タイの首都バンコクにある「サイアム高島屋」店舗。海外事業に限らず、コロナ禍からの回復見通しが立たない状況だ。
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高島屋が2021年2月期の上半期(3〜8月)連結業績を発表した。
売上高に相当する営業収益は2974億円(前期比34.4%減)。第1四半期に引き続き今回の第2四半期でも新型コロナウイルス感染拡大にともなう店舗休業関連の特別損失を計上(計103億円)し、営業赤字102億円、純損失233億円だった。
高島屋の2021年2月期上半期(3〜8月)連結業績。
出典:高島屋 2021年2月期第2四半期決算説明会資料
パンデミックの収束時期のメドが立たない、高島屋に限らず百貨店のほとんどが苦戦を強いられており、今回の厳しい業績は大方の予想どおりだ。
あえて言えば、2020年3月に設立(クレジットと保険子会社を合併)した高島屋ファイナンシャル・パートナーズが、施設休業の影響で減収減益となり、「成長分野と位置づけ」(第2四半期決算短信)たその出鼻をくじかれたのは痛い。
高島屋の2021年2月期上半期(3〜8月)国内グループ事業の業績。中段に金融事業の業績。
出典:高島屋 2021年2月期第2四半期決算説明会資料
専門家から「百貨店ではなくもはや金融会社」と言われる丸井グループが、2021年3月期第1四半期(4〜6月)に営業増益を達成したのとは(ビジネスモデルが根本的に異なるとはいえ)対照的だ。
参考まで、丸井グループが2020年8月に発表した2021年3月期第1四半期(4〜6月)決算概要より、金融(フィンテック)事業の業績。なお、同社の第2四半期決算発表は11月12日に予定されている。
出典:丸井グループ 2021年3月期 第1四半期決算概要
高島屋は前回決算発表時に「保留」としていた2021年2月期の通期業績見通しも発表。営業収益を6820億円、営業赤字は180億円。結果として365億円の最終赤字になるとした。2020年2月期は160億円の最終黒字だった。
高島屋の2021年2月期通期業績見通し。
出典:高島屋 2021年2月期第2四半期決算説明会資料
また、先述のように「成長分野」に位置づけた高島屋ファイナンシャル・パートナーズは通期でも減収減益を見込んでいる
高島屋の2021年2月期通期業績見通しのうち、国内子会社の計画値。
出典:高島屋 2021年2月期第2四半期決算説明会資料
「ネットビジネス売り上げ倍増」は可能?
高島屋の考える「コロナ禍における経営課題」。ここまであからさまに危機感を言語化した説明資料はあまり見ないが……。
出典:高島屋 2021年2月期第2四半期決算説明会資料
高島屋の危機感を強く感じたのが、業績と同時に公表された「コロナ禍における経営課題」と「グループ総合戦略」だ。
経営課題としては、「ブランド価値の源泉である国内百貨店の収益力がさらに低下」「2021年度以降も売上回復度合により営業赤字リスク」と、見慣れない厳しい現状を示す言葉が並んだ。
その対策として、ショッピングセンターを中心とした面的な街開発や、国内百貨店のアパレル再構築などが挙げられたが、なかでも大胆なシフトと感じたのが「ネットビジネス(EC)」の売り上げ目標だ。
高島屋の2023年までの「ネットビジネス売上目標」。第1四半期(3〜5月)決算説明会の時点ではなかった右肩上がりの野心的グラフ。赤は自社オンラインストアでの売り上げを示す。
出典:高島屋 2021年2月期第2四半期決算説明会資料
2020年度は270億円の計画だが、2023年度までの3年強でほぼ倍増となる「500億円」を目指すという。
それを実現する方策として、高島屋は「営業力強化や収益性改善、事業拡大体制構築」(決算説明会資料)とするが、入念に練られた戦略とまでは言えないだろう。
政府が緊急事態宣言を発令した直後(2020年4月13日)だった2020年2月期の通期決算発表では、質疑応答のなかで、経営陣からネットビジネスについて以下のような発言があった。
Q:コロナ収束後、百貨店としてどのような営業対策をしていくのか?
A:以前から、ECビジネスは伸びてきており、コロナに関係なく、事業の大きな柱にできるように体制を整えたい。
Q:コロナはECで取り扱う商品群やブランドを増やすチャンスではないか。
A:特選ブランドについては、先方のブランド戦略もあるので当社のオンラインストアで展開するのは難しい。化粧品については日本国内での免税売上の減少の一方で、海外のECにシフトしているという話も聞く。化粧品は可能性があるかもしれない。
3年間で売り上げ倍増という今回公表の計画は、コロナを追い風に世界的にECが伸びている一般的な状況を背景としたもので、今後激化するEC市場で具体的勝算がある目標、という段階ではないのではないか。
中小企業もこぞってECプラットフォームを活用したビジネスに乗り出すなか、テキスト上は危機感に満ちた今回の決算発表が、本当に具体的な生き残り策へと昇華していくのか、今後も注視したい。
(文:川村力)