発表会に参加した、歌手の倖田來未さん(左)と、マスコットキャラクター「コアラのココちゃん」。
撮影:西山里緒
2015年にオーストラリア・シドニーで創業、2017年に日本に進出したマットレスD2C「コアラ」は10月19日、2020年6月期の日本での売上高が前年比300%を超えたと発表した。同時に、日本で本格的に家具販売の進出を開始するという。コロナ禍の追い風を受けたマットレスのD2Cブランドの日本市場の“勝算”とは?
D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー):小売店や代理店に卸さず、インスタグラムやFacebookで消費者と直接つながり、自社EC(オンライン)のみで製品を販売するビジネスモデル。
24時間でインスタライブに切り替えた
ワインを載せてマットレスの上で飛び跳ねても、ワインがこぼれない —— 。
動画:コアラ・マットレス
SNSで発信された「衝撃の振動吸収性」をアピールした動画が話題を呼び、2017年の上陸から毎年、日本で前年比2.5倍増と売り上げを伸ばし続けてきたマットレスD2C「コアラ」。コロナ禍で成長はさらに加速し、2020年6月期の売り上げは前年比3倍となったという。
コロナで売り上げが伸びた背景にはどんな要因があったのか? ビジネスインサイダージャパンの質問に対し、Koala Sleep Japan 代表兼マーケティングディレクターのアダム翔太氏は「D2Cのカギは適応能力です」と自信を見せ、こう語った。
「大手の家具メーカーがマーケティング戦略をデジタルに切り替えるのに数週間・数カ月を要した中、コアラは24時間で(イベントを)インスタでのライブ配信に切り替えることができました」
自社ECのみで製品を販売する、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)のビジネスモデルはここ数年で一気に広まった。
アメリカでは同じマットレスD2Cの「Casper(キャスパー)」が2014年の創業後、ユニコーン企業となり、2020年1月に新規株式公開(IPO)を果たした。アメリカではマットレス市場は291億ドル(約3兆円)規模にもなると言われ、Casperの後を追って多くのマットレスD2Cがしのぎを削っている。
EC化率2割の隙をつく「家具D2C」
コアラ・マットレスの価格は7万2000円(シングルサイズ)。
撮影:西山里緒
アメリカでは「マットレスD2Cブランド」はすでに一大産業となっているが、アダム氏は「コアラは当初から(睡眠というカテゴリーにとどまらず)家具への進出を目指していた」と語る。
大塚家具や良品計画、ニトリやイケアなど、日本にはすでに多くの家具メーカーがあるが、まだ誰もが知る「家具D2C」は生まれていない。そこにこそコアラの勝機がある、とアダム氏はいう。
矢野経済研究所の2019年の発表によると、日本国内の家庭用・オフィス用家具市場規模は前年比100.2%の1兆383億円で、ここ10年ほど横ばいが続いている。
一方で経済産業省が2020年7月に発表した「電子商取引に関する市場調査」によると「生活雑貨・家具・インテリア」項目のEC化率は約23%。「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」の約33%と比較しても伸び代は大きい。
本国・オーストラリアではすでにイスや机などの「リビングルーム家具」の展開も進めているが、このタイミングで日本での家具進出を決めた理由は「日本での事業成長スピードが予想よりも早かったため」だという。
新しく販売する「コアラソファーベッド」も、「ワイン(ポップコーン)」を載せて飛び跳ねても大丈夫」をアピールする。
撮影:西山里緒
今後も実店舗を運営する予定はなく、あくまでオンラインのみの販売にこだわる。
「土曜の朝に朝早く起きて、郊外の家具のショールームに出向き、スタッフにもなかなか話しかけられない。それにショールームで美しく飾りつけられた家具は、例えば『9畳アパート』で暮らす多くの人の現実からはかけ離れている。そんな家具の購入体験を、変えたいのです」(アダム氏)
実店舗がない分、カスタマーサポートに力を入れる。家具全てに4カ月(120日)のトライアル期間を設けているほか、マットレスには10年、ピローやベッドフレームには5年の保証がついている。
サステナビリティに対する「日本の意識高まった」
ビジネスインサイダージャパンの単独取材に応じた、Koala Sleep Japan 代表兼マーケティングディレクターのアダム翔太氏。
撮影:西山里緒
もう一つ、コアラが大きな強みとしているのが、サステナビリティへの取り組みだ。
創業当初から世界自然保護基金(WWF=World Wildlife Fund)と提携。マットレスを購入すると、コアラを1匹保護することができる「コアラ里親プログラム」に取り組んできた。
「あまりに多くの人がマットレスを購入しているため(保護する)コアラの数が追いつかない。WWFの協力を得ながら(今取り組んでいる)オウム、そして絶滅危惧種のウミガメなど、保護種を拡大していきたい」とアダム氏は笑顔を見せる。
製造プロセスもサステナブルにこだわり、新たに発表されたソファーベッドは動物性素材を使わない「ヴィーガン家具」であるほか、木材もエシカルな手法で生産・加工・流通されたものを使用しているという。
アダム氏は、日本の顧客の意識の変化にも手応えを感じているという。
「オーストラリアでは以前からごく自然なことでしたが、ここ数年、日本全体でサステナビリティへの意識の高まりを感じています。例えば、違うカテゴリーでは(シューズのD2Cブランド)オールバーズも人気ですが、数年前だったら日本市場にここまで受け入れられなかったのではないでしょうか」
(文・写真、西山里緒)