2021年初頭にデビュー予定、フォルクスワーゲンの新型EV「ID.4」。
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- 2021年、独フォルクスワーゲンは新型プラットフォームを採用した初の全電動車「ID.4」をアメリカで発売する。
- アメリカでは多目的スポーツ車(SUV)が人気で、ID.4もガソリン車の「ティグアン」のような小型SUVとなる。
- ID.4は4万ドルからと攻めた価格設定になっている。
フォルクスワーゲンは2021年にデビューさせる新型電気自動車(EV)「ID.4」を、一時の賑やかしでなく、普段の生活で使いたい人のためのクルマにしようと考えている。同社はその目的を果たすため、4つの大きな決断を下した。
現時点で、本当の意味で実用的なEVに望まれるのは、広くユーザーに受け入れられる存在になることだ。実際、テスラはEVを普及させるために20年近く苦心してきた。
ただ、手ごろな価格で量産可能なEVという理想は長年語られてきたにもかかわらず、いまだに実現していない。ID.4はついに、そんな理想を現実のものとしてくれるかもしれない。
10月14日に正式発表されたID.4は、フォルクスワーゲンがアメリカ本土で発売する初の全電動車になる。
時速100キロに達するまでの猛烈な加速力を売りにするテスラやルーシッド・モーターズとは違って、ID.4は一般向けの普段使いのクルマであることを前面に押し出している。
より「大型」に
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全電動車は多くの消費者にとって相変わらず高額商品の類いであり、フォルクスワーゲンはその状況を変えるために、いくつか大きな変化の選択肢を選んだ。
第一に、アメリカの消費者は小さなクルマに対して過剰なほどの嫌悪感を持っているため、フォルクスワーゲンは自社開発のEV共通プラットフォーム「モジュラー・エレクトリック・ドライブ・アーキテクチャ(MEB)」を初めて採用した「ID.3 ハッチバック」をわざわざ持ち込もうとはしなかった(ヨーロッパでは今年6月に販売開始)。
より多くの消費者にEVをアピールする最も簡単な方法は、すでに注目を集めているスタイルに便乗することだ。
そこで、フォルクスワーゲンはアメリカでのEV展開戦略として、世界的人気車種「ゴルフ(Golf)」を上回り同社の世界最量販車となった「ティグアン(Tiguan)」とほぼ同じサイズの新車種を、最初に投入することにした。
ティグアンはホンダ「CR-V」やトヨタ「RAV4」のようなコンパクトSUVで、とりわけ後者は2019年の販売台数ランキングで4位に入った人気車種だ。
「極端さ」を避ける
「ID.4」のインテリアデザイン。
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ID.4は、未来からやってきたポッドのような奇妙な外観はしていない。派手な装飾がなく、紛うことなくフォルクスワーゲン。フロントグリルのような内燃機関車を思わせる伝統的な外観は健在で、ほとんど失われた要素がないというのも徹底している。
内装も、テスラやルーシッド・エアのようなスクリーンだらけのミニマリスムに流れていない。普通の人が使って楽しく感じられるような、シボレー・ボルト、日産リーフ、起亜自動車(キアモーターズ)ニロなど他社のEVでも採用されているデザインだ。
ID.4が大衆向けを狙っていることはとくに重要なポイントだ。極端になりすぎると、消費者に違和感を与えるおそれがある。
性能は必要十分、充電は無料
フォルクスワーゲン「ID.4」のプロモーション動画。
Volkswagen News YouTube Official Channel
当初、ID.4は後部にモーターを配置した後輪駆動車としてデビューすることになる。仕様としては、201馬力、最大トルクは228ポンドフィート、航続距離250マイル。並外れた数字はひとつもないが、いずれも(日常生活でのニーズを考えると)必要十分。
また、スケジュールの詳細は明らかになっていないものの、2021年中には302馬力、四輪駆動のID.4が登場する予定だ。
さらに購入者は、フォルクスワーゲンの子会社で、アメリカ最大のDC(直流)急速充電ステーション網を誇るエレクトリファイ・アメリカで、3年間無料の充電サービスを受けられる。
エレクトリファイ・アメリカの充電ステーションは今年2月時点で398カ所、テスラの「スーパーチャージャー」が756カ所には及ばないものの(「グリーンカーレポート」調べ)、ゼロからわずか20カ月あまりでその規模に広がっており、絶賛拡大中。2021年12月までにさらに800カ所の増設を計画しているという。
米エネルギー省の調査によると、EV所有者の8割は自宅で充電する。にもかかわらず、充電切れで立ち往生したくないと考えるからか、出かける先に充電ステーションがないと安心できないようだ。広くきめ細かい充電ステーション網は、購入者にとって魅力的で安心感を与えるものになる。
最安価格は4万ドルから
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最後に、何と言ってもID.4のアピールポイントは「攻めた」価格設定だ。
後輪駆動のID.4は3万9995ドル(約420万円)から。7500ドルの「連邦税額控除」の対象になるので、実質価格は3万2495ドル(約340万円)。これはガソリン車を含む新車の平均価格より安い。
フォルクスワーゲンは同車種を当初、ドイツ・ザクセン州のツウィッカウ(Zwickau)工場で生産するが、2022年には米テネシー州チャタヌーガ工場での現地生産も加わることにより、最低価格は3万5000ドル(税額控除後は2万7500ドル、約290万円)まで下がるという。
今日販売されている安価なクルマと同じ水準とまではいかないが、ホンダCR-VやトヨタRAV4のような内燃機関のコンパクトSUVに価格競争力で劣ることはない。シボレー・ボルトや日産リーフのような現在主流のEVに対してなら、確実に競争力を発揮できる価格設定だ。
フォルクスワーゲンは全米50州600店舗の特約店を通じてID.4を販売していく。近所のディーラーで購入したり各種サービスを受けたりできるのは消費者にとって大きな魅力になる。
「3万5000ドルで購入できる大衆向けEV」という発想は決して新しくはない。ただ、それが自動車生産の何もかもを知り尽くし、何十年もの実績を持つレガシー自動車メーカーから売り出されることに大きな意味がある。
地元メディアの報道によると、フォルクスワーゲンはすでにチャタヌーガ工場に26億ドル(約2700億円)を投じており、ここからEV生産に向けてさらに8億ドルを追加投資し、年間10万台以上のEVを生産できるようになるという。
(翻訳・編集:川村力)