「iPhone 12 Pro」がカメラを先鋭化“する必要があった”理由…本当の意味で「Pro」の作り込みをするアップル

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iPhone 12 Pro。アップルのAR機能でデスクスペースのリアルな風景に重ねたところ。

編集部

アップルが新iPhoneを発表した。

ここ数年同社は、新機種を「スタンダード1モデル」「ハイエンドでサイズ違い2モデル」という形を採ってきたが、今年は「スタンダードでサイズ違い2モデル」「ハイエンドとさらに大きなサイズのフラッグシップ」に変えた。

2018年以降、スタンダードモデルとProで差をつけるのがアップルの戦略だったが、2020年はより「Proはプロやこだわりのある人向け」という色彩が強くなった。

それはどういうことなのか? 発表会で公開された内容から考えてみよう。

「iPhone 12世代」ではスタンダードモデルの存在感が強い

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iPhone 12 Proのカラーバリエーション。鏡面仕上げは従来のProもそうだったが、エッジを効かせたことでより輝く印象を強調しているようにもみえる。

出典:アップル

iPhoneには明確な「ハード開発の戦略」がある。もう、iPhone登場から13年、ずっと続いてきたものだ。

それは、「可能な限り、同じ設計からバリエーションを広げる」ということだ。使うプロセッサーを統一し、搭載する通信規格を統一し、インカメラなども同じものにする。もちろん、ソフト開発は自社で一貫して進める。

対応通信規格や搭載プロセッサーなどで細かくバリエーションを作り、ニーズを満たす選択をする他社とはずいぶん違う。今回も、「新プロセッサーのA14 Bionic採用」「5G対応」「ワイヤレス充電のMagSafe搭載」といった部分はきれいに同じだ。

そのため、スタンダードモデルとProで「どちらを選ぶのが、よりクレバーな選択なのか」ということがポイントになる。

iPhone 12世代の場合、発表内容を見る限りは、「スタンダードの方が有利」だ。

2019年までは、スタンダードモデルとProではディスプレイがまったく違った。スタンダードモデルは液晶を使っており、さらに解像度も1ランク低くなっていたからだ。「それでも十分」という人は多かったろうが、差があったのは事実だ。

けれども今年は、「iPhone 12」でも有機ELに変わり、サイズ・解像度・コントラストともに「iPhone 12 Pro」と同じになっている。輝度はProの方が上だが……。

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iPhone 12では液晶モデルがなくなり、全モデルが有機ELに。Proとの差がまた一つ減った。

出典:アップル

「5Gのハイエンドスマホが欲しい」だけなら、iPhone 12もしくはminiで十分という状況。例年以上にProを選ぶユーザーは「明確にProを選ぶ理由」が必要になっている。

「iPhone 12 Pro」の真価はLiDARのカメラ活用にあり

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iPhone 12もカメラは旧機種から進化したが、進化の幅は「Pro」の方が大きい。

出典:アップル

もちろん、アップルはProを特別なモデルにするだけの理由もつくってきた。「カメラ」だ。

iPhone 12自体のカメラも進化している。HDRでのビデオ撮影も可能になった。だが、Proシリーズの進化はさらに大きい。

iPhone 12・miniは広角・超広角の2カメラ構成だが、iPhone 12 ProとiPhone 12 Pro Maxは望遠・広角・超広角の3カメラ構成になっている。特に大きいのは、周囲の環境を正確に計測できる環境センサー「LiDAR」を搭載したことだ。

LiDAR12Pro

3眼のカメラの右下端について黒いレンズのようなものがLiDARセンサーだ。

出典:アップル

LiDARはレーザーを使った距離センサーで、空間の立体構造を素早く把握するために使われる。アップル製品としては、今年3月に発売になった「iPad Pro」で採用されている。

LiDAR_iPad

iPad Pro実機のカメラ部。先行してLiDARを搭載したが、センサー形状は違うようにも見えるが……。

撮影:西田宗千佳

iPad Proでは空間把握能力の拡大を生かし、AR(拡張現実)の性能向上をアピールした。実際、これは大きな可能性を持つもので、iPhone 12 Proでも同様に有効だろう。

以下の動画はiPad Proでのものだが、これと同じことが「広く普及するiPhone 12 Pro」でできるのは大きい。


iPad ProでのLiDAR動作デモ。これと同じような機能がiPhoneでも使えるようになる可能性が高い。

しかし、今回、筆者が興味をそそられるのは、「写真や動画の撮影にLiDARを生かしてきた」ということだ。

例えば、素早く正確に空間把握できる能力を「ピント合わせ」に使うと、精度・速度を大きく向上させられる。アップルは暗いシーンにおいて、ピント合わせが6倍速くなる、としている。イメージセンサーは暗いシーンでのピント合わせが苦手なので、LiDARの併用は特にプラスだ。

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アップルはLiDARをiPhone 12 Proのカメラでピント合わせに活用する。暗いシーンでのピント合わせ速度は6倍高速になる、としている。

出典:アップル

LiDARのような空間把握用のセンサーをカメラのピント合わせに使うという発想は、なにもアップルの専売特許というわけではない。

実際、複数のスマホメーカーが取り組んでおり、特に日本では、ソニーモバイルが「Xperia 1 II」でピント合わせに特化したセンサーを搭載したことで知られている。前例から考えれば、顔などの狙った場所にピントを、より正確かつ素早く合わせやすくなるだろう。

3月にiPad ProがLiDARを搭載したときには、「カメラにも使っているのでは?」という予測もあった。だが、カメラの改善については「iPhoneという本命まで残しておいた」のかもしれない。

センサー大型化にセンサーシフト手ぶれ補正、Pro Maxは「もっとPro」だった

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アップルの製品比較ページより。同じProでも、iPhone 12 Proと12 Pro Maxでは大きく違う。

出典:アップル

そして、カメラについて、「Pro」と「Pro Max」の差が大きなものになったのもiPhone 12世代の特徴だ。

iPhone 11世代は「Pro」と「Pro Max」の差は主に画面サイズであり、まさにMaxサイズのiPhone、という意味だった。それが、iPhone 12世代では、「Pro」と「Pro Max」で搭載されるセンサーなどが大きく変わった。

11Sensor

iPhone 11世代では、ProとPro Maxはカメラの違いがなかった。Max=画面が大きい、という意味しかなかった。

出典:アップル

違いは、主にメインに使う「広角」のカメラに集中している。

Pro Maxでは広角カメラに使うセンサーサイズを47%大型化し、「暗い場所で撮るビデオの画質が87%向上した」(アップル)としている。

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iPhone 12 Proの広角カメラ。旧機種に比べ明るいレンズになったが、大幅に変わったわけではない。

出典:アップル

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iPhone 12 Pro Maxの広角カメラは、47%大きな新しいセンサーを採用、光量が少ないシーンで87%の改善が見込めるという。

出典:アップル

また、新たに設計した、「センサー側をずらす」方式の光学手振れ補正を採用した。これはいわゆる「センサーシフト方式」として、一眼レフカメラなどに採用されているものだ。毎秒の補正回数は従来比で5倍になっているとのことだが、低照度での手振れ防止に大きな効果を発揮する。

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センサー自体を上下左右に揺らして補正する「センサーシフト方式」手振れ補正を採用。従来に比べ、毎秒5倍以上の補正回数になっているという。

出典:アップル

さらにPro Max「望遠」カメラの光学ズームは、「広角」カメラ比で「2.5倍」になった。iPhone 12 Proは従来通り2倍のままなので、ここも大きな変化だ。ただし、望遠のレンズは多少暗くなっている。

スマホ向けカメラとして“圧倒的高性能”なのが「Pro」

ProRAW

アップルは「プロ向け」を志向し、写真ファイル形式の拡張やDolby Vison方式でのHDR撮影を採用する。

出典:アップル

これらは、LiDARまで含めて考えると、スマホ向けのカメラとしては圧倒的にハイスペックなものだ。

iPhoneでの「RAW」撮影をより柔軟にする「Apple ProRAW」という新フォーマットを用意し、Dolby Vison方式によるHDR動画撮影に対応するなど、写真にこだわりのある人やプロフェッショナルが「そのまま道具として使える」レベルであることをアピールする。

発表ビデオの中では、自動車やドローンにつけての撮影など、非常に厳しい状況での利用も見られた。そうした、通常カメラ撮影に躊躇しそうな場所でもプロの撮影に使える、ということを、特にiPhone 12 Pro Maxではウリにするのだろう。

Drone

ドローンでの映画撮影などへの利用も想定、手振れ補正機能の強力さをアピールした。

出典:アップル

iPhone 12 Proとの間でスペックに差が生まれたのはとても悩ましいことだが、「Pro Maxはさらに特別なもの」と位置付けるアップルの戦略、という見方もできる。

ストレージが128GBからに。「実質値下げ」も

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iPhone 12 Proはストレージの最小容量が128GBに。これで価格は変わらないので、かなりお買い得になった。

出典:アップル

iPhone 11 Proからの進化点として、もっとも安価なモデルのストレージ容量が「64GB」から「128GB」に増えた点にも注目して欲しい。

今回のiPhoneは、完全新モデルのiPhone 12 miniがiPhone 11と同じ価格であり、iPhone 12 Proは11 Proと同じ価格。iPhone 12 Pro Maxは、11 Pro Maxに対して1000円だけの値上げに抑えられている。

iPhone 12の最安価モデルのストレージ容量は64GBのまま。iPhone 12 Proシリーズのみ「128GBから」になった。従来128GBモデルがなく、「ちょうどいいところがない」との批判があったが、今回はそこを実質値下げのような形でカバーしてきた。

この点もハイエンド機種だからというだけでなく、「写真や動画を思う存分撮影する人」向けの配慮と言えるだろう。

これらのことを考えれば、「カメラは普通でもいい」なら12を、「スマホのカメラにはこだわりがある」人はProを、そして、「iPhoneをメインのカメラとしてガンガン使う」ようなこだわりのある人向けにはPro Maxを……ということになりそうだ。

(文・西田宗千佳)

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