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【ニューノーマルの時代・明石市長】前例、横並び、お上主義では間に合わない地方のコロナ対策

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撮影:三木いずみ

コロナ禍では、地方自治体の首長の力量が改めて問われている。国を待たず独自の施策をいち早く立ち上げる首長たちが注目を集めたが、兵庫県明石市の泉房穂市長もその1人。4月には個人商店への家賃援助や困窮学生への学費援助など市独自の経済支援策を実施した。

「困っている人を誰1人置き去りにしない」と訴え、子育て家庭、障がい者、犯罪被害者支援などに注力し、8年連続で人口増・6年連続で税収増を果たす。市職員への暴言で一度は辞職したものの、出直し市長選で圧勝して復帰した。

コロナ対策で自治体は何をすべきだったのか、今後地方の活性化に必要なこととは?首長に求められる“ニューノーマル”を聞いた。


——コロナに対する経済支援策として、明石市独自の「17の支援策」(下図参照)を打ち出されました。市民からの評価が高いのは何ですか?

泉房穂氏(以下、泉):学費と家賃ですね。反応が非常に多いです。必要な時期までに必要な金額を得られる。この2つの要素が大きいと思います。

今回、個人商店であれば3月には売り上げに影響が出始め、家賃を危ぶむ声を直接聞いていました。3月と4月、2カ月分の家賃を必要としている人も多く、とにかく4月の家賃の締め切りまでに2カ月分の家賃を無利子・無担保で支援しました。

学費は前期分の納付の締め切りが5月末に延期になったところが多かったけれど、アルバイトができず、こちらも困窮する学生の声が日々寄せられました。最初は大学院から高校まで上限50万円でしたが、最終的に上限100万円を貸与し、明石市が本人に代わって学校に直接振り込む形で支援しました。

コロナ対応のために人事異動13回

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明石市が打ち出した17の支援策。

明石市役所HPより

——コロナ対策では国の支援のスピードが遅いと批判されました。自治体によっても対応の速さにかなり違いが出ましたが、なぜ明石市では早い対応が可能だったのですか。

泉: できないとしたら、恐らく「できない」という間違った思い込みがあるからです。「これまでどおりの手順でしなければいけない」という前例主義。「他のところがやっていないのに勝手にやったらあかん」という横並び主義。「国がOK出していないのに勝手にできひん」というお上意識。この3つの思い込みに縛られているからできない。

でも、海で溺れかけている人を見て「助けていいですか?」と周囲にお伺いを立てますか? 溺れかけた市民がいるのに溺れてしまった後に助けに行ってもしょうがない。「助けていいですか?」と県や国に問い合わせしていたら、返事が来た頃には、もう溺れ死んでいる。

実際やると決め、準備さえきちんとしたらできます。

——準備とは?

泉:例えば、4月中に家賃2カ月分を渡すためには、そのお金を用意せなあきません。明石市では議会をすぐに開いて予算を通しました。つまり手続きのための手続きをすぐにするだけ。実際4月以降、コロナに対応するため、毎月補正予算を組むための予算会議を開いています。議会さえ通れば、その翌日には申請を受け付けられる。家賃の支援金も申請の2日後に振り込むことができました。

国から支給される特別定額給付金の10万円も、明石市ではスタートした5月1日の翌日から、本当に生活にも困っている方には現金で市役所で手渡しました。全員銀行振込にこだわっていたら、できなかったかもしれません。配布方法は自治体に任されているので自治体判断で決められる。

やったことのないことをするわけですから、対応する新しい部署に集中的に職員も集めなければなりません。4月以降、13回の人事異動で対応しました(10月23日現在)。これもコロナ前から忙しい部署・忙しい時期に適切に人材を配置できるよう、異動は頻繁に行っていたからできたことです。

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海などの自然にも恵まれた明石市。世界最長の吊り橋、明石海峡大橋を臨む大蔵海岸(撮影はコロナ前)。

提供:明石市役所

——職員から「仕事についていけない」などの不満や不安の声はありませんか?

泉:職員も慣れたものでよく対応してくれていると思います。頻繁な人事異動には、みんなもう全然驚かないので。

実際、市長が方針だけ出してもダメで、人事異動が伴わないと実行できないことは現場のほうが分かっています。忙しい時にみんなで手伝いに行って、山を越えたら違う部署に移っていく。合理的で働き方としてもより平準化されます。今回もすぐに優秀なエース級の人には(コロナ対応の部署に)行ってもらいました。そこにお金も集中的に投下することも必要です。

もう1つ、コトを動かすには市民の拍手や「頑張れ」という声援、理解が不可欠です。方針・人・お金・声援の4つがそろえば、ほとんどのことはできる。逆にできないことはほとんどない。17の支援策もすべて市民の生の声、求めに応じて実施したものですから、その点でも「できない」ということはない。

「お金がない」のでなく「どこに使うか」

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所得制限なく幼保無償化するなど、明石市では子育て支援に力を入れている(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

——「予算がない」「ほかに優先事項がある」などの抵抗はなかったのですか?

泉:「お金がない」というのも、私に言わせると思い込みです。よく考え直せば、お金がないわけがない。市民の皆さんは働いて一定額の税金を納めてくださっているのだから。なので、どこにどう使うかの工夫をすることが市役所の仕事です。

明石市は所得制限なしで幼保無償化の支援をしたり、養育費不払いに悩む1人親に代わって市が立て替えと取り立てを行ったりするなど、子ども支援は力を入れている政策の一つですが、子どものための予算は先に確保しています。その後で他の予算額を決めるという工夫をしています。

さらに、その時に大事なことは分断をあおらないということです。例えば「日本は高齢者にばかり金を使う」という意見が散見されますが、高齢化社会に高齢者の支援は子ども支援同様に欠かせないことは明らかです。

明石市では今、こども食堂も「お年を召した方もお越しください」と言って「みんな食堂」に変えていっています。給食センターを建て、子どもたちだけでなく、高齢者の方のお昼として施設や家に持って行ってもらうためです。子ども支援のみが注目されがちなのですが、明石市の子ども施策は、高齢者への支援であり、高齢者を介護する家族の総合支援であり、みんなの支援なのです。

みんなの支援であることが明石市の市政の基本哲学に関わる最も大事なポイントです。コロナの「17の支援策」も同じ。「誰かのために誰かが犠牲になる」ではなく、「みんなハッピー」になるように構図を描く必要がある。

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児童相談所は、駅前のアクセスしやすい場所に新設された。

提供:明石市役所

——経済支援策については、市長は著書の中で「現金は分断を生みやすい。支援の基本は現物支給で」ともおっしゃっています。

泉:はい。10万円の現金を手渡ししたように、経済的に苦しい方々に現金での支援策をすることはあります。でもこれは緊急政策で、子ども施策の類ではそういうことはしません。子ども施策は経済的に困っている人への支援と違い、社会の将来のための投資だからです。そのため支援は基本的にサービスの負担軽減に特化します。ベーシックインカムではなく、ベーシックサービスです。

同時に所得制限をしない。貧困家庭の子だから助けるわけではない。全ての子どもに対しておむつ代や給食費など等しくかかる出費を抑えられるようにする。例えば、おむつを無償宅配する「おむつ定期便」などを実施してします。実際、この方が現金を渡すよりも、子どものことに本当に使われるので、子ども自身を助ける効果は高い。市民の理解も得やすい。

リモートワークで変わる産業構造

——明石市はこれまで工場や企業を招致する産業振興政策はせず、近くの神戸市などに働きに出る人たちの生活を支援することで地域を活性化する方向性でした。しかし、コロナを経てリモートワークが広がるなど新たな働き方が生まれ、これまでにない産業振興も考えなければならない状況では?

泉:明石市にテレワークセンターのような施設を整備し、無償でお使いくださいという案などは考えられます。明石市民は電車通勤をしてきましたが、通勤せず明石で働くことも可能になってきた。パソナも対岸の淡路島に1000人以上移ってきます。兵庫県の産業構造は大きく変わり始めています。

一方で、最近、私自身は農業や漁業施策の勉強を始めており、産業振興であれば、農業・漁業に力を入れたいという気持ちが高まってきています。明石市はもともと農業や漁業が盛ん。ITツールなどでより流通構造も柔軟性が出てきた。

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リモートワークが定着してくると、働き方だけでなく産業支援策にも影響が及ぶという。

Shutterstock.com/mapo_japan

——今後のコロナ対策ですが、医療面を含め、自治体としての方針は?

泉:感染対策について特に考慮しなければいけないのは、兵庫県でも神戸市のような大都市圏もあれば、淡路島のような島もある。同じ県内でもとるべき感染対策は違うので、原則都道府県主導型にしたほうがいいと思っています。明石市は幸い人口が増えて中核市になったため、保健所を2年前に設置しました。市の独自の感染対策は可能です。しかし、多くの市町村は自ら感染対策できる権限や機関がありません。

市町村が連携しやすいように都道府県が感染対策を主導し、暮らしに近い立場にいる市町村は生活支援、セーフティネット、困りごとに対応するという役割分担が必要だと思います。そのために都道府県や一定規模の市町村に権限と責任、財源をセットにして任せる。地方もそれを引き受ける覚悟を持つ。全国一律にこだわると、必然的に対策を打つスピードも失われると懸念します。

自治体は権限がなければ決断もできない

——菅首相は地方創生を重要政策の一つに掲げています。実際に地方創生に尽力してきた立場から、改めて国に対して求めたい地方へのサポートは?

泉:子どもがいい歳になっているのに、「これを買いなさい」といつまでもお小遣いもろうてるだけの状態。今の国と地方の関係はそれに近いです。そんな子どもに「頼りないやつや」「決断力がない」と言ったって、権限がなかったら決断もできません。

中央集権政治が成り立つのは、人口が増え、税収が増えるときです。中央からお金を配り、「10のことをしてください。10のお金をつけます」「来年は11のことをしてください。11のお金をつけます」で、右肩上がりの時代は効率よく回った。でも、今お金は9、8に減っている。「申し訳ないけど、お金は8しかないけれど5だけやってもらって、あとの3は自由に使って」という時代やと思うんですね。

自治体の首長は市民を見ずに、国の方ばかり向いて都道府県の指示をただ待つではダメ。何か対策を打たねばという時に、過去や他の町の成功事例の資料ばかり読み込むのもダメ。今を見る。隣町ではなく、我が町を見る。国を見るのではなく、市民の顔を見ることが求められていると思います。

——最後に。職員への暴言で一度辞職、再選・復帰されてから、アンガーマネージメントの研修を受けているそうですね。首長には自分を客観視し、自分の正義を押し付けないということが人一倍求められるかと思いますが、アンガーマネージメントのコツは何だと学びましたか?

泉:1つは自分の特性をよくよく知ること。自分の正義が強いとね。やはり怒りやすくなりますわね。いろいろな本を読んだり、ノートをつけたりして、自分を相対化して見る癖をつけるようになりました。

もう1つは、対処療法ですけれど、腹が立ったらとにかくトイレに行くようにしています。トイレに行くと1人になれますから、自分を見つめ直しやすい。本当にもう、やたらトイレの数が増えていますけどね(笑)。

(文・三木いずみ)

編集部より:初出時、コロナ対応のための人事異動を12回(10月23日現在)としておりましたが、13回の誤りでした。訂正します。 2020年10月24日10:10

泉房穂:1963年明石市生まれ。東京大学教育学部卒業後、NHKにディレクターとして入局。その後、衆議院議員秘書を経て、司法試験に合格。1997年から明石市内を中心に弁護士として活動。2003年に衆議院議員に当選。2011年に無所属で明石市市長選に出馬し、市長に就任。現在3期目(当選回数は4回)。全国市長会社会文教委員長などを経験。社会福祉士の資格も持ち、特技は手話と柔道。明石タコ検定初代達人。

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