事な感覚とは何か?をお話しいただきます。


—— 北野さんの最新刊タイトルはズバリ『これからの生き方。』です。コロナもあって、まさにこれからどう生きればいいのか。どう働くべきなのか。迷っている人も多いと思います。山口さんはこのタイトル、内容、読んでどう感じられましたか?

山口周氏(以下、山口):唯我くんと僕はキャリアが似ています。僕は電通、唯我くんは博報堂と最初は広告代理店に入って、その後「ここ相当やべえな」と思って(笑)、とりあえずモラトリアムで外資系戦略コンサルに転職して、と。いわゆるありがちなキャリアというか、傍目から見ると、正直、僕らって典型的なイタいキャリアの人だよね。

北野唯我氏(以下、北野):本当そうですよ。イタい人ですよ。

山口:それなりに楽しく働けるのだけど「なんかちょっとここも違うな」と感じ、僕は外資を辞めるまで正直10年近くかかった。でも、唯我くんは見切りが早かったね。こういう違和感とか「ちょっとおかしいんじゃない?」という微妙な感覚に素直であることは、今まで以上に重要になるかなとは思います。

『これからの生き方。』でも仕事や組織に感じる違和感について言及しているけど、唯我くんも、そもそも違和感を大事にして「一人ひとりが、もっとイキイキ働けるようになることが大事」と前から言っている。どうすればそれができるか。方法にもいつも細かく踏み込む。そこにこだわるのは、なぜ?

北野:違和感に敏感になったり、見切りを早くしたりもそうですけど、それって結局「自分の感性をどうやって資本市場の中で武器に変えるか」ということですよね。

似たテーマで、同調圧力に負けず、自分の感性を大事にしようといった内容の本はすでにあります。面白いし、読むと心が救われる。でも、資本市場にのっとった話にはなっていない。

一方で現代では、ほとんどの人は会社組織とか資本市場の中でどうやって、自分の感じたことをお金にするか、武器にするかにこそ悩んでいる。だから、僕はそこをもっと追求したいんです。

山口:なるほどね。

北野:あと、多くの人は仕事・職場で成功したいとは思うでしょうが、「有名になりたい」訳ではない。「一目置かれたい」と思っているんじゃないか。

一目置かれる人とは、まさに自分の感性をお金を稼ぐ力に変えている人だと思うんですが、重要なのはどうしたらそういう人間になれるのか。方法を教えてくれるメンターをみんながすごく求めているということ。

だから、方法論にこだわるし、今回の本もわざわざAという登場人物に対してB、Bに対してC、Cに対してDとメンターとなる人物を細かくつける構成にしました。

山口:メンターね。でも、それって、ある種のグル(尊師)願望だよね? 問題もはらんでいる。人によって、グルを求める気持ちの強さが違うから、うまく問題として世の中で認識されていないけど。ジャズ界で言うと、ジョン・コルトレーンとマイルス・デイビスの違いみたいなもので。

北野:というと?

グルを見つけないと進めないビジネスパーソン

山口周の思考のコンパス

山口:この2人は同い年でともにジャズの巨人と言われている。ジョン・コルトレーンは、自分の音楽や技術にずっと満足できなくてグルを永遠に探し求めていた人。かたや、マイルス・デイヴィスは「自分が帝王」になりたい人だから、グルを求める気持ちは恐らく全然なかった。

今の人はおおむね、コルトレーン型。みんな何かしらの師匠筋を求めがち。これ、どうしてこうならざるを得ないのかな。ある程度、大人になると「グルとかロールモデル、メンターを求める気持ちが全然分からない」という人もそれなりにいるけど。

北野:僕はむしろ、グルやメンターは今のビジネスパーソンの年代問わずの切実なニーズだと思うんですよ。

ここ数年のビジネス書ブームなんて、まさにその「グルを求める、みんなの気持ち」の表れじゃないですか? ビジネス・アイコンブームは、NewsPicksのようなメディアがカリスマを幻想的に定義するという流れを作ってきた。でも、このブームはそもそものニーズがすごくあったと思う。

大企業に勤めていても、10年20年上の先輩や経営者に対してどうも憧れきれない。「この人についていっていいのかな。ついていってもなんか、俺が40歳ぐらいになったときには食べていけなさそう」みたいな。

山口さんがよく批判している会議好きのおじさんとか、昭和の価値観を持っているパワハラタイプで一見こわもての人たちですら、「誰に師事すればいいの?」みたいになっている。気を抜くとハラスメントを問われるなど、これまでの方法では仕事がどんどんできなくなっていますからね。

大人も大人で困っている。だからこそ、幻想としてのメンターとかグルみたいなものをみんなが求めているんじゃないか。若い人だけじゃなく、ビジネスパーソン全体の悩みであり、課題でもあるんじゃないでしょうか。

山口:確かに。一方で茂木健一郎さんなんかがよく言っているのは、いわゆるビジネス・サロンとかで集まって、崇拝しちゃうやつね。これ、脳科学的にいうと極めて危険な状況らしい。要するに、自分で考えなくなってくるから。「グルが言うことだったら全部正しい」と、脳をハックされている状態になっている。

アイコン化しているビジネスリーダー自身は彼らの個性で戦っているだけだから、別に悪いことをしている訳じゃない。「グルを見つけないと前に進めない」という人が多いことが、今の時代の難しさということになるのかな。

北野:まさに、そうだと思います。で、すみません。実は、僕、最近その問題のビジネスサロンを始めまして………(笑)

山口:そうなの? え? じゃあ、グルになってしまった?

北野:ならないように気をつけてはいます(笑)。学生時代の、僕の昔を知っている友人にわざわざサロンに入ってもらって、監視役をしてもらったり。グルになりたいのではなくて、友達を増やす感覚なんですよ。

本来大切なのはグルその人ではなくて、その教えなんじゃないかなとも思います。僕、禅がめっちゃ好きで、特にブッダが亡くなるときのエピソードが好きなんです。ブッダが死ぬ直前に弟子たちが「ブッダさん、私たち、これからどうすればいいんですか!?」って聞くんですよ。そのときにブッダが、法灯明(ほうとうみょう)と自灯明(じとうみょう)について説く。

山口:法灯明と自灯明? どういう意味なの?

北野:法灯明は、法つまり教えを灯火のようにして生きなさいということ。ブッダが「私のことを崇拝する必要はなくて、私の教えを灯明のようにして生きていきなさい」と言う。自灯明は、自らを灯明とする教えで「他を頼らず、自分の足元を照らす、その灯明に基づいて生きていきなさい」ということを説く。ブッダ、マジすげえなと!

山口:なるほど。スティーブ・ジョブスがいいグルだったかはともかく、彼も後継のティム・クックに死ぬ直前「スティーブだったら、どうするかなんてことは考えるな」と言い残している。

北野:ブッダの時代から「私のことなど忘れなさい」みたいなことをグル的な人は常に言うんですよね。「私じゃなくて、私が教えたことを大事にしていきなさい」と諭す。

こういうエピソードを聞くと、世の中がこれからどうなるかという大きな影響図まではグルといえども教えられない。でも、もう少し手前のルールなどは常にみんな知りたいんだなと思いました。山口さん自身は、グルを必要とするタイプ?

山口:僕はグルとかメンターとかいらないタイプ。グルになりたいタイプでもない。自分がグルになるような大した人間じゃないということはよく分かっているつもりなので。あと、グルとか面倒だから。

北野:でも、本を書く人、ある種の概念を語る人はグル化しやすいと思いますよ? グル化しないよう気をつけていることは?

山口:あえていうなら、僕という人があまり前面に出ないように気をつけてはいます。

—— 逆に言うと、その人個人が前面に出てしまっている人はグルとして危ないということでしょうか?

山口:そうね。グルとかメンター、ロールモデルを求めることの危うさは、これから先の働き方や生き方をどうするかを考えるときに大事なことの一つだけど、これって、結局、「なぜキリスト教(プロテスタントなど)やユダヤ教で偶像崇拝が禁じられているのか」に通じる話だと思う。

北野:どういうことですか?

偶像化すると、本質が変わってしまう

思考のコンパス

山口:キリスト教(プロテスタント)、ユダヤ教、イスラム教もそうですけど、やっちゃいけないことの一つに「偶像を作って拝む」があります。モーセの十戒ですね。異教の排除のために戒めにしているなど解釈はいろいろあるけれど、例えばプロテスタントなどでも2番目にくる戒めになっているなんだよね。その次に「人を殺しちゃいけない」がくる。殺人より偶像を拝む方が罪が重いんですよ。

北野:グル化も“偶像化”だから、グル願望がなぜいけないかに通じるということですか? 面白い。

山口:なぜそこまでして、歴代のグルたちが嫌がったのか。これはね、グルは現地化する段階で、その本質が変化してしまうからじゃない? 自然は必ず変化するけど、教えという情報は変化しない。

ロゼッタストーンは5000年前に書かれたのに、今でも同じ情報が読める。もちろん、いろんな人の手を経た情報は変わってしまう部分はあるけれども。偶像を作って物資化して拝むようになると、必ず、本質が変わっちゃう。

物質化すると物質は必ず滅んだり、痛んだり、変化してうまく伝わらない。だから、偶像化は絶対ダメ。このルールを守れとか、こういうことは大事とせっかく言ったものまでも変容してしまう。だから、個人を偶像化つまり物質化すると絶対に失敗する。今の時代だったら、ブッダは「必ずテキストに立ち返れ」とか言ったんじゃないかな。僕の解釈ですけれど。

北野:へええ。面白いですね!

山口:そもそもブッダって、文字すら信じなかった人なんじゃない? あの人、自分では文字を残さなかったよね。ソクラテスもそう。弟子のプラトンが「ソクラテスはこう言っていた」と書いただけ。孔子もそう。イエスもそういう意味で言うと、文字を残してない。センターにいる人は文字を残さない。文字にして残したのは、弟子のプラトンであり、孔子の弟子たちであり、イエスの弟子たち。

唯我くんの本の話に戻るけど、唯我くんの本の登場人物たちもいろいろと変容していく様子が描かれている。この本の主人公って、すごい真面目な子だよね。ある種、古い価値観に縛られている。「呪われてるな」と僕は思った。

北野:おっしゃる通り。山口さんも一緒だと思いますけど、僕は『転職の思考法』から共通して持っている自分のテーマの一つが、ビジネスパーソンが悪気もなく引き継いでしまった昭和の呪いみたいなものをどうやって解くか、なんです。

山口:僕もこれから昭和の時代に作られた常識が、いかにいろいろな意味でこの国や社会に悪さをしてるかということを一つ一つ上げていこうと思っています。

最近、近内悠太さんが初めての著作『世界は贈与でできている』で「呪いとは自分の行動や思考に制約をかけてしまうものの総称。だから僕らはしばしば自分で自分に呪いをかけてしまう」といった意味のことを言っているけど、やっぱりこの主人公って、出世とか成功とかいろんな呪いがかかってますよね?

北野:そう。それで今、特に仕事や生き方を考えるうえで大事な感覚として抜け落ちているものがあると僕は思うんですよ。

(後編に続く)

(文/構成・三木いずみ、写真・伊藤圭、デザイン・星野美緒)

山口周:独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。World Economic Forum Global Future Council メンバー。1970年生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了後、電通、ボストン・コンサルティング・グループなどで経営戦略策定、組織開発に従事した。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識』を鍛えるのか』『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』など。東京に生まれ育つが、現在は神奈川県葉山町に在住。

北野唯我:採用クラウドサービスの株式会社ワンキャリアの取締役・著述家。1987年生まれ。神戸大学経営学部卒業後、博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、ワンキャリアに参画。人事・戦略・広報を統括。「職業人生の設計」の専門家としても活動している。著書に『転職の思考法』『天才を殺す凡人』『これからの生き方。』など。

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