ユーグレナ2代目CFOの川﨑レナさん。10月17日にユーグレナ本社で、新たなCFOとサミットメンバーが初顔合わせが行われた。
撮影:三ツ村崇志
10月19日、ミドリムシを使ったバイオディーゼル燃料などの開発を手掛けるバイオべンチャーのユーグレナは、2代目の18歳以下「最高未来責任者」(Chief Future Officer、CFO)として、大阪府在住の川﨑レナさん(15)の就任を発表した。
18歳以下の最高未来責任者を置く取り組みは、2019年から開始している。
川﨑さんは、CFOの業務として、ユーグレナのサステナビリティに関するアクションおよび達成目標の策定とその啓蒙活動、ユーグレナの株主総会や国内外のイベントへの登壇やプレゼンテーションなどを、業務として担っていく。
なお、達成目標を策定するうえで、同じく18歳以下の5人の「フューチャーサミットメンバー」と活動をともにすることになる。
未来の大人たちの提言で「ペットボトル全廃」を決定
CFOの提言に基づき、2021年中までにプラスチック製品の50%削減を掲げている。
提供:ユーグレナ
ユーグレナは、地球環境や健康に対する課題解決を目指す上で、未来を生きる当事者である若者の意見を取り入れる必要性を感じ、2019年から18歳以下のCFOの募集を実施している。
初代CFOとして選ばれた東京都在住の小澤杏子さんは、8人のサミットメンバーとともに、この9月末まで活動を行ってきた。
小澤CFOらの提言によって、ユーグレナは、2021年中までに自社製品から石油由来のプラスチック量を半減させる取り組みを進めることを決定。実際、この9月には、ユーグレナの商品ラインナップからペットボトル製品が撤廃された。
また、小澤CFOら1代目のCFO・サミットメンバーからは、現時点で実現している取り組みのほかにも複数の取り組み案が提示されており、ユーグレナとしても継続して取り組んでいくとしている。
ユーグレナは、この8月に企業理念を刷新し、ユーグレナ・フィロソフィーとして「Sustainability First(サステナビリティ・ファース ト)」を掲げた。
2代目のCFOおよび、フューチャーサミットメンバーの募集は、初代CFOらの取り組みを継承、アップデートしていくことはもちろん、ユーグレナ社のこの考え方をより加速させていくための取り組みだ。
「衝突しそうな車のブレーキを踏まない人はいない」
川﨑さんは、「最近、1人で行ってきた活動の成果が出てくるようになった」と話す。一方で、1人ではなく、同じような志を持つ人と一緒に活動することへの期待を持って、ユーグレナのCFOへ応募した。
撮影:三ツ村崇志
「私と同じような意識を持っている、会ったことのない人たちに会ってみたいと思い、CFOに応募しました。」
Business Insider Japanの取材に応じた川﨑さんは、今回のCFOへの応募のきっかけをこう語った。
川﨑さんは、Earth Guardians Japanという世界61か国に展開する国際的なNGOの日本支部の立ち上げに尽力、現在はその代表を兼任している。こういった活動を行っていく中で、「自分と同じようなことを考えている仲間が増えれば、その分、もっと違うことができるのではないか」という期待があり、ユーグレナのCFOへ応募したという。
18歳以下のCFOの募集は、8月31日まで行われていた。
ユーグレナのWebページよりキャプチャー
日本では、まだ「サステナビリティ」という言葉を自分ごととして捉えて行動している人は、それほど多くはないかもしれない。政府や企業が大々的にサスティナビリティに関する取り組みをPRしていたとしても、建前のように感じられてしまうケースも多い。
「政府や企業は、もう国際的なインタラクションが始まっていて、それをベースに現在のような取り組みが行われているのだと思います。でも、私もあまりSDGsのこと知らない時は、(企業の話を聞いても)何の話をしているのだろうとなっていました」(川﨑さん)
川﨑さんも、以前は国内で行われているSDGs(持続可能な開発目標)に関する取り組みについて、その意図まで理解が及ばず、「サステナビリティという言葉が嫌いでした」と語る。
この考え方が変わったのは、海外で活躍する同世代の活動家との交流や、国際的な会議の場へ参加した経験などが積み重なっていった結果だという。
世界共通の話題として、当然のように「サステナビリティ」の課題を話し合う様子や、政府や大企業相手に物怖じせずにその重要性を訴える同世代の活躍を見て、その重要性の認識が徐々に変わっていった。
「(国際会議では)そういう意識がすごい強く、日本はまだまだだなと感じました。ただ、日本人にしかできないことがあると思うんです。SDGsについてあまり学ばない環境で育ってきたからこそ、SDGsに関する視点も他の国と違うのではないかと思います」(川﨑さん)
日本では、学校教育の現場でSDGsについて触れられることが少ない。例え話題として取り上げられたとしても、表面的に触れるだけで、その課題意識を実感できることは少ない。
「車が衝突するの見えてるのに、そのまま進めば良いと思う人はいないと思うんですよ。そこでブレーキを踏むには、私達人類の1人1人の認識が重要だと思います」
川﨑さんは、地球環境の現状をこのように例える。
引き返せないギリギリのところまで進んでいるとされている地球環境の悪化に対する危機意識は強い。
だからこそ、より多くの人がこの危機感を共有し「ブレーキを踏む」ために、
「それ(サステナビリティ)が常識にならないと駄目だと思うんです」
と、川﨑さんは語る。
副社長の永田暁彦氏(左)、2代目CFOの川﨑レナさん(中)、社長の出雲充氏(右)。
提供:ユーグレナ
今後、CFOとして活動していく上で、川﨑さんは、
「1代目が行ってきたことを基本に、私たちにできることを考えるというのが第一の仕事だと思っています」
としながらも、
一方で、少し違うことをやりたいという気持ちもあります。
今回、環境以外のところにも興味をもっているサミットメンバーが集まっています。その視点を活かして何ができるのか考えた時に、『教育』に関することかなと思いました」
と語った。
「教育」と言うと多少語弊があるかもしれないが、ユーグレナを通して、社会にサステナビリティの考え方やその意味、うまくいった取り組みの例など、「知の共有」を図っていきたいとしている。
ユーグレナは、8月にコーポレート・アイデンティティを刷新。ロゴも新たにサスティナビリティへの取り組みを加速していく方針を示した。
提供:ユーグレナ
ユーグレナの出雲充代表は2代目のCFO就任前、Business Insider Japanの個別インタビューに応じた。18歳以下のCFOを採用したことのビジネス上のメリットについて、出雲代表は
「下手な言い訳ができなくなりました。大人だけで考えると、決定に付随する影響ばかり考えることが多いのですが、CFOを採用したことで、『一番大切なことは何か』に集中して考えることができた。
結果として、それが我々の考えるビジネス、“持続可能な地球づくり”に最適でした。
と語った。
サスティナビリティの考え方は、少しずつ、国内でも浸透し始めている。この動きは、今後ますます加速することになるだろう。その流れに置いていかれないようにするために、何が必要なのか、多くの企業が考えているはずだ。
「子どもは『未来』だという言い方をされることが多いですが、子どもは今を生きている当事者でもあります」(川﨑さん)
次世代の当事者意識は強い。
多様性が重要とされる現代とはいえ、単に多様性があるだけでは、何も生まれない。多様性を手にした社会、企業がそれをどう活かしていくのか、改めて現代の大人たちの手腕が問われている。
(文・三ツ村崇志)