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ソニーのCEATECオンライン出展に見る期待と課題…鍵は「リアリティ」「リモート」「リアルタイム」

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CEATEC 2020のサイト。今年はこのサイト上で展開する「オンラインイベント」になる。

出典:「CEATEC 2020」サイトのスクリーンショット

2020年、大規模展示会はほとんどが中止もしくはオンライン化した。

10月20日に始まった日本最大級のテクノロジー展示会「CEATEC 2020」も、今回は完全なオンライン開催だ。

オンライン展示会は、集客の設計が非常に難しい。後述するが、CEATECもそのジレンマから逃れられていない、と筆者は感じている。

一方で、この状況下、例年以上にCEATECに力を入れた企業もある。それがソニーだ。オンラインのCEATECブースでは、同社のビジネスに関わる12本の特別な動画コンテンツを先行公開している。

なぜソニーは、この難しい時期にCEATECに力を入れたのか? 公開された動画から読み取れる「力点」を分析してみた。

ソニーをめぐるCEATECの紆余曲折

ソニー・CEATECブースティザー動画。気になる新技術を「チラ見せ」している。

提供:ソニー

実は、ソニーとCEATECの間には紆余曲折の過去がある。

ソニーは2013年にCEATECから「撤退」。その後2019年、メディカル事業に特化した展示でCEATECに「復帰」した経緯がある。今年はメディカルに限定せず、全社の領域でCEATECに参加した……という形になっている。

2020年から、CEATEC主催者の一角である一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の会長に、ソニー代表執行役副会長の石塚茂樹氏が就任した、という事情も無関係ではないだろう。

また、ソニーとしては、同社が現在スローガンとして掲げる「3Rテクノロジー」というテーマをアピールする意味合いもある。

ソニーが打ち出した「3R」とは何か

3Rとは、「リアリティ(Reality)」「リアルタイム(Real time)」「リモート(Remote)」の3つ。

このコロナ禍において重要度が増した要素ではある。これらを実現する技術はソニー社内に多数あるが、「それが伝わっていないのではないか」(ソニー広報部 山藤大地氏)という危惧があったという。

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オンライン版CEATEC 2020の「ソニーブース」。同社の現在のキャッチフレーズである「3R」を軸にしている。

そこで、ソニー社内で開発中の3R関連技術を12本のビデオにまとめ、CEATEC内で「展示」する形をとった。

動画コンテンツに出演するのは、すべて直接の担当者で、エクゼクティブなどの姿はない。発売時期や販売目標など、「数字」の話もない。あくまで、「今なにをしていて、そこにどのようなメッセージがあるか」を伝える形になっている。

こうした「イベントでは製品よりメッセージとソリューションを伝える」というスタイルは、コロナ禍直前の海外展示会となった2020年1月のCES2020と同じものだ。

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サイト内には細かな説明はなく、12本のPVが置かれている。

出典:ソニー「CEATEC 2020」出展ブースのスクリーンショット

なお、このビデオは後日YouTubeでも一般公開される。CEATECは「先行公開」にあたる。

ロボットとネット技術で創り上げる「次世代ライブ放送」

12本のビデオから、特に興味深い動画を選んでみよう。

ひとつめは「ライブエンタテインメント」。

ライブハウスなどでの興行が難しくなり、オンラインへと舵を切ったアーティストが多いが、そこには「観客は入れないのに、スタッフの数はコンサートと同様、もしくはそれ以上に必要」という課題がある。規模の大きなアーティストでないと、クオリティを担保したものをやるのは、難しい。

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無観客ライブが増えたが、規模の大きなアーティストでないとクオリティ担保が難しい。

出典:ソニー「CEATEC 2020」出展動画のスクリーンショット

それを課題と考えたソニーは、「どんなアーティストでもできる」スタンダードを作ることを狙った。

具体的には、ソニー・ミュージックエンタテインメントの子会社で、コンサートホールを運営する「Zepp」の施設に、ネット配信の施設を導入した。中には、ロボットを使った「自動配信」の仕組みもある。そうしたインフラを構築することで、配信規模の問題を解決しようとしている。

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ロボットを使ってステージ上を撮影することで、遠隔自動配信を、少人数・低コストで実現する。

出典:ソニー「CEATEC 2020」出展動画のスクリーンショット

そして、そこに関わってくるのが、インターネット技術による配信ネットワークである「IP Liveソリューション」だ。

過去、放送局やスタジアムの中には、専用の放送機器が多数導入されていた。だが、デジタル化・コンピュータ化が本格的に進んだことで、そのコアはコンピュータネットワークそのものになった。

その構築は、ソニーやパナソニックなど、放送機器を手がけていた事業者には必須のもので、もう長く取り組んでいるテーマである。

それが、コロナ禍ではさらに重要になってきた。なぜなら、各地に移動し、そこで働く人員を最小化する必要があるからだ。従来のように、放送車を送ってたくさんの人員で……というわけにはいかなくなりつつある。ライブ配信における問題点と同じだ。

そこで、現地と放送局をインターネットでつなぎ、オペレーションの多くを放送局のほうで行う形をとる。そうすることで、スポーツやイベントなどのライブ制作であっても、距離を気にすることなく、コストを圧縮できる。

ただし、ネット経由の場合、いかに安定的な接続を維持するかが問題になる。その点については、先日子会社化したノルウェー・Nevion社の技術を活用する。

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配信の現場と放送局をネットでつなぎ、基本的な操作はすべて放送局側で行えるようにすることで、コストと「三密回避」を実現する。

出典:ソニー「CEATEC 2020」出展動画のスクリーンショット

投げたボールの「縫い目と回転」方向まで認識、スポーツ×映像技術でマリノスと提携

もうひとつ面白い例が、スポーツ中継向けのテクノロジーだ。

ソニーは2011年、映像を使ったスポーツの「判断補助」技術を得意とするホークアイ社を買収、以来、映像による審判技術などに広く活用している。

もともとはクリケットから始まった技術だが、今はサッカーにテニス、野球と広がり、業界標準的な位置付けになっている。2020年からはメジャーリーグ(MLB)でも導入され、全球場で使われている。

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ホークアイの利用例。テニスのUSオープンでもライン判定に利用され、「人の密集」を防いだ試合展開が実現された。

「映像による判断補助」というと、サッカーにおける“ラインを割った・割らない”といった「ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)」が思い浮かぶ。しかし現在はさらに多彩な解析が可能になっている。

例えば、ピッチャーが投げた球の回転数や回転方向を認識したり、プレイヤーの動きをすべて映像解析し、CGで再構成したりすることも可能になっているという。

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ホークアイを使い、ピッチャーが投げた球の「縫い目」を映像解析、回転数や回転方向まで認識する。

出典:ソニー「CEATEC 2020」出展動画のスクリーンショット

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プレイヤーとボールの動きはすべて映像から解析可能なので、そこからCGモデルを作り、好きな方向から再チェック……ということも可能になった。

出典:ソニー「CEATEC 2020」出展動画のスクリーンショット

こうしたことは、当然ながら、スポーツ中継で付加情報として使われ、我々を楽しませてくれる。さらには、競技者自身も活用するようになり、より高度なプレイの習得などに生かされていく。

ソニーは10月14日、横浜・F・マリノスを運営する横浜マリノス株式会社と、パートナーシップに向けた意向確認書を締結したと発表した。これも、ホークアイのような技術を使ったスポーツ中継の提案と、選手育成へのテクノロジー活用を前提としたものである。

このように、テクノロジーは相互につながり合い、新しい価値を提供できる。ソニーとしてはそうした姿をアピールしたいのだろう。

確かにそれは、従来の展示会では難しい。ビデオを使った「ストーリーテリング」が重要になる。

CEATECという機会を使ってビデオメッセージを作った狙いは、そんなところにありそうだ。

(文・西田宗千佳)

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