ワーケーションなどに特化した「長期滞在宿泊」予約アプリ。ヤフー出身起業家がコロナ後見据え

ワーケーション

Shutterstock /tuaindeed

コロナ禍によってリモートワークが拡大、定着してきたことに伴い、新しい働き方として、働きながら休暇も楽しむワーケーションが注目を集めている。宿泊業界においても、コロナによる影響を少しでもカバーするものとして、新たな需要への期待は大きい。

こうしたなか、宿泊予約サービスを運営するCansell(キャンセル)が、長期滞在に特化した宿泊予約リクエストアプリ「Ellcano(エルカノ)」をリリースした。

「エルカノ」は3泊以上の長期滞在に特化。長期旅行、ワーケーション、ホテル住まいを対象としたサービスだ。利用者は一度に複数の宿泊施設に希望の予算や日程を直接伝えることができる。施設側は条件を検討し、利用者に返答。利用者は希望の宿泊条件に合った施設に宿泊できる仕組みだ。

現在、ホテルサンルートプラザ新宿など全国約200施設でサービスが利用可能。「GoToトラベル」の対象事業者にも含まれている。

アフターコロナを見据えた新事業

現在は点検のため撤去されている、お台場海浜公園のオリンピックマークのオブジェ

コロナ感染拡大のため延期された東京五輪。来年、開催することはできるのだろうか。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

キャンセルは2016年創業。キャンセルしたい宿泊予約を売買できるサービス「Cansell」を展開している。

代表取締役の山下恭平さん(35)は、人気の旧作映画を映画館で再上映するオンデマンドサービス「ドリパス」のプロダクトマネージャーを務めた。その後、2013年にドリパスがヤフーに買収されたことを機に、ヤフーに移籍。Yahoo!映画やGYAO!などの事業を担当した。

山下さんが「エルカノ」をつくったきっかけは、東京五輪の延期だった。

「3月にオリンピック延期が決定したことで、宿泊施設の予約キャンセルが急増し、Cansellの出品数は3倍に増えた。さらにコロナで観光産業の前提も変わった。もしかしたら、これからキャンセルポリシーの概念も変わり、Cansellというサービスが必要なくなるかもしれない。

生き残るためにコストカットなどという選択肢もあったけど、我々は宿泊業界とともに築いてきた実績を活かして、アフターコロナを見据えた事業を始めようと決めました」

「エルカノ」という名前は、「世界で使われるサービスにしたい」との思いから、歴史上初めて世界一周を成し遂げたバスク人探検家フアン・セバスティアン・エルカーノの名前からとった。

長期滞在分野には可能性がある

ホテルの部屋

コロナによる移動の自粛は旅行業界に大きな影響を与えた。中でも五輪需要を期待したホテル業界にとっては大きな痛手となった。

Shutterstock/Early Spring

創業して4年。2019年からは、世界150万軒以上のホテル比較検索サービスや、海外のホテル予約を出品できるサービスを展開するなど、着実に事業を拡大していた。

だが、コロナによって状況は一変。3月から予定していたグローバル展開の延期を余儀なくされた。山下さんは「ここ数カ月は激動だった」と振り返るが、コロナという危機によって挑戦もできたという。

「もともと長期滞在という分野には可能性があると思っていて、機会があれば挑戦したいと思っていた。数年前から『ホテルで暮らす』というサービスは出始めていたが、自分のイメージしていたサービスはなかった。

コロナの影響で宿泊単価が下がり、テレワークやワーケーション推進の動きが加速するなど、長期滞在がしやすい流れになっていたので、やるなら今だなと思った」

浅草の仲見世通り沿いの土産物店に貼られたGo To トラベルキャンペーンの宣伝紙。

Go Toトラベルキャンペーンに東京も含まれたことで、観光業界にはさらなる旅行需要の喚起に期待する声は大きい。

REUTERS/Issei Kato

新型コロナによって観光業界は大打撃を受けている。あるホテル関係者によると、「2月は前年同月比マイナス40%。3月から8月は、最大マイナス90%まで落ち込んだ」という。そんな中でホテルなどが期待するのが、ワーケーション推進の動きだ。

「エルカノ」に登録している宿泊事業者からも、「長期宿泊の需要喚起につながるのでは」と期待の声が上がっているという。

課題は「目的や定義が整理されていない」

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キャンセルの山下恭平さん。

撮影:松元順子

山下さんは「ワーケーションは休暇の分散化にもプラスになる」と利点を挙げる一方で、普及には、企業の労務管理など、さまざまな問題があるという。

そもそも立場によってワーケーションの目指すゴールも違う。例えば、観光庁は宿泊業界の支援が目的だし、誘致に熱心な地方自治体は地方創生の手段と考えている。ユーザーが求めているものもまちまちだ。目的が違えば、ワーケーション自体をどう設計するか、が難しい。

近場のホテルで過ごす「ステイケーション」や出張に旅行をプラスした「ブリージャー」という新たなワードも生まれ、定義も人によって異なる。「まずは、ワーケーションの目的や定義を整理する必要がある」(山下さん)という。

「仕事と旅行は完全に分けたい人もいれば、ワーケーションができない業種もある。ホテル側もワーケーション対応に整備が追い付いていないという問題もある。このような現状を踏まえたうえで推進していかないといけない」

ワーケーションを企業の福利厚生に

とはいえ、山下さんはワーケーションの効用に注目している。中でも“ヘルスケアの価値”に着目し、さまざまな企業と実証実験を行っていく予定だ。

「ワーケーションは、心身の健康に良い影響がある。社員の健康管理は、企業としても重要課題。健康への効果が確認できれば、企業の福利厚生としてワーケーションの導入が進むかもしれない。そのために、脳波や睡眠状態を測定するなどの実証実験に取り組んでいきます」

コロナによって、さまざまな宿泊予約システムが生まれているが、キャンセルは宿泊業界とともに築いてきた実績が強み。今後「エルカノ」が普及するには、利用者や宿泊施設がよりメリットを享受できる仕組みをどう進化させ、ワーケーション需要をいかに喚起できるのかがポイントとなる。

(取材・文、松元順子

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