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当初の計画から1カ月遅れの10月14日、アップルがiPhone 12シリーズを発表し、中国でも予約が始まった。
前機種のiPhone 11シリーズと2020年4月に発売したiPhone SE第2世代は中国でヒットし、コロナ禍による新機種発売の遅れも一定程度埋めたが、同国では5G対応エリアが広がっており、5G対応iPhoneが待ち望まれていた。
ファーウェイも10月下旬に新機種発表を控える中、iPhone 12はアップルの重点市場・中国でどの程度受け入れられるのだろうか。
アメリカに次ぐ重要市場
iPhone 6までは中国での販売は、日本やアメリカより遅かった。
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中国のアップル公式サイトやアリババなどの主要ECサイトは10月16日、iPhone 12とiPhone 12 Proの予約受け付けを開始した。iPhone 12 miniとiPhone 12 Pro Maxは11月6日に予約を開始し、13日に発売する。予約・店頭発売スケジュールは日本やアメリカと同じだ。
アップルにとって中国はアメリカに次ぐ2番目の市場だが、2015年に発売されたiPhone 6までは、発売日は日本やアメリカ、オーストラリアより遅かった。同年は元高円安基調を追い風に、中国人訪日旅行者が炊飯ジャーや温水洗浄便座を爆買いし、日本の小売業が彼らの消費力認識した年だったが、iPhone 6も爆買い銘柄の一つに入っていた。
中国で販売が始まっていないiPhoneを購入し、高値で転売をもくろむ中国人バイヤーたちが日本やオーストラリアのアップルストアに列をなした光景を覚えている人も多いだろう。iPhoneというブランドスマホを手に入れたい中高所得者は、転売屋にプレミアムを支払ってでも人より早く端末を手に入れようとした。
中国市場のポテンシャルに気付いたアップルは、iPhone 7の中国での発売日を先進国とそろえ、2018年発売のiPhone XS MaxとXRは、中国本土・マカオ・香港で発売する端末をデュアルSIM対応にするなど、特別扱いした。
iPhone Xの教訓と反撃
iPhone Xシリーズに比べて割安感を出したiPhone 11は中国で売れた。
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だが、iPhone Xシリーズは中国では思ったより売れなかった。iPhoneは代を重ねるごとに価格が上昇し、消費者もついてきたが、「X」ではその戦略が効かなくなった。iPhone 8シリーズとの価格差ほど魅力が伝わらなかったことに加え、ファーウェイやOPPO、vivoなど国産スマホのブランド力も急速に高まっていたからだ。
アップルは2019年1月3日、中国でのiPhoneの販売が低迷し、先進国でも新機種への買い替えが進まなかったとして2018年10ー12月期の売上高が当初予想よりも5ー10%低い840億ドル(約13兆円)にとどまる見込みだと発表した。同社が四半期決算発表前に売上高見通しを下方修正するのは、2007年のiPhone発売後で初めてで、アメリカの株式市場全体にアップルショックが波及した。
Xの不発はアップルにとって教訓になったのだろう。2019年9月に発表されたiPhone 11シリーズは、iPhone Xシリーズの同スペック機種と比べ、価格が低く抑えられており、中国では「安さが最大のサプライズ」と言われた。
中国では同年11月に5G商用化が始まり、各社が5G対応端末を売り出す中、iPhone 11は5Gに対応していないという弱点もあったが、消費者には大きな欠点とは映らなかったようだ。中国市場でiPhone 11シリーズは広く受け入れられ、2019年11月11日のネットセール「独身の日(ダブルイレブン)」では各プラットフォームの目玉商品となり、売れに売れた。
価格戦略がコロナ禍で強み発揮
2020年4-6月のグローバルでのスマホ出荷台数。アップルは3位ながら、目覚ましい伸びを見せた。
canalys
2020年は新型コロナウイルスによる世界的な外出自粛、テレワークの浸透で、IT企業にはおおむね追い風が吹いているが、全体で見れば経済・消費が低迷しているのは間違いない。
中国依存が強いアップルは中国市場の動向により揺さぶられている。
同社は同年2月17日、「iPhone製造工場の稼働停止」「中国のアップルストアの閉鎖」と、製造・販売の2方面の影響を理由に、1月28日に発表した1ー3月期の業績予測を下方修正すると発表した。翌18日の東京株式市場では、TDK、村田製作所など電子部品株や半導体関連株が急落。中国の経済麻痺はアップル経済圏を揺るがした。
一方で、第2四半期以降のアップルを救ったのも中国だった。
まず、中国でオンライン授業やテレワークが浸透し、2月以降iPadやPCの売れ行きが伸び始めた。欧米や日本で感染が拡大し、アップルストアが営業停止になるころには、中国の店舗は全面再開した。
コロナ禍からの消費回復をスローガンに例年より大々的に展開された6月のネットセール「618」では、iPhone 11と4月に発売されたiPhone SEが好調な売れ行きを見せた。
調査会社Canalysの調査では2020年4-6月、アップルの出荷台数が前年同期比11.2%増加したことが分かった。中国市場だけだと出荷台数は同35%増の770万台に達した。
サムスンが大幅に出荷台数を落とし、ファーウェイもトランプ政権の制裁を受け苦戦する中、「目玉は価格のみ」と言われたiPhoneがブランド力の底力もあって、選ばれたのだ。
Canalysのアナリスト、ビンセント・シルキ(Vincent Thielke)氏はリリースの中で、「アップルがここまで好調だったのは想定外」とコメントした。
秋商戦はファーウェイとの一騎打ちか
半導体の調達が難しくなり、スマホの製造に支障が出つつあるファーウェイだが、中国では市場をシェアを広げている。
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この追い風はiPhone 12にも引き継がれるのか。
中国のアップルストアの在庫状況を見ると、iPhone 12 Proは発送まで2ー3週間、発送までの期間が短いiPhone 12の64GBと128GBで5ー10営業日で発送となっており、手に届くのは早い人で11月初めになりそうだ。
アリババのECサイトTmall(天猫)とJD.com(京東商城)のアップル公式店舗でも予約日に在庫切れとなり、現地メディアによると機種によっては1分で品切れになったという。
iPhone 12の予約開始は10月16日午後8時だったが、「予約」の「予約」として前倒ししたECサイトもあり、ラオックスを傘下に持つEC大手の蘇寧易購は16日午後6時時点で、iPhone 12の予約が92万台、iPhone 12 Proの予約が52万台入ったと公表した。最も人気があるのは「iPhone 12 128G ブルー」だった。
モルガンスタンレーの調査によると、中国のiPhoneユーザーの68%は2年以上端末を使い続けており、「同一端末を2年以上保有しているiPhoneユーザー」の比率は2018年から8ポイント、2017年から20ポイント上昇し、この4年で最高値となっている。
中国工業情報省傘下のシンクタンク、中国信息通信研究院は10月13日、9月のスマートフォンの国内出荷台数が前年同月比35.6%減の2333万4000台だったと発表した。
買い替え時期にあたるユーザーの多くが、iPhone 12やファーウェイが10月22日に発表予定のMate 40シリーズなど新機種の発売、そして独身の日のセールを待っていることがうかがえる。
調査会社IDCの調査によると、2020年前半、中国の600ドル(約6万3000円)以上のスマホ市場で、ファーウェイのシェアは44.1%、アップルが44%でほぼ拮抗していた。また、調査会社Counterpointによると、中国のスマホマーケットで出荷された5G端末の比率は、2020年1-3月に16%だったのが、4-6月に33%に急増。4-6月に中国で出荷された5Gスマホの6割はファーウェイブランドだった。
iPhoneブランドとしては妥当な価格、5G対応、そして買い替え時期のユーザーの多さからiPhone 12シリーズが売れるのはほぼ間違いないが、米政権の規制によってグーグルのアプリを搭載できず、中国にしか活路がないファーウェイも国内市場を全力で取りに来ている。両ブランドのどちらがより支持を受けるのかは、11月の独身の日のセールである程度見えてくるだろう。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。